ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第46節 禁断の小箱

 今度はリシェルナにザードが甘えている。 カワイイ――ザード君は女性陣に大人気な様子だ。 侮れないな、これがシルヴァンス・ウルフ……違うか。
 話は年齢の話になっているためこの際話しておくことにしよう。 通常、1年経てば1歳歳をとる……それは世の常であり、変えようのない事実である。 ゆえに、カイルは27歳、バルファースは32歳、そしてラインハルドもあれでなんと御年102歳という大変長寿な存在であり、 それぞれそれ相応の見た目でもあることは明らかである。
 ってか、ラインハルド102歳……足腰がだいぶ弱っているとはいえ、 それでも杖突くことなく元気にウォーキングするなどなんとも元気なおじいさんである。
 だが……人間族以外の種族となると事情が変わっており、 1年経てば1歳歳をとる原則はもちろん変わらないが、見た目年齢のほうは人間族の基準には当てはまらないのが通例である。
 以前も話をしたが、パティはカイルよりも2つ年上なのだが見た目は15の娘にしか見えないなど、 まだまだあどけなさの残る合法ロリ……否、ビールを嗜むのも余裕なお姉さんである。
 ディウラもその通りなのだが、彼女はプリズム族という点でさらに若く見える補正が付いている。 というのも彼女らについては最初にも話した通り、自らの美貌で異種族を獲得することを得意とする種族であるためだ。 その場合はもちろん若い姿を維持するほうが有利なのだが、それゆえか、若い姿を維持する期間が非常に長いのである。 そのため極端な話、20代に見えるお年頃のプリズム族の女性、 いざ年齢を聞いてみると御年70~80ということは普通であり、誘惑魔法を用いることを含めても天然の魔女たる存在と言えるのである。 ディウラの場合は見た目は19歳だが実際にはバルファースよりも2つ上の34歳、 そこまで極端な例とは言えないが、彼女の母親ははっきり言って魔女といってもいいぐらいの印象であることは想像に難くない。
 その点ではフレアも同じだが、彼女の場合はさらに第4級精霊という補正も生きている。 それだけを考えるとリシェルナもそれに該当するが、 第5級精霊よりもさらに年齢補正が利いていて、パティよりも僅かに寿命が長いのが特徴。 ただし、プリズム族は”癒しの精霊”とも呼ばれることもあってか通常の精霊族よりもさらに寿命が長いため、 リシェルナよりはさらに少し長く生きるのである。
 ということで、リシェルナについては年齢故かパティと同い年で見た目の若さも彼女とはそう変わらないのだが、 ここから先の年齢差はだんだん広くなっていく……と思われる。 パティはそもそも先祖返り型ゆえに見た目補正についてはさらに変わってくるためまたややこしくなっている。 が、他に比較対象がいないのでこの際この説明で良しとしよう。
 そして、フレアも32歳のはずが、以上のような要因でカイルの最初の印象としても彼女は18かそこらの小娘にしか見えなかったということである。 無論、彼女の場合は話し方に貫禄があるせいで見た目だけに留まってしまっているのだが。
 ということで以上である……うん? ザード君?  ああそっか、でも――彼は6歳児だから見た目補正の影響をそこまで強く受けないんだよね。 しかも精霊族同様の見た目若い補正がくっついているので大きくなってもしばらく幼い犬みたいな感じになるのは必至であり、 生粋のお姉様方キラーである……恐ろしい子やな……。
 ちなみに……パティとリシェルナは胸のサイズも妙に大きい。 実際にはフレアやディウラのほうが大きいものをお持ちだが、 彼女らの場合はパティやリシェルナよりも背がはるかに高いため、 相対的にみるとフレアやディウラはパティやリシェルナよりも小さく見えても仕方がない。 つまり――印象で言えばリシェルナ・パティ・フレア・ディウラの順に大きく見えるのだが、 実際の大きさはフレア・ディウラ・リシェルナ・パティと随分ギャップがある。
 また、身長は男性陣も含めて高い順からフレアが堂々のハイトホルダーで184.6cm、 バルファースが182.6cm、カイルが180.0cm、ディウラが178.6cm、パティが161.1cm、 そしてリシェルナが157.1cmであり、 妖怪脚長のリシェルナの股下比率は約52%と……身長の半分が足の長さということもあってスカートを着用してわかりづらくしているようだ。

 あの後、リシェルナは一旦退席をし戻ってくると、その手には”パンドラ・ボックス”たらしめるものを持っていた。
「これが”禁断の小箱”、つまりは”パンドラ・ボックス”ですね。 この中には大いなる力が封じられていると聞きますのでお気を付けください――」
 だがしかし、フレアはおもむろに――
「おい! ちょっと!」
 カイルを初め何人かは焦っていた、 ”パンドラ・ボックス”というぐらいだから開けたらとんでもないことが起こる―― そういう先入観があるがゆえに身構えてはいたのだが、 こともあろうに彼女は箱を開けてしまったのだ! しかし――
「なるほど、やはりそう言うことでしたか――」
 リシェルナは冷静だった、それもそのはず――
「そう、この箱は単なる力の出入口、直接何某が入っている容れ物ではないのだ。 それにその力も特殊なものと聞いている――特殊であるがゆえに物理的に箱を開けても即ち力が漏れ出すというわけでもないのだ」
 そっ、そうだったのか――何人かは冷や汗をかいていた。
「で、使い方は?」
 バルファースは腕を組みなおしてそう訊くとフレアは頷いた。
「さあ、そこまでは。 実のところ、私も”アーティファクト”の大半は使い道を全く把握していない。 だから後でプロに依頼して頼もうと考えているところだな」
 使い道を全く把握していないのによくもいきなりふたを開けられたな……バルファースはそう訊くとフレアは答えた。
「さっきも言ったようなインプットがあるからな。 それに……人間界に適当に放置されているぐらいなら誰かが悪用しているとも考えられる。 となると、精霊界でも大きな問題として提起しているハズだから、 1,000年前の時点から”アーティファクト”を処理してしかるべきだがそれがないことから察するに――」
 ”パンドラ・ボックス”を開けてもそんなにヤバイことが起ころうはずもないことは明らかということか、なるほど。
「じゃあなんのための”禁断の小箱”なんだろうな――」
 バルファースはそう皮肉るとフレアは頷いた。
「いずれわかる日が来る」