本棚の中に隠れているスイッチという古典的な隠し扉、
その中に2人は招かれると地下に続いており、さながら秘密基地のようである。
その基地の中にあるソファで3人は話し始めた。
「やれやれ……やつら、この屋敷をいよいよ我が物顔で歩き回るようになってしまったな――」
お父様は悩んでいた。
「ごめんなさい、私のせいですね――」
ディウラは申し訳なさそうに言うが、お父様は――
「ん? いやいや、何を言うか、人間、自由を求めることは決して悪いことではないと思うんだがな?」
えっ……どういうこと? ディウラは訊いた。
「確かに、縁談の話を切ったことについては残念だった。
だが――それはお前自ら決めたこと、その選択自身は後悔していないのだろう?」
それは――もちろんだった、今更疑うこともない、自分は自由を選んだのだから。
「だったら私がとやかく言うことはない……ただ、自分の選択を信じた娘を信じるのが親の務めというものだな」
あれ、意外と反対していない? ディウラは訊いた。
「私、てっきり――」
お父様は笑いつつ答えた。
「まさか誤解されていたのか!? それは申し訳なかった!
言ったように、確かにディーマスとの婚約を破棄することになったことは残念だ、
娘が結婚するとあれば父親としては寂しくもあり、そして娘の晴れの舞台を祝福する喜ばしい話でもある。
しかし、それとこれとは別の話なのだ」
確かに、娘が自由を選んだことに反対しているとは言ってないな。
「それに――私の妻はお前のお母さんだぞ?
そう、彼女はラムルの女――掟から放たれ、そして自由に生きることを選んだのが彼女だった。
だが、貴族の家に入ることで彼女は縛られてしまった、ここの文化がいけなかったのだ。
しかし、彼女は私を愛してくれていた、だからこの生活をすることを選んだのだ。
だが、せめて自分の娘だけでも自由に生きてくれたらと願っていた。
だから私もディウラの生き方を尊重するだけなのだよ」
そうだったのか――ディウラはそう言われて嬉しそうにしていた。
お父様は話を続けた。
「アーティファクトが必要ということだったな?」
フレアは頷いた。
「難しいだろうか――」
しかし、お父様は首を振った。
「他でもないディウラの友のためだから叶えてやらにゃあいかんだろう。
ちなみに、必要というのはどのような理由で――」
それは……フレアは口をつぐんでいると――
「彼女はエターニスの精霊なの!
凶獣を倒すためにどうしても必要なの!」
そ、そんなはっきりと言っていいものだろうか――フレアは内心焦っているた。
しかし、お父様は――
「なるほどな、エターニスの使者とあらば渡さぬわけにはいかんか、そういうことなら持っていくといいだろう」
えっ――その発言にはびっくりしていたフレア。
「信じるのか?」
お父様は答えた。
「妻との出会いがまさにその手の出会いだった、
未だにあの光景は信じがたいものがあるが、彼女と苦楽を共にする以上は信じぬわけにはいかんだろうな。
だから妻を信じて、お前たちにこの鍵を託そう」
と、なんだかあっさりと鍵を受け取ってしまった。
「そんなことよりも、ドラクロスに気を付けるのだ。
私にとっては凶獣や世界の危機なんぞよりもやつに娘を取られることのほうが余程恐ろしいことだ。
わかったな、ディウラ――」
ディウラはもちろんだが、フレアもお父様の気持ちがわかるような気がした。
「ささ、屋敷を出るのなら早速隠れられよ。
それとも何かね、窓から出られるかね?」
2人は窓から外に出た。
場所は地下ゆえか、僅かな明り取りの窓から這い出るように出てきた2人だった。
「お父様を前にしてこんなお転婆……なんかちょっと複雑――」
ディウラは少々悩んでいた。
「それよりも赤の他人である私がこのような行為、もはや空き巣か何かだな」
フレアは考えた、言われてみれば確かに――。
「そ、それより、早くみんなと合流しましょう!」
ディウラは焦った様子で言った。
一同は合流すると建物の扉の錠前を外したディウラ、その中にあるのは――
「洞窟か」
フレアはそう言うとディウラは言った。
「アーティファクトというのを管理しているって聞いたことはあるけど、
お父様もその程度の認識でしかないのよね。
だからこの中にあるのは知ってても、基本は放置ね」
「所詮はおとぎ話程度の認識でしかない代物だからな」
バルファースがそう続けるとディウラは「行きましょう」と言ってみんなを促した。