ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第59節 嵐を呼ぶ女

 話は続いた。
「あの、ところでシルグランディア様、 フレア=フローナルは何処へ行ったのでしょう?」
 シルグランディアは言った。
「”様”はつけんでよろし。どうしても言いたければ”お姉様”と呼ぶことを義務付ける。 フレアは人間界に降りてアーティファクトを集めているところよ。 やっぱり1,000年前の騒動についても気になるところだしさ。」
「あの話――本当に集めさせているのですね。 しかしお姉様、精霊界でアーティファクトに手を出すとは何とも珍しいですね――」
 本当にお姉様言うんだ――シルグランディアはあっけに取られていた。
「それこそ、あんたっちが懸念している世界のパワーバランスを構成する要素でもあるからね、 それならこの私が、あんたたちが懸念するそのアーティファクトの真贋を見極めてやろうって思ってね。 部下のあんたたちが気にしているそいつを上司である私が何とかしてやろうってワケなのよ。」
「素晴らしいです! お姉様! ああ、今の精霊界にはなんて素晴らしい人がいらっしゃるのだろうか!  私はお姉様のことを至極尊敬しております!」
 マジかよ……シルグランディアは悩んでいた、今の精霊界って余程嫌われているんだな、と……。
「確かに精霊界の重鎮としてふんぞり返っている連中を見ると、 どいつもこいつもハイキックくらわしてやりたくなる連中ばかり―― かつての第2級精霊フローナルが第4級精霊になってまで外に飛び出しちゃいたくなる理由もわかるってものよね――」
 シルグランディアはそう思いつつ悩んでいた、ハイキックて……。
「ったく! やっぱり、あんな連中が精霊界でのさばらないようなシステムに改変すべきだな!」
 え、マジで……
「ですが、”ユグドラ”を改変するとなると、大変なことになるのでは?」
「そうなのよ、そこなのよね……。 実は、改変させること自体は案外簡単なのよ。 だけど――それをやったことによる弊害としていろいろな問題が起きるのだから困るのよね。 だから――そうね、いつまでかかるかわからないけど、 精霊界のシステムがよくなるような仕組みを作っといて少しずつ自体が好転するようにしておいたほうがいいかもね。 少しずつ変わっていくのならそんなに問題にはならないハズだしさ。 ただ――いつになるかがわからないのが最大の問題ね。」
 仕組み自体は組み込めるのか、それはすごい。

 シルグランディアはさらにエターニスから北へと向かっていた。
「シル……お姉様! いけません! 高位の精霊様がこの地から離れられては!」
 それを先ほどの精霊がとどめていた。
「パワーバランスに影響を与えるってことでしょ? 私はいいのよ、特異体だからね。」
「特異体……ですか?」
「そうよ、私は他の連中とはデキが違うのよ。 高位の精霊共は言わばその存在自体が”絶対的完全体”、自らの身体の中ですべてが完結しているといってもいい存在ね。 このおかげで彼らが精霊界で活動するために必要なエネルギーの取り方はマナの補充だけで十分ってことになるわけよ。 だから、外に出る場合は別の”器”を借りて”疑似転生”するっていう手法を取る必要があるというわけね。」
「ですが……お姉様は違うのですか?」
 シルグランディアはため息をついていた。
「てか、この説明、事あるごとにしてんだけど。 いい加減腹減ったから、できれば飯食いながらしたいところね。」
「なら、マナを補充すればいいのでは?」
「だから、それだけじゃあどうにもならん身体だから食物を摂取しなければいけないのよ。」
「え!? 高級精霊様方にもそのようなお方がいらっしゃるのですか!?」
「つまりはそう言うことね。 私の身体は言わば”拡張性汎用体”、確かに、精霊界で活動する分にはマナを周囲から吸収すればいいんだけど、 残念ながら”拡張性汎用体”って身体はそれだけじゃあそのうち餓死する身体なのよ。」
「そうなのですか!? だったらその分より多くのマナを――いえ、 そもそもどうしてそんな”拡張性汎用体”だなんて身体に!?」
「この身体のままこっちの世界での活動を可能にするためよ。 マナを吸収し、そしてマナの大いなる還元によって周囲に明らかに影響を与える精霊界の連中、 それがそのままこっちに出てくると……大体何が起こるかわかるわよね?  だからこっちに出てくるにしても、影響を与えても軽微で済むエターニス周辺までと限定されているわね。」
「ですが――お姉様は限定されていない? ”拡張性汎用体”だから?」
「そう――言ってしまえばご都合主義的な身体って位置づけになるんだけど、 ”絶対的完全体”の場合は器の出力量が精霊界向けの身体ゆえにこっちの世界では不安定またはうまく扱えない一方で、 ”拡張性汎用体”の場合は精霊界でもこっちの世界でもどちらでもうまく扱える身体にチューニングされるのが特徴よ。 無論、そうなると、こっちの世界で使用する力については”疑似転生”者同等の制限を受けることになるけど―― つまり、これで私もただの冒険者でしかないってわけね。 ちなみにこれ、先代の精霊シルグランディアが”ユグドラ”を弄ったことで完成させた作品なワケよ。」
「そうなんですか、力が制限されてしまうんですね……。 しかし、その”拡張性汎用体”は実際に食物を摂取しないと生きていけないのですか?」
「そらそうよ、こっちの世界の住人はメシ食わないと生きていけないからね。 ”拡張性汎用体”はこっちの世界で活動するための身体としても設計されているから、 つまりは必然的にメシを食わないといけないってことになるわね。」
 そうなのか――精霊は考えた。
「大変なのですね、それで、”拡張性汎用体”の方はほかにも?」
「いいえ、これはあくまで試作段階、つまり私しか存在していないのよ。 言ってしまえば私の存在は人工生命体……”ユグドラ”を利用し精霊の業を用いて”人工”ってのもおかしな話だけど、 とにかく、こういう生命体ができるっていうことは私の存在を以て立証されたってわけね。 けど、問題はこれを自然のサイクルで生み出すには”ユグドラ”の大改造が必要ってこと、つまり――」
 実現は不具合との隣り合わせということである、世界は一日にして成らず、か。
「それなら、今後はいちいちご飯を食べなくてもいいような身体へとするわけですね!」
「はぁ? どうしてよ? うまいもん食うから力が付くんだろーが!  しかもうまいもん食うのも楽しみの一つ!  それなのにわざわざ食べる能力オミットしてどーすんのよ!? 頭おかしいやつだな!」
「えぇっ!? いえ、てっきり煩わしいものなのかと――」
「んなわけないでしょ!? 言ってしまえばこっちの住人は食うために働いてんのよ!  それなのにそんなニート気質な生物生み出して何が楽しいのよゴルァ!」
「に……にーとってなんですか……?」
「テメェみてぇに何もしねえのに飯だけ食ってんのを言うんだよこのク○精霊がぁ!」
「ひ、ひえええええ! お助けをーーーー!」
 なんか、妙に荒れているようですが――