エメローナは”レンドリア”の町までやってきた。
「大昔は”レハレンダ”って呼ばれていたのに……
けど、その当時から変わってない長閑な町よね――」
そう、都会の町という装いはなく、まさに長閑な田舎の町でしかない街並みである。
「クロットはここから西、エンケラスはここから南よね?
どっちに行こうかしら――」
彼女は考えていた、すると――
「おい! どうした! 何があった!」
男たちが叫んでいた、何故か満身創痍になっている男たちがそこにいた、
いや、私、何もしてないんだけど――そう思っていたエメローナ、本当か?
「一体何があったんだ? ほら、水でも飲めよ――」
と、介抱しているが、満身創痍の男は――
「お、おい! しっかりしろ! 何があったんだ! おーい!」
死にかかっていた。
「どーれ、ちょっと見せてみなさいよ。」
そこへエメローナ、すかさず男の容態を確かめていた。
「おっと、これは――あんた! なんでもいいから近くの宿屋に話をしなさい!
あんたはこの町の医者を探して! いい! さあ、ほら行きなさい!」
エメローナはそう叫びだすと、男たちは言われた通り、散り散りになっていった。
「ちょっと待ってなさいよ……」
すると、エメローナは精神を集中させ――
「風の精霊よ……こいつらがアビスに行く前に話を聞かせなさい――リターン・ブリーズ!」
いや、その詠唱、どう考えてもおかしいよ。
「うっ……!? あ、あれ……?」
「な、なんだ……?」
「お、俺達は一体……?」
3人は息を吹き返した、だが――
「あらら……どうやら残りの3人はアビスに行っちゃったみたいね――」
アビス行き決定なのかよ。ともかく、6人中助かったのは半分の3人だったということらしい。
「ぐっ……痛ててて……」
だが、それでも3人は辛そうにしていた。
「こーら、無理しないの。
今私がやったのは蘇生魔法、つまりあんたたち、あともう少しで死神に連れていかれるところだったのよ、
惜しいことしたわねぇ……」
ええそんな――やってもらった行為についてはありがたく受け取りたいところだが、
それでもその発言については悩むところである。
宿屋のベッドに担ぎ込まれた3人、医者もそこへやってくると、医者は舌を巻いていた。
「ふぅむ……これはなんとも強力な回復魔法でなんとか一命をとりとめたもんだな――」
「わかるの?」
エメローナは訊いた。
「しかも風のマナの力、あんたに渦巻いているそれを見るに、どうやらあんたの力のようだな。
これぐらいのことわかるに決まってんだろ、伊達に医者を80年もやっとらんわい」
つまり、この医者もまた精霊族ということらしい。
「しかし、魔法だけに過信せずに医学の力を頼ろうという考えは正解のようだな、
これ以上を魔法でやろうと考えるのは骨が折れる芸当、後は儂に任せろ」
すると、エメローナは言った。
「そりゃそうよ、私としても見るからに魔法に頼れる治療、
医学に頼ったほうがいい治療、そのぐらいの判断はできるわよ。
なんなら手伝おうか? 3人もいるんだし、1人でやりきるのは大変よね?」
マジかこの女――。
翌日、エメローナと医者は話をしていた。
「まさか精霊シルグランディアの力を借りていたとは……」
医者は唖然としていた、バラしたのではなく、
「あら! 私って意外と有名人?」
「技術分野においての加護といえば精霊シルグランディア以外にはおりません。
それに精霊界でも破天荒を絵に描いた女で型破りが信条、
それでいてなおかつ魔法知識からあらゆる技術知識への造詣と才を持つ……
風の使い手で男ときたら見境なくぶっ飛ばそうとする気概のある女、見た目に反して――
これだけの要素がそろっていれば本人を特定することは容易なものです」
すごい! 全部あたっている!
「なによ? 男ときたら見境なくぶっ飛ばそうとして悪いかしら?」
怖えぇな。
「いやいや、むしろいいものを見せてもらいましたよ。
昨日は何も知らずに失礼しました、
まさか生きている間にシルグランディアの業が見れるとは――
冥途の土産にでもしますよ」
あらそう――エメローナは呆れていた、でもまあいいかと考え直した。