ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第60節 シルグランディアの日常

 シルグランディアはエターニス周辺である”彩りの大地”地方を北へと抜け、坂を上っていた。 するとそこは――
「うひゃあ、さーめ……って言葉ってそういや方言だったわね――」
 シルグランディアは考えていた、要は寒いということである。 このあたりはザ・雪国だが、シルグランディアは妙に慣れていた、それは高位の精霊様だからということではない。
「そういやなんでこういう言葉知ってんだろ私――他の連中には全くない特徴よね……?  さーめだの、あっちぇだの、後はいあんべらねだの、それから――」
 シルグランディアは考えていた。

 シルグランディアはさらに北にあるアルタリアの町―― そう、フレアがホームにしていた町の旅館の……
「やっぱ、温泉っていいわよねぇ♪ じょんのびぃーって言うのかしら?  私としては言葉は知っているけどあんまり使わないわね。」
 そう、シルグランディアは身体の芯から温まっていた。そして――
「いっただっきまーす♪」
 目の前の懐石料理を前にして嬉しそうにしていた、滅茶苦茶満喫してんな。
「すみませーん! 純米酒くださーい! 銘柄は麒麟山の今一番うまいヤツを!」
 ええ、呑むんですか……しかも麒麟山って辛いの好きだな。
「どうせあんまし呑めないんだから、呑むんならとっておきのがいいに決まってるわよねぇ♪」
 意外にもアルコール耐性は弱い?

 翌日、シルグランディアは町へと繰り出していた、そんな時――
「おいおい姉ちゃん、なかなかイイ女じゃねえか? あん?」
「しかもなんだか随分と羽振りがいいようだなァ? 俺達にも恵んでくれよなァ?」
「フヘヘヘヘヘヘ! せっかくだから俺達と一緒に遊ぼうぜ!」
 悪漢共が……いや、何故だろうか、次の瞬間何が起こるかよくわかる気がする……。
「そうね、せっかくだからウォーミングアップしていこうかしらねぇ――」
 に、逃げてえええええ!

「なあ、あれは一体何があったんだ!?」
「さあな、聞いた話によると、とんでもねえバケモノに襲われたって話らしい……」
「マジかよ、油断も隙もありゃしねえな、魔物が入り込んだってのか――」
 ということ、悪漢共の死体が転がる殺人現場……いや、死んでないって、 滅茶苦茶にボコボコにされている現場では野次馬が集まり、憶測が飛び交っていた。
「あら? 何かあったのかしら?」
 そこへ首謀者が何食わぬ顔で通りかかると――
「おお、姐さん気いつけな? とんでもねえバケモノがいるらしいぜ?」
「特に姐さんは美人だから気をつけなきゃいけねえぞ? な?」
 と、注意を呼び掛けてくるが、肝心の首謀者は――
「あら! それはなんだか物騒な話ねえ! それなら気を付けないといけないわね!」
 ……じゃなくて! お前の仕業だろ!

 シルグランディアはそのままアルタリアのギルドへと入って行った、ハンターズ・ギルドである。
「アルタリアのギルドにようこそ! それで、どんな依頼だい?」
 受付はそう訊くとシルグランディアは答えた。
「ええ、”ディローニル”を呼んでくれないかしら?」
 そう言われて受付は至極驚いていた。
「何故、その名前を……!? 少々お待ちください! マスター! マスター!」

 シルグランディアは個室へと通されると、そこにはギルド・マスター、通称ギルマスがいた。
「あんたがその――シルグランディアってやつか?」
「ディローニルから聞いたのね、そうよ。で、あんたはディローニルとどんな関係?」
「いやその――そいつはむしろこっちのセリフだが――俺はただのギルマスだ、それ以上でもそれ以下でもない。 そして、情報屋ローナスが”ディローニル”の名を知るやつが来たらそいつは自分にとって特別な客だから教えてほしい、と―― 俺らが賜っているのはせいぜいその程度のことだな」
 え、情報屋ローナスってまさか――
「そう、まあ、そりゃそうよね、あいつの事を知っているやつなんて滅多にいないんだからね――」
 シルグランディアはそう言うとギルマスは訊いた。
「なら、訊いてもいいか? あんたはあいつとどんな関係なんだ?  それに、情報屋ローナスといえば神出鬼没、俺らもあいつのことをほとんど把握しちゃいないんだ、 だからあいつのことを知れれば――」
「私にとってもただの腐れ縁程度の知り合いでしかないのよ、だから私もあんまりあいつのことは知らんのよ、 だから有り体に言えば――神出鬼没なんだし、せいぜい幽霊っていうのが真っ当な表現かもわからんわね。」
 なんじゃそら――ギルマスは悩んでいた。

 2日3日待っていると、本当にあの情報屋ローナスが――その当時、ドミナントにいるハズのこいつが現れた。 それはレストランでの事だった。
「よう! シルグランディアの姉ちゃん! 相変わらず美人だな!  何て呼べばいいんだ? シルグランディアでいいのか?」
 え、まさかの本当に知り合い――ともかく、シルグランディアは呆れていた。
「相変わらず調子がいいわね、もっとも、死んだときの性格そのままってことなら納得がいくけど?」
 え、死んでる?
「仕方がねえだろ、こういうタチなんだ、そいつばかりはどうにもならねえよ。」
「開き直るんじゃないわよ、ったく。 本当は地縛霊として彷徨い続けているあんたをアビスにぶち込んでやるべきところ、 利用価値があると思って見逃してやってるんだからありがたいと思いなさいよ?」
「おいおいおい! 俺りゃあ問答無用でアビス行きかあ? 勘弁してくれよなあ!  ちゃんとあんたからの仕事をこなしてんだろ!?」
「何言ってんのよ、あんたがどーしてもやりたいっつってんだからやらせてやってんでしょうよ?  でなけりゃ1,000年以上も現世で彷徨ってるあんたなんて問答無用で黄泉(アビス)送り確定なのよ?  わかってんのそこんとこ? はぁ?」
「わ、わかったよ……ってか、俺って何か悪いこと言ったか?」
「発言からあんたの普段が見えただけよ、死んでるんなら来世のために気いつけろっつってんのよ。」
 もはや彼女には頭が上がらないローナスだった、やはりこの女は脅威か、 それが例え死者相手でも――ローナスが幽霊だったって言うインパクトがかすんでいく……。