ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第56節 霊獣シルヴァンス・ウルフの知

 アルガンスラへとやってくる予定だった一向だが、とある問題が浮上した。 それにより――
「それでは、予定通りアルタリアへと船を動かしておきます故――」
 クライツは改まってそう言うとバルファースは答えた。
「ああ、頼むぜ。 ダメだったらダメでリンブラールに移動しておいてくれ」
 クライツはそのまま船を動かすと、一旦東のバンナゲート島へ向けて戻って行った、 東、つまり上陸したところは――
「上陸したところはこのあたりか?」
 フレアは地図を指さして訊くとカイルが言った。
「てことはこのまま北に行くと大平原の街道の宿場町にたどり着く感じだな」
 そう、町でも何でもないところに上陸したのだった。 町に上陸するとグローナシア千年祭の人ごみにもまれることは確実なので、 それを避けることを考えたのである。

 目の前には大きな山があり、その周りに森が囲っている。 特に何がある場所ではないが、 これがあるあたりは大体アルカンスタッド大平原の東西に伸びる街道の中間地点ぐらいである。
「見ろ」
 バルファースはカイルに促した。
「街道か、人が多いな――」
 大平原に伸びる街道なので轍の跡を辿っているに過ぎないのだが、 多くの荷馬車がアルガンスラ方面へと向かっているようだ。
「しかし、荷馬車ばかりだな――」
 フレアはそう訊くとバルファースが言った。
「だろうな、千年祭と言ってもひっきりなしに動いているのは人というよりもモノのほうだな」
 そうなのか、カイルは訊いた。
「てっきり巡礼者ばかりなのかと……」
「まだ8年のあるのにいくら何でも気が早すぎる。 だが、物資のほうは先んじて用意しとかないと間に合わないからな、 それにやろうとしている行事はヴァナスティア様の神聖なる行事、 となると、それに参画したい企業は我先に我先にと使命感の如く動いていかねえと間に合わねえってわけさ」
 なるほど、フレアとカイルは納得していた。
「ということはあちこちで混雑している人ごみというのは……」
「業者の人ばかりということか――」

 森の中、3人は戻るとそこには家があった、 そう、例によってカイルの家である。
「街道沿いの宿場町はどこも混雑しているからねえ。 でも、こんなに素敵な持ち家があるなんて羨ましいな!」
 ディウラお嬢様はそう言っていた、いやいや、あんたの家……。
「オルダさん! どんな感じですかー!?」
 オルダだけはついてきていた、とある事情で、言うまでもなさそうだが。
「はいはい、もうじきできますよー!  ディウラお嬢様がお手伝いくださったおかげでおいしいものが作れそうですからね!」
 2人はキッチンに立って楽しそうにしていた。
「……お料理が上手なお嬢様かぁ――」
 パティはディウラのことを眺めて唖然としていた。
「いやいやいや、俺としては業後にビールをかっ食らうお嬢様も大概だと思うぞ――」
 カイルはパティを見て悩んでいた。
「ラムルの女は料理ができなば男を作る資格なしだからな、 プリズム族の女の異性の作り方は胃袋をつかむところまでが対象範囲、 ゆえに料理ができて当たり前――例え里から放たれた女であろうとその考え方は貫き通しているようだな」
 フレアはそう言った、そうなのか。
「そうそう! お母様も言ってたわね!  だからちゃんと1人でも生きていけるような能力も身につけなさいって!」
 そう言われてバルファースは考えた。
「……バンナゲート貴族の女に自由などなし、 ゆえに女に1人でも生きていけるような能力なぞ不要―― その常識とは真っ向から異なる考え方だな」
 それに対して食べ物ができるまでワクワクして待っていたザードが一言。
「そうかな? それを言ったら男の人たちも……あの時怒っていた男の人も一緒じゃないかな?  だって、そうじゃないといけないみたいに言っていたようだし。 ボクが見る限り、あの男の人も自由がないんだなーって思ってたけど……」
 その発言には誰しもが驚いていた。すると、バルファースは考えながら言い返した。
「鋭いな小僧……いや、ザード……。 まさにそういうことだな、つまり自由を求めたのはそっちのお姉ちゃんだけじゃない、 俺自身もそうだったってことさ」
 ザードはワクワクしながら答えた。
「それでお船であちこち冒険しているんだね!  いいなぁ……ボクも船酔いをコクフクしてあちこち行ってみたいなぁ!」
 その様を見てフレアは考えていた。
「あの子、何……? 今の発言、あのザード君には考えられないような内容なんだけど――」
 ディウラは唖然としつつフレアに訊いた。
「あの子はシルヴァンス・ウルフの子だ、知能の発達の早さゆえなのか、 それとも霊獣の子ゆえのものなのか――」
 パティが言った。
「そんな風に考えられるなんてザード君って頭いいね!  もうカイルなんて目じゃないね!」
 なんで俺! カイルは嘆いていた。
「じゃあカイル! 今度からボクが頭脳担当だね!」
 なんでだよ! カイルはもんくを言うが、周りは笑っていた。
「確かに、ザードのことはともかく、 最初に俺を脳筋全開で襲撃してきたことを考えると少なくともカイルが頭脳担当というのはありえねえな」
 バルファースは得意げに言うとカイルは項垂れていた。
「くっ、くそう……」