ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第40節 命の尊さ

 そして……自由となったディーマスはバルファースとして世界をまたに駆ける海賊となった。
「お前! 海賊だろ!」
 どこかの街道、人っ気のないところで2人は対峙していた、彼らの馴れ初めである。
「だったらどうした? 生憎、やり合う気はないんでね、そいつはしまっておとなしくおうちに帰るんだな」
 と、彼はどこかへ去ろうとするが、カイルは後ろに回り込んだ!
「逃がすかっ!」
 バルファースはため息をついていた。
「うるさいハンターだな……」
 といいつつ、彼は銃を取り出した。
「いいからそこを退け」
 そうこなくっちゃ……カイルはそう言わんばかりにバルファースに挑んできた。

 だが――やはり飛び道具相手では分が少々悪く、カイルは足を撃ち抜かれ、返り討ちに会っていた。
「ったく、しつこいハンターだ、下手な殺しはしたくないが……仕方がねえか――」
 バルファースはカイルに銃口を向けていた。
「最後に言うことは?」
 カイルは口をつぐんでいた。
「黙ってないで、最後ぐらい何か言ったらどうだ?」
「うるさい! いいから殺るんならさっさと殺れ!」
 すると……バルファースは銃を収めた。
「なっ、なんのマネだ!?」
「なんのマネもなにも……言っただろう? そもそもやる気はねえってな。 下手に人を殺して追われる身にでもなってみろ、ますます面倒なことになる。 お宝は大歓迎だが命まで取る趣味は俺にはねぇよ」
 そういいつつ彼は去ろうとすると、カイルは足を引きずりながら……
「そういえばボコボコにしたんだっけな、 そのまま放置しとくといずれかは死んじまう、寝覚めが悪くなるな……」
 バルファースはそう言いつつ、カイルのほうに向かい……
「ま、ちょっとやそっと痛めつけても死にやしねえだろうな」
 と言いつつカイルの腹にきつい一撃! カイルはその場で気を失った。
「ったく、けが人はけが人らしくおとなしく寝てろ」
 バルファースはカイルを担ぎ上げた。

 カイルはバルファースに助けられた。
「まさか、海賊に挑んだのに助けられるとは――」
 バルファースはため息をついた。
「テメェのためじゃねえ、俺の保身のためだ」
 保身? カイルは訊いた。
「いくら海賊でも人の命を盗る度胸まではないもんでね、 頂戴するのはお宝だけで十分さ」
 こいつの行動原理はそれか……あまり悪名を聞いたことがない要因もそこにあった。
「それだけだったら単なる冒険家じゃないか! なんで海賊を名乗っている!?」
「道楽のためさ。お宝にはスリルがつきものだろう? そうじゃなければ張り合いがない」
 マジかこいつ……まあ、気持ちはわからんでもないが。 するとバルファースは酒瓶を取り出し、ぐっと口に突っ込んだ。
「ん? なんだ? 飲むか?」
 バルファースは訊くがカイルは何も答えなかった。
「流石に成人してんだろ? いいから飲めよ、足の痛みが和らぐ」
 カイルは酒瓶を突き出されると、それを手に取り一気にそのままぐっといった。
「おうおう、いい飲みっぷりじゃねえか」

 バルファースはカイルの話を聞いていた。
「ハンターか……」
「ああ。ハンターは嫌いか?」
「好きとか嫌いとかそういうのはねえな。 そもそも、俺もハンターやってたからな、 今でも一応続けてはいる……道楽の延長でしかないがな」
 バルファースは話を続けた。
「昔、名うてのハンターに命を助けられてな。 そいつが言うには、命さえあれば人は自由に生きられる―― 子供心ながらにそう教えられたような気がした。 だから、俺は命まで奪うようなマネだけはしたくねえのさ」
 そうだったのか、カイルは話をした。
「俺の親父も似たようなことを言ってたな。 親父も名うてのハンターなんだよ、”タティウス”っていうんだけど、知ってるか?」
 バルファースはそれを聞いて内心驚いていた、だが――
「知らん、訊いたことないな」
 カイルは頷いた。
「だよな、東の大陸まで届いているハズないか――」
 すると――バルファースは言った。
「だが、なんともいい親父さんを持ったな、命を粗末にするなってことだろ?  親父の言うことには従うもんだ」
 まさにその通りだ、カイルはそう思った。
「さっきのことは悪かったよ、海賊だからと思って――」
「気にすんな、狙われるのには慣れている、それも道楽のうちだ」
 そして、それが何故道楽なのか知ることになるのは時間の問題だった。

「どうしたんだ?」
 カイルはバルファースに訊いた、話はヴァナスティアのホテルに戻ってきた。 バルファースは首を振りつつ答えた。
「命さえあれば人は自由に生きられる――つまりはそういうことだな」
 なお、バルファースはタティウス……つまりカイルの父親に命を助けられたことは一切話すことはなかった。