ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第62節 不知火の雪女

 そのまま雪国の都から南西の方へと馬車を利用してやってきたエメローナ。 そう、フレアが語っていた通り、この地で馬車馬として使用される動物はアリアである。 馬よりも小柄でスピードでも負けるが、寒さに強くてパワーも持久力もアリアの方が上である、 まさに雪国に適した生物である。
「そういやラムルってアリア食うんだっけ、どんな味がすんのかしら?  見た感じ、ジビエってところ? 今度食べてみようかしらね。」
 エメローナは悩んでいた。しかし、その時――
「あら、なんか、スピードが落ちてきたようね、どうしたのかしら?」
 馬車から飛び出してきたエメローナ、するとそこには――
「ヘヘヘヘヘ! さあ……身包み置いてきな! 命だけは助けてやっからよォ!」
 と、男たちが集っていた。
「盗賊団かしらね、世の中物騒になったもんだわ、仕方がない。」
 エメローナはそのまま盗賊団のいる真ん中までやってきた。
「フヘヘヘヘヘ! 素直なやつだな! さあ、早速有り金すべておいてってもらおうか!  それとイイ女だから特別だ! その身を差し出せばもっといい思いさせてやるぜ!」
 だが――
「そうね、やれるもんならやってみなさいな、力づくでね♪」
 彼女は剣を引き抜いた!
「な、なんだよ姉ちゃん! そんな物騒なもの出すんじゃねえよ!」
 と、ほかに剣を抜いていなかったやつも次々と抜き始めていた。
「ふふっ、結構。そんじゃ、早速始めちゃう?」
「ほざけこのクソアマ! 女一人で何ができると思ってんだよ!」
「あんたたちこそ、数ばっか偉そうだけど何ができるって言うのよ?」
 そう言いつつ、エメローナはさらに前に出た。
「あんまり言いたかないんだけどあんたたち、”不知火の雪女”って話、聞いたことあるかしら?  その話に出てくる女はそう……こうして刀を携え、そして――」
 エメローナは周囲に乱気流を生み出すと――
「前にした男共を風のごとくバタバタと切り刻む女だって言うねぇ――」
 周囲のあらゆるものをその風でブサブサと切り刻んでいた!
「な!? まさかこの女が”不知火の雪女”!?」
「そんなばかな! ”不知火の雪女”と言えば60年も前の話だぞ!  見るからにあんな若そうな姉ちゃんのはずが――」
 それなら、目の前にいる刀を持ったなんだかヤバそうな女はなんだ!?
「あら、もう60年も経ったの? 月日が流れるのは早いものねぇ。 確かに、あん時もあんたたちみたいな小悪党連中だったわよねえ?  ちょうど虫の居所が悪かったから泣いて詫びるまで許さねえって命を奪う済んでのところで踏みとどまったかしら?  惜しいことをしたものねぇ……クックックックック――」
 こ、この女ヤバイ! 男たちは一目散に逃げだした! が――
「あーら? 誰が逃がすって言ったかしら?」
 疾風のごとき移動! 男たちは回り込まれてしまった!
「さーてと、覚悟することねぇ♪」
 男たちは恐怖し、死を覚悟した――。

 とある町の入口、ある集団が放り込まれていた、それは――
「こいつら! 盗賊団だ!」
 そう、つまりはそう言うことである。
「盗賊団だって!? ……確かに、手配書で見たようなツラばかりだな。 しかし、なんだってそんなやつらがこんなところで縛られて放置されているんだ?」
 そう、彼らは後ろ手に縛られていて身動き取れない状況で放り込まれていたのだった。
「で……出やがったんだ! ”不知火の雪女”だ!」
 彼らは口々に言うが――
「はぁ? 何をバカなこと言ってんだ?  ”不知火の雪女”なんて60年も前の話だろう?  俺がまだ生まれてもいねえような頃の話だ、流石に――」
「今もしっかりと生きてやがるんだよ! この目でしっかりと見たんだよ!」
「そうか、それはよかったな。さ、さっさとこいつらを引き渡してギルドに報告しちまおうな」
「だが、今になって”不知火の雪女”の話が出てくるのも妙な話だな」
「そんなこいつらの戯言真に受けたって仕方がねえだろ?」
「別にそっちはどうでもいいんだが、 それでもこいつらをこんな風に町の出入り口に放り込んでいくようなやつがいるってのも妙な話じゃないか?」
「あ……言われてみれば確かに――」
「とりあえず害はなさそうだが、それでも”不知火の雪女”を語るぐらいだからやったのは恐らく女の仕業なのは確実なんだろうな、 しかも”不知火の雪女”よろしく相当の手練れ……一応、このことを含めてギルドに報告しておこうぜ」
「俺、”不知火の雪女”って名前ぐらいしか知らねえんだが、そんなにすごいのか?」
「ああ、それこそ”不知火の雪女”の謎を追おうと立ち向かったハンターが何人かいたんだが、 結局は謎のままになっているってわけだな。 それでも、このあたりの小悪党を毎度のごとく蹂躙しているという――まあ、正義の味方っていう側面もあるんだよな、 だからギルドとしては謎こそ追ってはいるものの、別に捕まえたからって断罪したりとかは一切考えていないって言う方針らしい」
「詳しいな、よくもそんな60年も前のこと知ってんなあんた、何者だ?」
「精霊族だからな、当時はまだ俺も駆け出しのハンターだった、その頃の話だな」
「ああ、精霊族か、なるほど――」
 寿命長いもんな。