ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第45節 フレアの目的

 第4級精霊と第5級精霊……どうしたら見分けがつくというんだろうか、 それぐらいわからないが、わかる人にはわかるというのだろうか。
「確かに”アーティファクト”はこちらの世界で作られたもの、 精霊界は人の世で作られたものに手を出すことはない――確かにその通りだ」
 彼女が言うには、”アーティファクト”でどうこうすると考えたのはエターニスなのだそうだ。 エターニスはあくまで”精霊界”への入口となる都の名前であり第4級精霊が住まう世界なのだそうだが、 つまりは人の世にある都ゆえに精霊界の決定ではないということである、なるほど、ということはつまり――
「精霊界自ら”アーティファクト”を必要としているわけではないということですかね?」
 フレアは頷いた。
「そう、精霊界は”これから現れる魔”を斃せとしか言ってこなかった、 要は手段についてはこちらに一任するということだ。 だが、これまで我々第4級精霊だけでそれをやるということは前代未聞―― それで検討した結果、1,127年前の”アルガノルドの戦い”で各地で問題を起こした”アーティファクト”を用いてみてはどうかという結論に達したのだ。 とはいえ、精霊界としては一度現物を見て確かめてみようということは前々から考えていること、 都合がよいと言えば都合がよいのだ」
 一応、少なくとも精霊界も”アーティファクト”には注目しているということか。

 ところで……”これから現れる魔”というのは? ラインハルドは訊いた。
「文字通りの”これから現れる魔”だ。 だが、そいつは現状精霊界で隔離している状況……やつの力だけは押さえつけてはいるが、 殻を破って人間界に出てくるのも時間の問題なのだ」
 時間の問題か――。
「そして、出てきたところを”アーティファクト”で叩くということだな?  んで、その様を精霊界に見せて”アーティファクト”とはこういうものだと示してみるというのが狙いってわけか」
 バルファースは言うとフレアは頷いた。
「世界の”フォース・ゾーン”……つまり”力”のバランスを均一に保つという役割をある程度になっているのが精霊界だ。 ただ、”アーティファクト”はある意味力の集合体ともいうべき代物―― そう、世界の力のバランスを均一に保つ上で”アーティファクト”が振るわれるという行い自体が障害となる行為そのものとなるのだ」
 ん、そう言われると――ディウラは気が付いた。
「1,127年前のように”アーティファクト”が振るわれた時代もあるけど――世界のバランスが保たれた?」
 フレアは考えた。
「まさにそれだ。だから”アーティファクト”というものがどのような代物であるのかを検討したいのと、 再び”アーティファクト”を振るい、具体的に何が起こるのかを検証しておく必要がある―― 精霊界としてはそのあたりが気になるところだな」
 世界を管理する側としては今後に備えて置きたいという狙いがあるらしい。

 一方で、ラインハルドはディウラに話をし始めた。
「本日も遠路はるばるよくお越しくださいましたな」
 ディウラはにっこりとしていた。
「はい! ……腰を悪くされたのですか?」
 心配そうに訊くと彼は答えた。
「身体のあちこちにガタが来ていて……困ったもんですな。 最初は足を悪くして動けなくなり、そしてゴロゴロしているうちに今度は腰ですよ、 不摂生が祟った結果というところですな――」
 それは……なんとも――。
「いえいえ、それでもまだ生きていますので心配には及びませんよ」
 いいのかそれで。
「さて、与太話はこのぐらいにして、本題に入りますかな」
 と、彼は言うとリシェルナに促した。
「はい! いつもお部屋をお貸しいただきましてありがとうございます!」
 そう言うと、ラインハルドは辛そうにゆっくりと立ち上がり――
「だ、大丈夫ですか……!?」
 何人かが心配そうに言うと、彼は答えた。
「いいんですよ、足が健康なうちは歩けと医者に言われましてな、 今日は足がいい感じなので散歩でもしに行こうかと考えていたところでございます。 一度立ってしまえば楽なんですよ、また座るときが大変ですが――」
 腰をやったからにはねえ。
「ということで私は退室しますのでごゆっくりとしていってくださいな」
 というと、彼は浅めにお辞儀をした後、部屋を去って行った。
「なんだか物腰の丁寧な賢者様だったなぁ――」
 パティはそう言うとディウラが答えた。
「ええ、彼は賢者になる前は高級ホテルのホテルマンだったみたいだからねえ。 このカーペットも当時のそのホテルから要らなくなったものを賢者になる際に譲り受けたみたいよ」
 なんと、そういうことか。

 ということで、今度は賢者リシェルナとの会話に。
「ディウラさん! みなさん! よくいらっしゃいましたね!」
「リシェルナこそ、相変わらず元気ね!」
「私は……賢者と言ってもまだまだみなさんに比べたら未熟な身ですから―― だから元気なのが取り柄みたいなものですよ!」
 なんとも気さくで話しやすい賢者様だった。
「だが、あんたも第4級精霊ってやつなんだろ?  つまりはこっちの女とは同じような境遇の存在ってわけだ。 未熟とは言うが、果たしてどの程度のものなのやら――」
 そう、精霊族ゆえに年齢の基準が人間族とは違い、見た目とは裏腹に相当の年月を生きている可能性がありそうだということである。