一方の女性部屋、フレアとディウラとパティはもちろんのこと、
母親に甘えたい盛りのザードもそこにいて、今はディウラに甘えて眠っている、
誰にでも甘えるのね。
「あいつの許嫁だったのか!?」
フレアは驚いていた、そう、ディウラは将来ディーマスと約された身だったのである。
だが――
「彼は自由を選んだ、昔、名うてのハンターに助けられたことがきっかけだったんでしょうね。
もちろん、それは彼自身でなくて私のため――貴族の女って不自由なもんで、私はあれが本当にイヤだった。
一応、お父様にはたくさんワガママを言ったけど、それでもお屋敷の中の出来事だけが私のすべてだった。
結婚するまで他所の男の人と会話することは一切許されず、唯一の話し相手は許嫁のディーマスだけ――」
彼女は遠い目をしていた。
「つまり、海賊が自由な世界に連れて行ってくれたのね――」
フレアはそう言うと、ディウラは嬉しそうに言った。
「ええ、そう。
彼は優しいのよ、だから将来彼と一緒になるんだったらそれはそれでよかったのよ。
だけど――彼の両親が亡くなると、彼は自ら自由になることを決断した。
自由なんて羨ましい……私がそう言うと、だったらお前も自由になれよと言ってくれた。
その時に気が付かされたの、彼の選択は私が自由になるための選択だったんだって。
それで許嫁としての関係も解消……そして私がハンターになったなんて話を訊いたお父様は酷く悩んでいたわ」
決断が早い……パティはそう思ったが、フレアは訊いた。
「同郷の血筋故の決断の早さだな――」
え、同郷? パティは訊いた。
「あ、やっぱりそうだったんだ?
ということはつまり、フレアもやっぱり”プリズム族”?」
プリズム族、正式にはプリズム・エンジェル族と呼ばれる精霊族の一種である。
だが、世界的にその認知度は低く、同じ精霊族というくくりの中でも知っている者はまずいない。
そのため、パティとしてもそんな種族いるんだ―程度にしか思っていなかった。
「だが、まさかこんなところで同族に出会うとは珍しいな」
「本当! 珍しいですよね!」
それもそのはず、プリズム族はグローナシアの世に出て何かをするような種族ではないためである。
基本的には彼女らの里であるラムルの里で独自の文化の中で生きており、外に出ることは稀である。
「外に出ない? なんで?」
パティは訊いた。
「プリズム族には掟があるからな、みんなそれを守って生きているんだ」
なるほど、パティは納得した、でも――
「でも、フレア姉様もディウラ姉様も、つまり外の世界にいるんだよね? それは?」
フレアは答えた。
「私は特別で、精霊界からの啓示を受けているから外での活動が許されているのだ。
ディウラの場合は――」
彼女が答えた。
「私は外っていうかバンナゲートで生まれているからねー。
もちろんお母様もプリズム族だけど、お母様は”プリズム・ロード”だから外の世界での生活が許されているんだ」
”プリズム・ロード”? フレアが答えた。
「プリズム族の中で選ばれた者だけが外の世界で生きることを許され、
外の世界でプリズム族として修行することになる。
それによってプリズム族の生ける伝説となり、
プリズム族としての規範となる存在として道を示すと同時に世界に生きるものに対しても規範となるように日々精進するのだ」
い、生きる伝説……そんなのがいるのか、偉いこっちゃ……パティは唖然としていた。
「さらにプリズム族はほかの精霊族にはない特徴がある。
それは、プリズム族にはほぼ女児しかいないことだな」
えっ、女の子ばかり? パティは訊いた。
「恐らくプリズム族の遺伝子構造の問題だと思われるが、
プリズム族から生まれ出る子はほぼ女性なのだ。
つまり、プリズム族は女性社会ということだな」
なるほど、女性社会ということなら女性が表に立って頑張るってことか、パティは思った……
同郷の血筋故の決断の早さと言っていたが、たとえ女性だろうと男顔負けの行動をすることも辞さないのか。
ということはつまり、恐らくディウラのお母様は娘がハンターになるって言って飛び出したことについては反対している可能性が低そうだ。
でも――それだけを考えれば自分にも覚えがあったパティ。
まあ、人によるところといえばまさにその通りなんだけど、それゆえに2人に親近感がなおも沸いたパティだった。
だが――
「ん? 女の子ばかり生まれてくるってことは……結婚とかどうするの?」
そう、そう言う種族となると、どうやって子供を産むのかが課題となる。
「それはもちろんディウラのお母様のように相手を見つけることになるのだ」
相手って……異種族の男ってこと? それにはディウラが答えた。
「そう言うことになるわね。御覧の通り、フレアって美人でしょう?
この美貌で異種族の男の気を引いて男をゲットするのよ♪」
なっ……フレアは焦っていた。
「私にはそんなものは不要だ! 私には使命があるからな!
だいたい、私なんかよりもディウラのほうこそ!」
「私? まあそうね……良家の御令嬢だから最低ラインぐらいは満たしておかないとねぇ♪
だから私なんかよりはフレアのほうが――」
ディウラは得意げに答えた、なんだか言い合っているようだが2人の波長は合っていた、仲がよさそうだ。
とにかく、彼女らは美貌を用いてラムルの里……そこは森の中にある場所だそうだが、
その森を迷いの森にしてのこのこやってきたエモノという名の男をたぶらかし、異性をゲットするんだそうだ。
異種族の男だから生まれてくる子はハーフになるわけだが、遺伝子もそれを見越しているようで、
ほぼ純潔に近いプリズム族が生まれ出てくる可能性が高いのだそうだ、すごい。
そして、男をたぶらかす方法というのが――
「誘惑魔法!? すごっ! 2人ともそんなの使えるんだぁ……」
パティは舌を巻いているが、フレアは……
「私? 私は……精霊界の啓示を受けている私は戦いの腕のほうを磨くことにしたからな、
だからせいぜい使えなくもない程度だが、そもそも本格的に使えるような修行は一切していないし、
しばらく使うこともなかったから使い方も忘れてしまっている――」
なんと……なんかもったいないような……。一方のディウラは――
「私もそんな修行してないなぁ。
そもそも私は外の世界で生きていることが前提だから、
外の世界で面倒を起こすような能力は教わらないで育っているんだ」
そっか、誘惑魔法を使って滅茶苦茶したらいろいろとやばいことになるか……パティは考えていた。
なるほど、それゆえの閉鎖的種族、掟に従い外の世界に関わろうとしない種族なんだな、パティは考えた。
でも、2人はほぼ確実に見た目勝ち組確定だな、パティはそう思った。
「つまり里の子たちは誘惑魔法が使えるってこと?」
パティは訊くとディウラは答えた。
「ええ。実は数日前にラムルに寄ってきたんだけど、
誘惑魔法は一族の伝統だからその力を絶やさないために自分たちを律しながら使っているみたいね」
ふーん、なるほど、パティは思った。