家自体は大きくて豪華だがデザイン自体はなんとも質素な家、
その点では少々物足りなさがあるが、そこはエルフ族ゆえといったところ、
華美な装飾を排した結果といったところだろう。
しかし、そのせいなのか――
「昨夜は何とも落ち着いて休むことができた」
と、フレアからは絶賛されていた。
「本当ですか!? 良かったです!」
パティは嬉しそうにしていた。
「あの海賊の家やシュリウスの宿も悪くはないんだが、なんていうか、こう――」
「落ち着かないんですよね! 良ーくわかります!
私の家はこんな感じですから、これが普通だと思ってたんですよ!
シュリウスのホテルはちょっと豪華なんですよね!
だから、カイルの家とかちょうどいいと感じてしまうんです!」
「確かに、ちょうどよくはあるな」
庶民派ということだな。
町を出ていたカイルとバルファースが戻ってきた。
「なんか、面倒なことになっているようだぞ」
カイルが言うとフレアは訊いた。
「魔物か天候か――」
バルファースは答えた。
「あえて言うなれば両方――だが、天候のほうは昨夜大嵐でナリを潜めている。
だが、その代わりちょいと道のコンディションが悪くなっているようでな、
そこは覚悟しといたほうがいいな」
「魔物は?」
「足場が悪いのに昨夜のその大嵐のせいで魔物たちが暴れている、
それでクラック・アルコズのルートは滅茶苦茶になっているらしいぞ」
カイルが答えた。
「とはいえ、天狗風の中では最凶と言わしめる”禍ツ風”発生時はもっととんでもない魔物が現れると言われている、
昨日の嵐はそうでもなかったようだからその分にはまだマシなんだろうがな」
バルファースはそう続けた、どうやらもっとヤバイ天候が発生するみたいだ。さらに続ける。
「どうやら、時期的にも天狗風が起きやすい時期のようだ、
言い忘れたが時期によって波があるようでな、通り抜けるつもりなら早いほうがいいかもしれねえな」
そう言われてカイルは考えた。
「時期があるってことはアーティファクトの仕業じゃないんじゃないか?」
フレアは答えた。
「気候がアーティファクトに干渉される事も考えられる、可能性は否定できないな」
なるほど。
急ぎの旅とあらば早めにいかないことには仕方がないし、
パティとしても実家で落ち着きたいのは山々だが、
例によってお父様が鬱陶しいので、とりあえず両親に軽めに挨拶を済ませると、
実家を早めに出ることを考えた、哀れお父様……。
一行はその足でクラック・アルコズに挑んだ。
この山はまさにアルバーディル大陸の中央を走る山脈で、
大陸を東西にぶった切っている難所としても知られているルートであった。
そして、そのルートを難所にしているのが通称・天狗風とも呼ばれる嵐であり、
アーティファクトとの関係が考えられるというものである。
エターニス――
「フレア=フローナルはどこか!」
どこかの精霊が彼女を探しているようだ。
「そこのお前! フレア=フローナルはどこだ!」
「そ、それは――」
「なんだ!? 何処に行ったと訊いている!」
するとそこへ別の精霊が。
「うるさいわね! 何叫んでんのよ!」
彼女はもんくを言った。
「貴様! この私に楯突く気か! 第3級精霊の分際で!
大体何故お前のような者がこちら側にいるのだ!
用がなければ向こうに帰ればよいだろう!」
「うるさいやつにうるさい言って何が悪いのよ! そもそも私は型破りが信条なの!
だからあんたが何様だろうが知ったこっちゃないわよ!」
そう言われた精霊は気が付いた。
「ふん、誰かと思えばシルグランディアか、かつての精霊界が要とした存在……」
「そうよ、必要と思っているのならもう少していねいに扱ってくんないかしら?
それなのにその言い分……私ゃ別にどっちでもいいのよ?」
「どっちでもいいとは何か? 貴様がいなければこの世界のシステムをどうにもできぬ、
となると、貴様の存在すら危ういものになるのだが?」
「知らん知らん、んなもん知らんし。
別にそーなったらそーなったでどーにでもなるっしょ?
ならんかったらならんかったではいさよーならーってだけの話でしかないし、それはそれよ。」
「貴様! この世界が滅んでもいいというのか!?」
「あんたみたいな高圧的なバカを生み出したこの世界にツケを払わせるってんならそれもいいかと思ってるけどな。」
シルグランディアがキレている……この女の妙な威圧感とこの言い分……
この高圧的なバカの精霊ではもはや太刀打ちできまい。
「くっ、今日のところは見逃してやろう、だが、明日はないと思え――」
「はいはいうるさいうるさい。
お前みたいな上司の元で働くぐらいならそっちのほうがはるかにマシだけどな。」
言われてその精霊は去って行った。
「ったく、なんなんあいつ、エラソーに……」
シルグランディアはそう言うと、その一連の流れを見ていた精霊が心配して来た。
「で、でも、相手は因果の精霊カルス様です、偉いのは当然のこと、仕方がないのでは?
それに――あの方に楯突いた暁にはどのような仕打ちを受けるのか……」
シルグランディアは得意げに答えた。
「全然平気。そもそも私、古の時代の英雄”イセリア=シェール”の流れを汲んでる存在だからね、
となると、精霊界としてはそんな存在を安易に消したりはできないってわけよ、
あんたっちも知ってるでしょ? ”イセリア=シェール”は”メシア”なのよ。
”メシア”の流れを汲む私を消したらどうなることやら――
そんなこんなであいつも私のことを蔑ろにできないってわけね。
もっとも、私に”メシア”としての力が本当にあるのかどうかは不明だけどさ、
いずれにせよ、そんな経歴の持ち主だからこそ、精霊界としてもそれだけ慎重に扱わないと、
万が一のことがあったら責任取れなくなるしね。」
なるほど、厄介な女だな、精霊シルグランディア。
「それに、精霊界の精霊って本来は上下関係なんてないものなのよ。
それなのに、あんなふうに威張り散らしてバカみたい、子供かよあいつ、大人になれよ、マジで。」
また滅茶苦茶言いまくるなあんた。