ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第61節 意外なつながり

 精霊シルグランディア改め、エメローナ=シェルフェリア。 ローナスと話をしていた。
「そう、順調に行っているのね。 ところで――アーティファクトの捜索もしているんですって?」
「第4級精霊の習慣でしてねえ、アーティファクトの存在には常に目を光らせてんですよ」
「あんた第5級精霊でしょ?」
「死んでりゃどっちでも同じでしょうよ」
「そもそも普通は死ねばアビス即行がデフォなんだけどな。」
「うぅ――やっぱり俺はアビス行きなんすね――」
「まあ……そうね、これまでの功績に免じてアビスの一階層上のアッパー・アビス行きぐらいにしといてあげるわよ。」
「それ……普通のアビス……アンダー・アビスとどう違うんすか?」
「アビスの上だから少なくとも底辺を回避できるわよね。」
 やっぱり違いはないか……ローナスは悩んでいた。
「そもそも俺、アビス行きになるような悪いことしました?」
「まずはそのメタボ腹ね、どう考えても不摂生の証でしょ、それを罪と言わずして何て弁明するのかしら?  あとの残りは胸に手当てて考えてみればー?」
 えぇ……ローナスはますます悩んでいた。
「んなどうでもいいことおいといて、アーティファクトの話でも聞いとこうかしら。」
 どうでもよくない……ローナスはさらに悩んでいた。 とにかく彼はアビス行きを回避する望みを捨てずに頑張ることにした。
「アーティファクトなんすが、 とりあえず、”クロット洞穴”と”エンケラス洞窟”と呼ばれる場所にありそうっすね」
 エメローナは腕を組んで考えた。
「クロットは古のシルグランディアの記憶にあるわね、大昔は”クラロルト”って呼ばれた場所でしょ?  ”見てきた”んでしょ、どんな感じ?」
「そうっすね、どう考えても生者が入れるような場所じゃねっすね。 とはいえ、死人の俺じゃあ今度はアーティファクトに触れられねえから手出しできねえですが――」
 エメローナはため息をついた。
「やっぱりそうか――古の英雄の死と共に葬られたってワケね。」
「というか、あの洞窟は大昔から地下墓地として有名な場所っす。 だからアーティファクトに触れられねえどころか、死人であるハズの俺でさえもあそこの立ち入りだけは勘弁願いたいもんっす、 古の時代の戦士たちの霊がウヨウヨと彷徨っているっすからねぇ……」
「ところで、エンケラスって初めて聞くわね、どこよ?」
 ローナスは酒を含んでから答えた、死んでても飲食可能なのか。
「この大陸中央部……クラック・アルコズって呼ばれている山脈から東にある大きな都の町っすね。 肝心の洞窟はその東にある山のふもとに人知れず置いてあるようです。ま、そんなとこっすかね?」
 そう言われてエメローナは考えた。
「あのさ、目を光らせている割には妙に情報少なくない? それだけ?」
 ローナスは答えた。
「ええ、それもそのはずこの件、フローナルが関わってるっすからねぇ――」
 すると、エメローナは瞬時にローナスの首をつかみ……
「テメェ……なんでそんな肝心なことを先に言わねえんだよ!  やっぱり今すぐアビスに放り込まれてぇようだなぁ!? あぁん!?」
 と、ドスの利いた声で訴えた。
「そ、そうだった! 悪りぃ悪りぃ……いえ、すみませんでした……苦しい……助けて――」
 エメローナはローナスを半ば投げ捨て気味に続けた。
「ったく! とにかく、フレアに会ったのね!? 彼女は今ドコ? どんな状況!?」
 ローナスは首元をただしながら答えた。
「そ、そうっすね――今は2人の人間の男と2人の精霊族の女、 あとは姐さんが言うところの”ケモミミショタ”とやらと徒党を組んでるっすね」
 言うに事欠いてケモミミショタ……エメローナは悩んでいた。 だが、それはそれでちょっと興味のあるエメローナお姉さんだった。
「しかも男2人のうちの片方……カイル=ティンバルっつードミナント系ヒューマノイドなんすが、 やつの持ち家はエメローナ姐さんが昔作った例の十三式ってやつっす」
 そう言われてエメローナは考えた。
「ああ、暇つぶしに作ったやつ、あんなの有効活用しているやつがいたのか、奇特なやつねぇ――」
 カイルの家は彼女の暇つぶしによって作られた家だった――マジかよ。
「ちなみにドラゴン・スレイヤーはそいつが代々守っている得物ですね、だいぶくたびれているようですが――」
 そういうことか――エメローナは考えた。
「あの気難しいフレアが珍しく徒党を組んでいるなんてどういうことかと思ったら、そう言うつながりだったのね。 残りはどんなメンツ? アーティファクトの取得状況とかは?」

 話を聞いた後に店を出たエメローナ。すると、彼女は考え――
「ふん……これはちょっと私自ら出ないことには始まらんかもね、地下墓地か……。 よしよし、そうと決まったら支度するかな。 どれどれ、まずは支度金の確保として手持ちを売りさばこうかしらね。 鉱石そのまんま売ってもそこまで価格がでなさそうだから――剣か何かに加工して売りつければ値が出るかしら?」
 つまり、お金は現金ではなく、モノにして所有しているということだった。 貨幣価値はその時々の情勢に左右されやすいため、どの時代でも共通して同じような価値を持つモノを財布に入れているということである。