ということで次の目的は”クラック・アルコズ”、場所で言うと”アルバーディル大陸”の大体真ん中あたり、
つまりドミナントの東の大陸の中央にあたる場所となる。
そこには”クラック・アルコズ”と呼ばれる険しい山脈があり、
アルバーディル大陸東西の交易としては生命線にもなっている地ではあるが、
それと同時に道程の都合で難所としても知られている場所なのだそうだ。
そしてクラック・アルコズ西部にはアルカンスタッドと呼ばれる広い平原があり、
平原の西部にはドミナント大陸とを結ぶ港町”アルガンスラ”があり、
反対に東部にはパティの故郷である”アルコストレディオ”の町があるのだそうだ。
「アル……」
ザードは話を聞いていて頭が再びグルグルしていた。
「その気持ちはわかる――何せ、そのあたりの地名ってやたらと”アル”が頭につくもんな、
覚えるだけで大変だよな――」
カイルはやや得意げな面持ちでそう言った。
「そんなこと言ったら地元民も満足に覚えきれていない人が多いよ」
と、パティ……そうなのか?
「それなのに、さらに遠いところに”アルタリア”という雪国があってな」
フレアはそう言うとザードはさらに頭がグルグルしていた。
「由来が同じやつもあれば違うやつもあるからな――」
バルファースも呆れている様子だった。
バンナゲート島から北へ向けて出航し、
しばらくするとそのアルバーディル大陸の南の玄関口であるリンブラールの町がある。
古くからこのあたりは”グリアンド”と呼ばれる領主が治めていて一定の文化を築き上げてきた歴史がある。
今ではその領主は存在していないが、古の時代の巨悪に立ち向かうために勇士たちを集めては立ち向かったとかないとか、
そんな逸話があるほどである。
ゆえに、このあたりのことを現在の呼び名で”旧ガレマンド地区”と呼ばれることもあるという。
だが、問題の場所はクラック・アルコズ、大陸のだいぶ内側にあるので海からは少々遠い、どうしたものか。
「アルカンスタッドに行くのか?」
バルファースが訊くとフレアは答えた。
「アルカンスタッドにもアーティファクトの痕跡があるらしいのだ、だからそこに行ってみたいのだが――」
「あいよ、なら任せろ。
順路としては一旦西のアルガンスラから上陸、
アルカンスタッドからクラック・アルコズへ向かうルートになりそうだな」
「ああ、それで頼めるか?」
それに対してカイルは焦っていた。
「おいおいおい! そこまでしてもらっていいのか!? なんか裏でもあるんじゃねえか!?」
バルファースは頷いた。
「あるに決まってんだろ、俺は道楽のためにやってんだぞ、それ以外に何があるってんだ?
それに、この調子ならあわよくば”エターニス”まで行けるって寸法だぞ、
基本的にお偉い精霊族様以外は断固として門前払いを食らうような場所にな。
別にお偉い精霊様がどうというのはどうでもいいんだが、一度は行ってみたいとは思わねえか?」
それに対してフレアが訊いた。
「オルダナーリアの影響か?」
バルファースは頷いた。
「ああ、子供ながらにずっと聞かされていると興味ぐらいは持つもんでな。
世界をまたに駆ける海賊としては行ってないところがあるってのも癪なんでね」
彼の場合はほとんどただの興味本位なのだろう。さらにディウラが言った。
「オルダさんの話を聞いていて私も行ってみたいなぁって思っているんですよね。
だって、エターニスって”彩りの大地”と呼ばれる場所にあるんでしょう?
色とりどりの花が咲き乱れるっていうまるで楽園のような場所!
そんなこと言われたら……私も行ってみたいなぁ――」
そういえば噂ではそんな場所だって訊いたことがあったカイル、本当なのか。
「ところで、アルタリアから来たって言ってたな、シュリウスまでどうやって来たんだって?」
バルファースはそう訊いた、確かに、クラック・アルコズもリンブラールも経由しているような感じではないフレア、
どういうルートでやってきたのだろうか、カイルも不思議に思っていた。
すると――
「アルタリアの港から直接”エルティアナ”へとやってきたのだ。
本当はドミナントに行きたかったのだがアルタリアからはエルティアナ行きまでしかないと言われ、
そこから陸路で西に向かいシュリウスに着いたのだ」
なるほど、そういうことか! カイルは納得した。
エルティアナこそまさしくドミナント大陸の東の玄関口であり、
アルガンスラの向かいにある町である。
「アルタリアの港ってことは”氷河航路”ってことだな。
そうか、千年祭の影響でそこも動いているってことだな、だったら都合がいい。
この船で直接入ることもできるかもしんねえな」
”氷河航路”を展開するアルタリアの港、
通称”凍てつく港”とも呼ばれるその港からの船出はまさに氷河航路という名の通り氷に閉ざされた場所にあるため基本的に制限されており、
季節によっては港ごと閉鎖しているのだが、
最近ではヴァナスティアの千年祭の影響で可能な限り動かすようにしているらしい。
なお、アルタリアの港とはいうがアルタリアの町本体は港が置けるような立地条件ではないため港機能を切り離しており、
港機能のある町については小規模の宿場町として存在しているのである。