バルファースは船の入港許可が出たので指定された船のドッグへと接岸、
ヴァナスティア島へと上陸した。
だが――定期連絡船の渋滞状況からもだいたいわかるとおり、
上陸してからも町は混雑していた。
「ボク、もう頭の中がグルグルだよ――」
「ああ、俺もこの光景ばかりはゴメンだ――」
「早いところ町を出よう――」
「やれやれ、千年まで待てないもんかねぇ……」
ザードはあからさまに嫌がっており、
カイルも頭を抱えてそう言うと、フレアが歩を促し、
バルファースがこの光景を皮肉っていた。
「みんなー! こっちこっち!」
一方のパティは既に町の入口のほうに移動していた。
「あれ、肝心の町の外側のほうは人が少ないな?」
カイルはそう言うとバルファースは頷いた。
「だろうな、いくらヴァナスティア方面とはいえ魔物が出る、
だから賑わうといってもせいぜい港町の中心部、
もしくはヴァナスティア本山についているかのどっちかだな」
それもそうか、ヴァナスティアはこの島の山の上、
つまりは登山となるためあっさりとたどり着くようなものではないのだ。
もちろんバルファースの言うように道中は魔物もやっぱり出る、
だから人々がおいそれと簡単にヴァナスティアへと向かうということ自体が難しいのである。
とにかく、ヴァナスティア門前町の街並みは白くて美しいことでも有名な場所なのだが御覧の通り、
それを楽しむことなどできるはずもなく彼らは先を進むことにした。
ヴァナスティア島と言えばその大地の色合いがとても素晴らしく、
まさに新緑と言えるようなその大地の上を歩いているような感覚だった。
緑は深緑というか新緑というかというほどの青々とした土地で、
その上に走っている街道は白い色となんとも綺麗な土地である、これが聖地というやつなのか。
「聖地って言うからには魔物もおとなしくしてくれりゃあいいんだがな」
そいつらに遭遇すると、バルファースは皮肉っていた、彼に一票。
そして、ヴァナスティアと言えば名物とも言える山道が巡礼者や観光客、あるいは冒険者の行く手を阻んでいるのである。
それもそのはず、これまでの新緑の土地から一気に殺風景な岩肌が見えてくると、
その上に敷かれている登山道へとたどり着く前に99段の岩の階段が立ちはだかるからだ。
だが、その99段はまだまだ序の口、その後は大体半日以上はくだらない距離の登山道が続くのである。
無論、標高の高さゆえに空気も薄く、息苦しさが続く。
緩やかな傾斜と段差が続く山道故に休憩を挟まないととてもではないがヴァナスティアに辿りつくことはできない。
しかし、そこまで制したとしてもヴァナスティアに入る前に最終関門となる最後の壁が立ちはだかるのである。
それは……ヴァナスティアの町へと通ずる最後の108段の階段である……。
とまあ、半ば脅しのような感じになってしまっているが抜け道が存在しており、
階段についてはロープウェーによる昇降機なるものがあるため、99段も108段もこれでショートカットできる。
まさに文明の利器なるものであるが、修行に来た者はもちろん一部の巡礼者はそんなものは使わず階段を使うのである。
ただし、半日以上はくだらない距離の登山道については流石に長い距離を運行する機械を設置することなどできなかったため、
この区間だけは徒歩が余儀なくされる――階段がないだけでも随分と楽な工程であり、
それこそ山道の中間地点には山荘による宿も設置されているため、
休憩所はもちろん夜を明かすうえでも不自由はしない。
だが――時代によってはそのロープウェーさえ存在しなかったこともあるようだ、
そういう時代ではなんとすべての来訪者が階段を昇り降りしたのだそうだ……
休憩所や宿についてはどの時代でも大なり小なり存在していたらしいが、それを抜きにしても当時の人たちは本当にすごい――
ヴァナスティア山道を6~7割進んできたところにある休憩所、
カイルたちはベンチに座って休憩しているところ、フレアはじっと立って何かを眺めていた。
「お姉様、どうかしましたか?」
そういえば、パティは今回再会した時からずっとフレアのことをお姉様と呼んでいる、
以前別れた時からすでにそうだったようだがそこまで親密なんだな。
「ああ、森を見ていた」
森――この休憩所の先に分岐路があり、
北西側に進むとヴァナスティア方面だが、北東側に進むと未知は緩やかな降りとなり、
その先には荒廃地帯が広がっている。
緩やかな降りの先にある一帯ということでヴァナスティア方面側から見下ろすこともできる位置関係にあるが、
そちらは何もない不毛の土地、誰もそっちのほうへと行き来するようなことはない。
「確かに、言われてみれば森なんですよね、
荒廃していても木々が並んでいますからね――」
そう、言ったようにここは荒廃地帯とされている。
ただし、実際には枯れた木々が無数に生息しており、当時は森だったことがわかる一帯である。
「ん、でも確かに――この森って死んでいるのでしょうか?
死んでいるにしては随分長らくこのままのような――」
パティは首をかしげていた、すると――なんと、突然目の前の枯れていた木々がいきなり燃え広がった!
だが、いずれの木も何故かいずれも青々と生い茂っており、どれも枯れたような木という感じではない……。
しかもあろうことか、何故か周囲の時間が止まっている――カイルもバルファースもザードも、
一緒にその光景を眺めているパティや行きかう人々の時間も――そう、動いているのはフレアだけである――
いや、この光景はフレアの脳裏に広がっている光景であり、実際ではない。
フレアは目の前で火事になっている森を眺めながら考えていた。
「……8億年前の光景、”終末の森”――今でも”戒め”として長く長く燃え続けているのか――」
えっ、どういうこと!?
「……姉様……? お姉様……?」
パティはフレアを心配していた。
「……? ああ、すまない、ちょっと考え事をしていてな――」
フレアは我に返った。
周囲は元の時間を刻んでおり、目の前の森の炎もなく、
ただただ殺風景な荒廃地帯の上に枯れた木々が無数に広がっているのだった。
そんな中、フレアはその森のとある一角に気が付いた。
そこには――
「あっ、お姉様! 見て! あそこの木、面白いです!」
パティもフレアと同じところに注目したらしい。
そこの木々はまるで白い葉っぱが無数に生えているように見えるのだった。
それに対してフレアは――
「あの白いところはエターニスでは”白妙の森”と呼んでいるらしい、つまり――」
そう訊いてパティはワクワクしていた。
「噂のエターニスさんがですか!?
名前を付けるぐらいだからつまりこの森は生きているってことですよね!」
そう言うことらしい。
「まだ規模は小さいが、何万年かすればさらに大きくなるだろう」
「何万年……流石に生きてないやぁ……。
でも、そうなるといいですね!」
2人は嬉しそうにしていた。
その木は白い葉っぱなどではなく、
寒々とした場所ゆえに氷の結晶が固まってそれが枝に乗っていて、それが白く見えるだけである。