それから数日後のこと、一行はアルカンスタッドへとたどり着いた。
「久しぶりだぁー! みんな元気かなー!?」
そうそう、アルカンスタッドといえばパティの実家があるところだった。
「あそこに大きな家があるよ!」
ザードは少々興奮気味にそう言うとパティは嬉しそうに言った。
「うん、あそこがお姉ちゃんの実家なんだ!」
だがその家、見る限りでは――
「で……でかっ!」
カイルは驚いていた。その大きさはリアンドールの屋敷にも匹敵するような大きさだった。
「てか、この町自体全部うちの土地なんだけどね!」
な、なんだって!?
アルカンスタッド、ルート上は街道から少々外れたところにあり、
そして魔物も寄り付きにくい穴場ゆえに、
そこを取り仕切っているパトリシアお嬢様の家はかなりの権力者であることは確実、
純粋に大草原帯で土地が広いのならどこでもいいというわけにはいかないのである。
そして、それだけの場所でもあるため交易の要衝の一つとしての側面もあり、
町の表面はそのための宿場町としても機能しているのだが、
一方で裏側はアルカンスタッドの町民の居住スペースとなっていて、
町全体を取り仕切っている地主の館もその一角にあるのである。
そして、その地主の家の前にやってきた一行だが――
「今年は豊作ですね、ヴァナスティア様への献上品もこれなら心配なさそうです」
「そうだな、よし。
そうと決まったら早速ヴァナスティア様へ送る分を決めてしまおうか」
「ですね。そちらは任せてください」
玄関先で恐らく農作物の収穫についての話をしているところへと出くわした。
するとそこへ――
「おお、旅の者か。見ての通り、私はこの家の主だよ。
それよりもお疲れだろうから宿でも取ってごゆるりと――」
と言いつつ、彼はとある存在を見て驚くことに。
「ま、まさか……パトリシア!?」
そう、彼女である。
「はいお父様♪ ただいま帰りました♪」
すると――
「おーおーおー♪ 私の可愛いパトリシアやぁ♪
うまくやっているのか毎日毎日心配していたんだぞぉ♪
こんなにちっちゃくてやせ細ってしまって……ちゃんと食べてるのか……?」
「お父様ってば――人前なんだけど……」
と、娘は呆れていた、というのも――
「また随分と子煩悩な父親だな――」
フレアをはじめ、何人かは唖然としていた、
そう――父親は娘に無茶苦茶甘えているが娘は顔が引きつっていた。
父親のことについてはさておき、
パティ自ら家を案内したいということで娘の一言で父親はとりあえず退場、遠慮してもらうことにしたようだ。
「本当だぁー! ”しゃんでりあ”や”すてんどぐらす”、”ふんすい”もあるよー!
これが”ぴあの”なのー!?」
ザードは興奮していた。
「本当に名家のお嬢様なんだな――」
カイルは唖然としているが、その名家のお嬢様は得意げな顔をしていた。
「にしても、ここにいれば何不自由なく暮らせると思うのに、どうして?」
カイルはそう訊いた。
「バンナゲート貴族と違って柵もあんまりなさそうなものなのに――」
ディウラがさらにそう訊くと、パティはため息をつきながら答えた。
「柵ってのとはちょっと違うけど、なくもないのよねぇ……さっきの見たでしょ?」
さっきのって、まさか――フレアがズバリ聞いた。
「なるほど、つまりは父親が鬱陶しいから家を出たということだな、
親の心子知らずとはよく言ったもんだが、年ごろの娘としては確かにあれは少々きつい……
娘が持たないことだろうな」
パティは腕を組んで答えた。
「そう。だからハンターズ・ギルドもこの大陸から離れてわざわざシュリウスまで来て登録することにしたのよね。
お母様は快く賛成してくれたんだけど、お父様を説得するのは――」
難しかったんだろうな――と一行は考えるが、
「最後の切り札”言うこと聞いてくれないお父様なんか大っ嫌い”を発動して難なく解決よ♪」
あ、そう言う手があるのか。簡単じゃねーか。だがしかし――
「でも、家を出るとなったらそれこそずーっと私に付きまとってきてねぇ……とにかく鬱陶しかったのは覚えている。
でも、父親としては自分の娘の心配を想ってのことだし、私としても今後はあの鬱陶しさがなくなると思うと――
清々するけど少し寂しくはあるかな――」
なんだかんだでいい娘だな。
「それでさっきもあっさりと退場してくれたのか」
バルファースはそう訊くがパティは答えた。
「ううん、それは違うよ。
お父様は私に”大っ嫌い”って言われるのがとにかくショックだからそれを避けるために素直に言うことを聞いてくれるだけなんだよ♪」
そのキラーワードは脅威すぎる。