ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第64節 険しき職人道

 とにかく、あいつらについてはしばらくは安静にしてもらって、 それからどうするか考えたエメローナ。医者と話を続けていた。 その後、案内されたのは――
「やはり、シルグランディア様……いえ、シルグランディアとあらばこちらをご案内せずにはいられますまい」
 様をつけんな――深く浸透しているのか。案内されたのは工場だった。
「なによ、私にどうしろって?」
「いえいえ、ちょっとしたお願いでございます、是非とも訊いてはくださいませぬか?」
 何をだよ、エメローナはそう思っていると――
「おい、そこの華奢なナリをした姉ちゃん! ここは男たちの肉体労働の場だ!  女はお呼びじゃねえんだよ! ささ、どっかに行きやがれ!」
 と、恐らく親方らしき男がそう言った、なんだこのクソ男は……エメローナは悩んでいた。すると医者が――
「御覧の通りですよ。 このせいで見るからに線の細い精霊族は立ち入り禁止とばかりに掛け合うことすら許されんのです」
「精霊イビリってこと?」
「そう言うことですね、精霊シルグランディアに憧れた若い精霊が鍛冶師を目指そうとここの工場の門をたたいたのですが、 つまりはそう言うことですね。ですから――」
 と、医者は言うが、エメローナはわざと声を大にして――
「なるほどねぇ? 確かに見る限り、ここにいる連中は威張っている割には大した作品は作れてないみたいだしぃ?  つまり、こいつらの性根の腐った根性を私の手で叩き直してほしいってことね?」
 はっきりと言ったエメローナ、すると、そこへ男たちが――
「おい、そこの女――」
「なんだなんだぁ?」
「おいおいおい、今のは流石に聞き捨てならねえなぁ? 見逃してやるから大人しく出てけよ?」
 と、クレームをつけていた。
「はぁ? 私はただ、本当のことしか言ってないんだけど?  例えばそうねえ――この刀剣みたいな形状している代物とか?  こんなナマクラでまさか金取ろうとか考えたりしないわよねえ?」
 すると、親方が――
「なあ先生、あんたの知り合いかぁ? なんでこんなクソ生意気な女を連れてきたんだぁ?」
 医者は答えた。
「お前たちにホンモノというものを教えてやろうと思ってな。 それに――生意気な女など不用意に言っちゃいかんぞ、 彼女にしてみればそれは腕を認めたことと同義での」
 すると――
「お、おい!」
 1人の鍛冶師から仕事を取り上げたエメローナ。
「うるさいわね! ヘタクソの分際で私に楯突くんじゃないわよ!  いいからそこで指くわえて黙ってみてろクソガキが!」
 なんだと! 男は反抗するも、彼女はささっと作業を続けていた。
「ふふふっ、そうとも――彼女の存在があるからこそ儂らの商売は成り立つと言ってもいいのじゃ、 お前さんたちにもその業というものを見せてやろうぞ――」
 医者は得意げになっていた。

 ということで御想像の通り、手のひらクルーである。
「すまねえ、姐さん! まさかこんなに腕のいい鍛冶師だったなんてなあ!」
「すげえ……俺もこれだけの業物が作れるような鍛冶師になりてえもんだ……」
 だが――
「ふん、私のこんな――ナマクラ見てすごいなんて言っているようじゃまだまだ甘いわね!」
 すごいの作ってナマクラ言うなよ、だったら他の人のはただの鉄くずじゃないか。
「いいこと? 私が今やった仕事ってのはあくまでまだ道半ばなのよ?  職人道に終わり無し! 生きている限り日々修行の連続! 昨日よりももっといいものを作ろう!  この世界はその繰り返しなのよ! そこんとこわかってんのかしら!?」
 はい! 姐さん! 男たちは心を入れ替えて作業に当たっていた。
「しっかし、医者先生にはこんなにいい腕をした職人様が知り合いにいるとはな……」
「はっはっは! まあ……業界を志す精霊族にしてみれば結構身近な存在なんじゃがな。 まあそう言うことじゃて、これからは精霊族だからとて門前払いをくらわすのはやめにしてはいかがか?」
「うーん、まさに力ではなく技の世界による極意ということか、あの業物には本当に恐れ入った、 種族や見た目だけで判断するのはやめにしよう、断った連中にはすまないことをしたな――」
 ということで、ここの工場には精霊シルグランディアの加護が得られることになりそうだ。
「これでどうっすか、姐さん!」
「あら! 随分と上手に作ったじゃない! 模造刀!」
「模造刀……!? いえ、あの、これ――」
「はぁ!? 真剣だってか!? んなわけねえだろうがよ!  こんなんが戦いで1日2日も持つわけねーだろうがよお!  いいか! しっかりとそこで持ってきちんと構えてろ!  テメェの作った模造刀なんぞ、こうして、こうして、こうだあ!」
「そ、そんな壊さなくたって! そんなことしたら壊れるに決まっているじゃないですか!」
「決まっているわけねえだろうがよ! この程度で壊れるんじゃあそいつはただの失敗作だ!  いいか! 戦いってのはこういう世界なんだよ! これに耐えられないようじゃあ実用品としての体を成さねえんだよ!  わかってんのかそこんとこ! あぁん!? んなこともわからねえんじゃあ鍛冶師なんて今すぐ辞めちまえ!」
 親方と医者はその様を見て絶句していた。
「すごい……」
「まあ……正直なところ、彼女の所業については誰もマネができることではありませんからね、 だからとにかく逆らわずに食らいついていく……まずはそれぐらいのことしかできないんだと思いますね……」
 職人の世界はとにかく厳しいということだな。