ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第35節 実は裏方お姉さん

 しかし、それでも何故彼女はハンターに採用されなかったのだろうか、そればかりが気になっていた。
「だって、採用担当の一番エラソーなヤツが私を見るなりいきなり”事務”って言ったんだもん……」
 それはなんともひどい扱いである。
「願書とか出さなかったのか?」
「もちろん出したよ?」
 前もって提出というのはなく持ち込みなので、 その際の上っ面の内容と当人の印象でしか評価されていなかった可能性がありそうだ。
「出して見せたけど、それから”私の名前はパトリシア=レイナンドです!  アルカンスタッドから来ました! よろしくお願いいたします!”……って挨拶した直後に”事務”って言われて選考が終わったんだもん……」
 それはますます酷いな! それはカイルも流石に非難していた。
「それはドミナントから”お高く留まっている”と言われても仕方がないな。 現に私の時もそうだった、事務の男からの第一声は”店を間違えていないか?”だからな、 シュリウスは男尊女卑が過ぎるのだ――」
 当時のカイルだったら普通のことだったが、今のカイルではそれもいかがなものかと思っていた、 だって、彼女の能力は本物だ、だから――当時の自分と今のシュリウス・ギルドに言ってやりたいところである。
「それにしても、”アルカンスタッド”から来たって? 東の大陸から?」
 パティは頷いた。
「当時、ハンターを募集しているところで一番近いのがシュリウスしかなかったからね。 だから失敗だったかなーと思ってたんだけど、 それでも、何事も経験かなって思って事務仕事こなすことにしてたんだ――」
 そうだったのか。
「アルカンスタッド……なるほど、パティは”英雄アウデューラ”の末裔か」
 パティは頷いていたがカイルは首をかしげていた。
「英雄アウデューラって?」
 パティが説明した。
「今から大体19億年前、セント・ローアの後の時代で世界を均したっていうお方なんです!  しかも人間族と精霊族との懸け橋になるため尽力したお方だとも聞いていますね!」
 そして、その英雄が活躍したのが今のアルカンスタッド付近なのだそうだ。
「それだけの英雄だと国を興しているはずだけど聞いたことがないな。 まあ、人それぞれって言うからそんなもんか――」
 確かに、これまでの歴史では往々にしてそんな感じであるが、 アウデューラがしない最大の要因があった、それは――
「アウデューラにそのような考えはない。 そもそも国を興してどうこうするというような考えは人間族ならではの考え方と言えることだろう」
 ん? ということはまさか――
「そうか、アウデューラさんは精霊族なんだな」
 カイルが言うとパティはにっこりしながら答えた。
「そりゃそうだよ! だって、末裔の私が精霊族だもん!」
 な、なんだってー!? パティは精霊族だったのかー!?  カイルはとても驚いていたが、フレアはその様子を見ながら呆れた態度で言った。
「期待を裏切らないな、絶対に驚くと思った」

 まさか彼女までもが精霊族とはまったく予想だにしていなかったカイル。
「そもそも”アルカンスタッド”はアウデューラの末裔たるダーク・エルフの里と言ってもいいほどダーク・エルフが多い土地でもある」
 それはなんとなく聞いたことがあるがパティがダーク・エルフだって!?  彼女はどう見ても色白の肌、ダークエルフといえば褐色の肌を成していることでも有名だと訊いたことはあるがそれとは明らかに違うため、 どちらかというとフレアのようなライト・エルフ族なんじゃないのか!? カイルはそう訊いた。
「そもそもダークエルフの成り立ちは言ったようにアウデューラが人間族と精霊族との懸け橋に…… それによってできた交配種がルーツだ。ただ、その交配種は肌の色が褐色になると聞く。 それが後の世ではダーク・エルフと呼ばれる種族だ。 ただ、ダーク・エルフの中には劣性遺伝として先祖返りとも呼ばれる特徴が現れるものもいる、つまり……」
 アウデューラは精霊族の中でもライト・エルフ、 つまり、パティは先祖返りによってアウデューラと同じライト・エルフの特徴を持ったダーク・エルフなんだそうだ。 さらにそれに加え、ダーク・エルフならではの特徴もしっかりと持っていた、それは――
「ライト・エルフ族ならではの長命な特徴と人間族の短命な特徴が彼女の身体にもしっかりと現れているだろう」
 そっ、そうなのか……!? よくわからないが――すると、フレアは訊いた。
「カイル、お前、年はいくつだと言っていたか?」
「えっ、俺? 俺は……27だけど――」
 するとそれに対し、パティは態度を大きくして答えた。
「なんだよ! 今まで年上ぶってたくせに2個下じゃんか!」
 何だって!? カイルは度肝を抜かされていた。
「そ、そうだったのか!? てっきり年下……てっきりまだ20歳にすらなっていないものかと……」
「そんなわけないじゃん! もうとっくに成人してるよ!  ハンターに応募したのもそんぐらいの歳だしね!  それに、家に帰ったらビールをかっ食らうのがアタシの日課! どう!? わかった!?」
 はっ、はい……カイルは年上のお姉さん相手にぐうの音も出なかった……。