ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第36節 人は見かけによらなすぎる

 パティの合法ロリっぷりも大概だが、フレアの見た目とのギャップも大概である。 正直、カイルとしては最初の印象では彼女すらも若干二十歳かそこらの若い女だから年下という印象でしかなかった。 ただし、彼女の場合はしゃべり方からして男勝りで近寄りがたいキャラ性ゆえに目上とか目下とか考える余地がなかった。
 が、その後で実は精霊様だと聞かされ、見た目とは裏腹に寿命の点から絶対に年上だと考え直したのだが、 話を聞いてみると実は32歳……人間族水準のリアルで捉えられても仕方がなさそうなあたりがますますリアル感を助長させる絶妙な年齢である。 というか、バルファースと同い年じゃねえか、カイルは悩んでいた……なんか妙にリアル……

 パティはその後ライフルの手入れをしていた、スナイパーライフルというやつである。
「なるほど、このスコープで狙って撃つのか……」
 カイルはスナイパーライフルを見ながら言うと、彼女に試してみるかと訊かれたのでやってみた。
「ええっ……こんなんでよく当てられんな……」
 カイルは2階のベランダから遠くにある岩に照準を合わせていたが、照準を合わせるだけで苦労していた。
「岩だったらまだ簡単だよ、動かないもん」
 パティに言われた、そうだ、彼女はそのうえで鳥……つまり、対象が動く相手を仕留めたんだった。
「飛び道具共通になるが、動く相手に関しては先を読まなければ当てるのが難しい。 そのうえでの彼女の技量はギルドが軽視してもいいような腕ではないというわけだな」
 フレアはそう言うとザードが嬉しそうに言った。
「じゃあ、やっぱりパティお姉ちゃんもすごいんだぁ!」
 そう言われてパティは両手を腰に手を当てて「えっへん♪」と言いつつ誇らしげな態度をとっていた。
「人は見かけによらないってことだな、あの女みたいに――」
 バルファースはその光景を見ながら悩んでいた、あの女って誰?

 家の中、パティはリビングにおいてあった自分のハードケースを開けると、そこには……
「ライフルだけじゃないんだな……」
 いくつかの銃器が隠されていた。
「もちろんだよ、とりあえず一式持ってきたんだ。 うちの家系は狩猟のためにこういう道具を一式そろえているんだ。 これは全部お父さんから譲り受けたもんなんだー」
 お父さんから譲り受けたにしては少々度が過ぎている気がするが……カイルはそう言うとフレアが言った。
「父親なんてのは娘にはとにかく甘いもんだ。 家によっては娘が家を出ること自体反対するもんだが、 パティの家はどうやらそうではないらしい」
 娘にはとにかく甘い――カイルはなんとなく納得した、 これまでの経験則的に男親なんてのはだいたいそんなもんらしい。 ということは――フレアもそうだったんだろうなきっと。 フレアの話について、パティは楽しそうに言った。
「お父さん、昔から甘々だったからねー。 あんまり甘々だったから私が家を出るなんて言ったらひどく後悔してた。 お母さんは私のことになると、いつも甘々なお父さんを引き締めてた。 だけどお母さんも優しくって、私がやりたいようにやらせてくれたんだ。 でも……やるからにはちゃんとやれって、銃を扱うときもそんなだった。厳しいときは厳しい人だった。 だから――私が家を出るって言った時もちゃんとやんなさいよって言ってお父さんと一緒に送り出してくれたんだ――」
 いい両親だな。そして彼女はハードケースから何かを取り出すと、 なんか強く引っ張っていた。
 そこへカイルが訊いてきた。
「なんでもいいんだが、これだけのものを持ち歩くのって重たくないか?  むしろ持ち上げられない気がするんだが――」
 パティは頷いた。
「普通はね。でも、このケースには仕掛けがあって、内部に重力を誤魔化す魔法が込められているんだ」
「精霊族ではよくあるやつだ、それこそこの十三式にも同じものが備えられている。 だから本来であればたとえミニチュアであっても持ち上げられないほど重たいはずだがそれを可能にしているのがその機構ということだな。 もちろん、十三式を家に展開した場合はその効力も一時的に失われるがな」
 と、フレアが補足した、なるほど。 つまり、フレアの魔法のカバンも同じということか。
「だけど……こいつの調子が悪くって、これがきちんと機能していればもっと楽にケースから取り出せるのに――」
 と、先ほどから何かを引っ張っている彼女、それは?
「これ、ケースが締まってても外から取り出すことができるようになるものなんだけど……」
 そんなことができるのか! まさしく手品だな! カイルは驚いていた。
「どれ、貸してみなさい――」
 と、フレアがおもむろに手を出すと、パティはそれをフレアに渡した。 大きさは手のひら大の円盤状の代物だった。
「なるほど、ネジで回すタイプの容れ物ということろか」
「そうなの。で、それを開けたいんだけど、なんか斜めに入っているらしくってどうにもならないんだよねぇ……」
 つまり斜めに入ったネジ……それは難しいや。 ましてやそれが手のひら大の大きさのものとなると……相手は金属のようだし分解するのは不可能、だが――
「ふんっ!」
 精霊様の魔法なら何とかなりそうか!? すると――
「もう一息だ、はぁっ!」
 え……いや、まさか――
「力づくでやってるのか!?」
「こんなことに使える便利な魔法などないっ!」
 と、最後の彼女の掛け声とともにケースは分解された!
「すごーい! お姉様ってこんなことまでできるんですね!」
 なんて怪力なんだ……カイルはなんかとてもヤバイものを見てしまった気がする、 見た目とは裏腹にとんでもない力を持っているんだなこの人……。そして――
「なるほど、どうやら容れ物の中のエンチャント材に込められている魔力が切れているのが機能しない原因のようだな。 それも完全に切れている、これではどのような魔力が必要なのかまったく見当もつかんな……」
 なんと! つまりは彼女の行為は無駄だったということか――
「ゴメンナサイ、お姉様……ここまでしてもらったのに――」
「開けられるはずのものが開かないのはなんともモヤモヤするからな、これはこれでいいんだ」
 確かに、パティは申し訳なさそうに言うがフレアの言うとおりである。フレアは続けた。
「”アーティファクト”の修理と共にこいつの面倒も専門家に見てもらうといいだろう」
 その手があったな。 というのも、カイルのドラゴン・スレイヤーがこの状態ということなら他の”アーティファクト”も推して知るべしである。 その際に見てもらえれば――