ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第44節 賢者という存在

 部屋にいたのはラインハルドと呼ばれる男性、職業は”賢者”である。 実はリシェルナも”賢者”であり、ヴァナスティアにいることもわかる通り、 所謂修験者の一人である。
 賢者というからには悟りを開くために探究し、日々修行するのが常であるが、 そのために巡礼を欠かさずに行っている者は多く、 その道程はこのヴァナスティアから、遥か南東にあるアレーティア神殿と相当長い距離を移動し続けるのだという、 なんともご苦労なことである。
 だが――
「腰、大丈夫ですかー?」
 リシェルナは優しそうに訊くとラインハルドは悪びれた様子で答えた、腰をやったのか。
「ええまあ、今日はなんとか。昨日よりはだいぶマシですな――」
 ラインハルドは1人座り用の小さなイスに座っていた。 ほかには大きなフワフワのソファとベンチがあるのだが、そちらには座らないのだろうか。
「せっかくいい椅子をいただいたのですが私には合わんようでしてな、 結局は来客用にしか使わんのです」
 ということだそうだ。

 これまでの通廊は外、または内装は質素そのものだったのだが、 部屋に入ると生活感あふれる空間となっており、 何らかのタペストリーが部屋中に飾ってあったり、 部屋の真ん中のテーブルの下には厚手のカーペットが敷いてあったりした、 さながらホテルのカーペットのようである。
「さあさあ、みなさん遠慮なくお座りくださいな」
 ラインハルドは気さくに言うとそれぞれ座った。 女性陣はソファの上、男性陣2人はベンチの上、 ザードは例によって女性陣、フレアの膝の上に座って甘えていた……ザードの相手は当番制?
 そしてリシェルナはまた別のイスにちょこんと座っていた。

「さて、今日もまた”大賢者”様は私らの行いを見られておるようだな――」
 ラインハルドはそう言った、”大賢者”?
「すべてを見通しているとも言われている賢者たちの極致と呼ばれる存在――本当か?」
 フレアはそう訊いた、そうなのか? ラインハルドは答えた。
「それは何とも。言ってしまえばすべてを見通すことなど不可能に近い。 ただ――そんなことを言っているような私なんぞでは到底及ばぬ存在と言えることでしょう。 恐らくですが、すべてを見通すとは言っても案外限界があるのかもしれません。 そもそもそのようなことを成し遂げた者はまずおりません。 それに……成し遂げた者は扱いも変わってくるハズですが…… そのような者がいたような話も聞いたことはないですね――」
 あくまで架空の存在か――。
「話を脱線させてすまぬな。さて、話は何でしたかな?」

 フレアは”アーティファクト”の話を切り出した。
「つまりは”パンドラ・ボックス”ですか、目的は一体どのような?」
 フレアは答えた。
「”これから現れる魔”に対抗するためだ」
 ん? どういうことだろう? ”これから現れる魔”?  カイルは首をかしげていると、ラインハルドが訊いた。
「ふぅむ……だが、つかぬことをお聞きしますが、 あなたは恐らく第4級精霊、つまりはエターニス……”精霊界”からのお使いである身。 ”精霊界”といえば人間界に干渉せぬことが通例だと認識しております。 それはつまり、”アーティファクト”というものには手を出さぬべきということですが――」
 えっ!? バレているのか!?
「賢者というのは何とも侮れぬ存在だな――」
 フレアは意を決して話を始めた。