一行は進み始めた。例によってフレアはメンバーの姿を隠している、バルファースを除いて。するとそこへ――
「ドラクロスだ」
バルファースはそう言って注意を促した。
ドラクロスは如何にも我こそは王者と言わんばかりの服装でオラオラ感を醸し出している……
周囲のおつきたちは次々と彼に頭を下げていた。
「あの女が戻ってきているのだろう!? みつかったのか!?」
「申し訳ございません、まだ見つけられていません――」
おつきにそう言われてドラクロスはイライラしているようだ。
「貴様! この前の失態を忘れたわけじゃないだろうな!?」
「そ、それは! そう言われましても相手はリアンドール家の御令嬢様!
私め共のような存在では、彼女が辛そうにしている以上は……流石に――」
「黙れ! いずれその家も女も俺のものになるのだ!
いいな、わかったな! 次捕まえたら絶対に逃がすんじゃないぞ!」
「か、かしこまりました!」
と、おつきたちは慌てた様子で散会した。そこへ――
「貴様はディーマス! 貴様の船があると思ったらやはりいたのか!」
ドラクロスはディーマスに気が付くといきなりいちゃもんをつけてきた。
「また随分なご挨拶だな。
俺んちはお前が出入りしている家の隣、
ただでさえ近所迷惑だってのにそんなことをお前に咎められる筋合いはねえんだがな」
ドラクロスはさらにいちゃもんをつけてきた。
「貴様……あの女を隠してないよな!? そもそも貴様はあの女と関係を切っているハズ!
まさか今頃寄りを戻したとかないだろうな……!?」
ディーマスは淡々と答えた。
「何度も言ってるが、そいつはお前には関係ないことだ。
それにあの女は既に生涯を共にする相手を見つけちまっている、
”自由”って名の伴侶とな」
「戯言だな、現実はそれほど甘くはない!
いいか!? お前もあの女も現実というのをわかっていない!
自由など、ごく一握りのみに許された特権!
この世界にいる女など、男を立てるためのお飾りでしかないのだ!
それが自由などとは笑わせるな!」
「確かにそのとおりだな、だからあの女はこの世界から逃げ出した、自由を求めてな……簡単な話だ。
とにかく、ここからあの女を逃がすことにしたのは俺だ、例え居場所を知っていてもお前に教えるつもりはねぇ。
何度も言ってんだ、いい加減覚えろ」
そう言いつつ、ディーマスはその場を去ろうとしていた。
「待て! 話は終わっていない! どこに行くつもりだ!」
「俺は終わった。
それにどこに行こうと俺の勝手だ、なんでお前に言わなきゃなんねえんだ?」
ディーマスは呆れつつ言うと、そのままその場を通り過ぎていった。
「くそっ! くそっ! くそぉっ!」
ドラクロスは悔しそうにしていた。
フレアは唖然としていた。
「嫌なやつだな……」
バルファースは呆れながら言った。
「甘やかされて育った結果ってところだな、だが……あのタイプはここじゃあそんなに珍しくもない。
ここの文化が生み出した弊害ってところか、遅かれ早かれ終焉を迎えるだろう、例えこの世界が滅ばなくたってな……
ここ数十年前からまことしやかに囁かれている都市伝説だが、強ち嘘とも言い切れんもんだな」
皮肉だな……フレアはそう言いつつバンナゲート貴族たちを憂いでいた。
その一方でディウラ、フレアは彼女を気にかけていた。
「なんともひどい世界があったもんだな」
「そうね、こういうところなのよねぇ。
言ってたでしょ、女なんてのはあの程度の扱いなのよ。
だから私も知らない間に私の行く末が決まっていることもあるわけ。
ドラクロスの話も向こうで勝手に決めて一方的に言っているだけで私はノータッチなのよね、嫌になっちゃうわ」
なるほど、つまりはお飾りってことか。
「父親は反対しているのにな……」
フレアはそう言うとバルファースが続けた。
「ドラクロスの父親も最初はやつを応援していたようだが今では消極的……
すっかりと諦めたそうだ、そもそもリアンドール的に娘はほかにやらんという方針だからな、
そうなればどこの家も諦めるしかないが……」
ドラクロスだけは諦めきれないというわけか、フレアは頷いた。
「それに縁談を断られたっていうことからリアンドール的にも傷がついていることもあって避けている家も多い」
そんな考えもあるのか………フレアとカイル、パティは驚いていたが――
「リアンドールの家はハンターの総本山だから痛くも痒くもないのよねぇ……」
と、ディウラ……なるほど、世界的にその影響を示している家だからか、3人は考えた。
「それに、お宅ら精霊の価値観を見るに、家名が傷ついたとてっていう考え方もある、
そんな相手と一緒になることに決めた父親もしかりだな」
貴族の世界のなにがしに囚われていないってことか。
「そういうこともあって破談の話も円満解決したのよ」