ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第3章 東の大陸へ

第54節 アーティファクトの噂

 船のドッグ……大きな船を入れるための収納庫、港の一角にあるそこではとても賑わっていた。
「わあああああ……頭ん中ぐるぐるしてる……」
 ザードは完全に参っていた。
「私も雑踏は苦手だ、早いところ脱出したいものだ」
「私もー! 海賊ー! さっさと行くわよー!」
「うぐっ……ま、まだー!?」
 さらにフレア、ディウラ、パティが続いてそれぞれ機嫌悪そうにしていた。 そう言われてバルファースは少しだけ焦っていた。
「ったく、そろいもそろってかよ……これでも一応貴族専用ドッグだから他よりも空いているほうなんだけどな」
 最後は少々圧を強めに言うと、カイルは彼らをなだめていたいた。

 そして出航間際、バルファースの船に何故かお偉方がやってきた。
「あいつらは?」
 フレアが訊くとバルファースは舌打ちしつつそいつらを迎え入れていた。
「ドラクロスの差し金ってわけか?」
 ドラクロス!? フレアは警戒していた。
「違う違う……まあ、全く違うというわけではないんだが――」
 そいつはスティラフォード家の者、それもなんと、あのドラクロスの父親ドルカレスだったのだ。
「すまんな、帰ってくるたびに嫌な思いをさせてしまって――」
 なんだか申し訳なさそうに言うドルカレスに対し、 ディウラは名家のお嬢様らしく明るくふるまっていた。
「いいえ♪ 確かに嫌ではありますが、多少のスリルは味わえましてよ♪」
 スリル……まさに皮肉――ドルカレスはさらに申し訳なく思っていた。
「本当にすまんな――」
 バルファースは訊いた。
「で、まさかそれだけのことでここに来たわけではないんだろう?」
 ドルカレスは態度を改めた。
「そういうことだな。 お前たち、聞けば”アーティファクト”とやらを探しているようだが本当か?」
 えっ!? 一同は驚いていた。
「どういうつもりだ?」
 バルファースはそう訊いた。
「エガレスから聞かせてもらった、”黄金の鍵”も回収していったそうだな」
 ディウラは驚いた。
「お、お父様から!?」
 ドルカレスは頷いた。
「前に俺が”アーティファクト”らしきものの話をしていたことを覚えていたのだろうな、 それで今回の話題を振ってきたのだ」
 バルファースは舌打ちしていた。
「つまりはこういうことか? ”アーティファクト”の話をしてやるからあの女を差し出せと?」
「そんなまさか!  そんな要求をするほど落ちぶれちゃいない、それこそスティラフォードの家名に傷がつくだけさ、 リアンドールの名前もな――」
 バルファースは頷いた。
「リアンドールは”アーティファクト”欲しさに娘を売った、 スティラフォードは伝説の”アーティファクト”の情報で娘を買った…… 流石はスティラフォード様、心得てらっしゃることで――」
「茶化すな! 当然だろう? まあいい――」
 ドルカレスは態度を改めた。
「詳細な場所はわかっている、この場所だ――」
 と、ドルカレスはなにやら地図のようなものを見せた。 するとバルファースは考えた。
「ほう、なるほどな、そういうことか――」
 どういうことだろうか、フレアは訊いた。
「”クラック・アルコズ”? アルカンスタッド東部にある地名だな、 そこにあるかもしれないということか?」
 ドルカレスは頷いた。
「見返りなど求めんつもりではいたのだがそれでは気持ち悪かろうと思い、 この際だからあえて要求させてもらおう、それは――」
 バルファースが言った。
「アルカンスタッド地方としては交易の要衝にして難所―― 切り立った山々に突如として襲い掛かる原因不明の天候急変、通称”天狗風”…… どうやら問題が起きたということだな」
「察しがいいな、まさにその通りだ。 うちの積み荷がまさにそのクラック・アルコズで消息を絶ったという報告を受けてな、 そいつの行方を探ってほしいのだ」
 バルファースは考えた。
「自分で何かしようとは考えなかったのか?」
「考えたさ、その結果、部下を3人も失った。 これ以上犠牲は出したくないんで手を引くことにしたんだが、 その時に都合よく”アーティファクト”の話を持ち込んできたお前たちが現れてな」
 というか、その”天狗風”と”アーティファクト”と関係あるのだろうか、フレアは訊いた。
「俺が若い頃は今のディーマスと同じように世界をあちこち回っていてな、 目的はもちろん道楽のため……宝とあらばロマンを追い求めてディブゼル……つまりディーマスの父親と一緒に探し回ったものだよ」
 父親も道楽息子だったということか、歴史は繰り返すとはよく言うが――フレアは呆れていた。
「で、その折にクラック・アルコズの”アーティファクト”伝説の情報を仕入れたってわけだな。 確かに、筋は通っている――」
 そうなのか? フレアは改めて訊いた。
「あそこは昔からその手の噂の堪えない場所だ、そういうのは信じない質か?」
 バルファースはそう訊くとフレアは悩んでいた。
「すまないな、私は訊いたことがなかったのだ」
 そういうことか、バルファースは納得した。
「そうだな、もし積み荷が見つかったとしたらあんたに届けてやろう、それでいいか?」
 バルファースは言うとドルカレスは首を振った。
「いや、積み荷はヴァナスティアへの献上品だ、 どこでもいいからヴァナスティアの者に掛け合ってもらえればそれでいい」
 ヴァナスティアの……千年祭か、それならむしろ何かを要求しないほうがよかっただろうか、バルファースたちはそう思った。
「おい、ディーマス……いや、バルファース、くれぐれも命だけは大切にしろよ」
 ドルカレスはそう言うとバルファースは「おう」と一言だけ言って出港準備を進めていた。 ドルカレスの一行は部下に船から離れるように言うと、彼もまた船を降りて行った。
「なあ! もしも、もしもだが、あんなドラ息子でよければ話だけでも聞いてやってくれないか!?」
 ドルカレスはディウラに向かってそう言うが、彼女は――
「ええ! 丁重にお断りいたしますわ!」
 と、はっきりと言い切った。
「フッ、だそうだ、聞こえたかドラクロス……父親としてやれることはやったつもりだぞ」
 ドルカレスは満足そうにそう言い残して去って行った。