就寝前、カイルとバルファースは男部屋で一緒に話をしていた。
「まさか、ディウラさんの家がハンターズ・ギルドの総本山のトップだったなんて――」
カイルは驚きを隠せないでいた。
そう、彼女の家はそういうお家柄、ゆえに言ってしまえば”ボス”なのである、
厳密には”ボス”ではないのだが。
「昔ながらの貴族の家柄、不自由な生活ってのはつきもので、
その柵から逃れるためにとお互いに自由を選んだ」
バルファースはそう言うとカイルが言った。
「自由を選んだ結果、あんたは海賊を名乗り、
ディウラさんは自分のところで経営しているハンターの道を選んだのか……」
「良家の御令嬢様がまさかハンターになるとは……特に親父がひどく悩んでいたようだな。
俺は決心した時は既に親父もお袋もいなかった、でも、俺が何もしても奨励していたハズだ」
「そうなのか?」
カイルにそう訊かれると、バルファースはカイルを見ながらなにやら考えていた。
ディーマスの過去――
「よくやったぞ、ディーマス!」
「はいっ! お父様っ!」
彼らは狩猟を行っていて、魔物を仕留めていた。
「お前もだいぶうまくなったな、だが、油断は禁物、魔物との戦いは常に死と隣り合わせ、
常に心掛けておくのだぞ? いいな?」
「はいっ! お父様っ!」
なんともマジメな少年時代だった。だが、その時――
「お父様! あの魔物は!」
いきなり巨大な魔物が現れた! それには流石にお父様も慌てていた――
「いかん! ディーマス、早く馬車に!」
お父様はそう促すが、ディーマスはあることに気が付いた――
「あそこに逃げ遅れた人がいます!」
なんだって!? どうするか――お父様は悩んでいた。
「くっ、だが……止むをえまい! ディーマス! 早く馬車に乗るのだ!」
だが、行動が一手遅れたせいで魔物は旅人のほうではなくこちらのほうへと目前まで迫ってきた――
「お父様!」
「いいから! お前は逃げるのだ! 逃げて、生き延びるのだ!」
だが――そんな時にこそ救いの手が現れる……。
「おりゃあ! はぁっ! とりゃあ!」
なんと、1人の剣士が果敢にもその魔物めがけて挑んできた!
「とどめだあ!」
そして、魔物はみるみるうちに討伐された……。
「ふう、”凶獣”が……こんなところにまで――」
彼は剣を収めていた。彼に対して父親が話しかけた。
「どうやら、命を救われたようだな」
だが、男は――
「例には及ばないですよ、俺はハンター、こういう魔物から人々を守るのが仕事なもんでね」
少々遠慮がちだった。すると、父親はそのハンターの風貌を見て気が付いた。
「もしかして、あなたは”タティウス”では!?」
タティウスってまさか――
「へえ、俺の名前がこんなところにまで知れ渡っているなんて光栄だね。
でも、どういうことなんだろう?」
だが、タティウスは気が付いた。
「そうか、バンナゲート貴族か。
だけど――俺みたいな者まで注目されるだなんてますます光栄だね!」
すると、ディーマスは前に出て言った。
「タティウスさん! ありがとうございます!」
タティウスは気さくに返した。
「いやいや、そんなどういたしまして――」
そう言いつつ、タティウスはディーマスを見ながら考えていた。
「とにかく、キミの命が救われてよかった」
父親は頷いた。
「キミは素晴らしい行いをしたのだ、ハンターというのも捨てた者ではないな」
タティウスは嬉しそうに話をした。
「だね、金のためならって輩が多いから悪いイメージを抱く人もいるけど……まあ、人それぞれだからね。
もっとも、俺は魔物とあらば斃すだけだと思ってる、人々の自由を奪う魔物は斃されるべきってね。
お金を稼ぐにしても命がなければ本末転倒だ、少なくとも俺はそう考えてる」
命あっての物種……命さえあれば人々は自由に……言ってしまえば確かにその通りである。
「タティウス殿、あなたはなんとも素晴らしい人だ。
どうか、せめてうちに一泊でも休まれてみてはいかがか?」
タティウスは首を振った。
「いや、せっかくの申し出、宿を提供してもらえるというのならお言葉に甘えたいところだけど、
これでも実は急ぎの身でしてね、日没までにはジェロサートについておかないといけないんですよ――」
それは残念――父親は頷いた。
「そうか、それでは道中気を付けていかれよ」
タティウスは頷きつつディーマスに言った。
「そうそう、実は俺にもキミよりももう少し小さな子供がいるんだよ。
俺の子供はわかんないけど、キミは大きくなったらお父さんみたいに立派な人になるんだろうね!」