ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第33節 裏方娘の真価

 ということでパティは家の中へと退避、すると――
「はぁー♪ 超快適ですー♪」
 彼女は酔いがすぐに消え去った――いくらなんでも早すぎる。
「ほう、よかったなお嬢ちゃん。 せっかくだからあっちのガキ……いや、ザードも入れてくれりゃあいいんだがな」
 バルファースはそう促した。 言い直したのはザードが反論し、フレアにも睨まれたからである。
「すごいな、この機能のおかげでミニチュアの家をどんなにひっくり返しても中は平気なんだな――」
 カイルは家の中を見渡しつつ感心していた、外は船体が波の影響で上下しているにも関わらず、 家の中はまったくそれを感じさせないほど地面が安定していた。 たまにぐらっとくることはあれど、それはいざ外に出た場合のために外とのギャップを少しずつ斜度を修正しているだけのことであり、 いくらぐらついても家の中が滅茶苦茶になるほどの影響もなければパティやザードが具合悪くなるほどのものでもないようだ。
「ザード君、大丈夫ー?」
 パティは心配していた。
「しばらくゲーゲー言ってたからな、休ませるしかないだろう」
 フレアはザードの背中を優しくさすりつつ、ソファの上にザードをそっと置いた。
「私、ザード君を見てますね……」
 パティはソファでつぶれているザードの隣にちょこんと座るとザードのことをゆっくりと膝の上に置き――
「ザード君ってカワイイなぁ♥ お姉ちゃんがいい子いい子してあげるね♥」
 そのままぎゅっと抱きしめ、優しく頭をなでていた……ザード、女性陣に人気な件。 しかしわからんでもない、彼はもはやぬいぐるみである。
「ほう、いい家に住んでるじゃないか、やっぱり持ってるやつは違うな――」
 今度はバルファースは家の中に入り、なんとなく皮肉にも聞こえるような言い方でそう言った。 それに対してカイルが反論。
「むしろ俺はお前にそう言いたいところなんだけどな」
 バルファースは無視し、そのまま外を眺めていた。
「こいつはすごい、陸から海を眺めているのとそんなに変わらないのか」
 確かに何ともすごい技術である、これがその精霊シルグランディアの力だというのか。
 ところが――
「ちっ、奴さん、おいでなすったな。 無賃乗船してないで仕事ぐらいしろよな」
 それは空からの招かれざる客、魔物が襲来してきたのだった。 仕事……魔物とあらば対峙するしかないか。

 バルファースは外に出ると早速銃を構えた。
「おらっ!」
 グローナシアの銃と言えば、所謂パーカッションロック式の拳銃が主流である。 所謂雷管式というもので、撃鉄を作動させてハンマーで雷管をたたいて点火し、銃弾を打ち出す仕組みである。 仕組みとしては陸上競技用のスターターピストルのそれに似ているものである、 あれは爆音を出すことのみを目的としているため実弾はないが。 さらに銃身内に溝を入れることで打ち出した弾丸に回転を加え、命中精度を高めることに成功しているようだ。
 だが、しかし……
「ご自慢の銃が当たってねえみたいだぞ――」
 カイルはそう言った、命中精度が良くても当たらなければ仕方がないのである。 すると、バルファースは得意げに答えた。
「位置が高すぎる、だからこれが普通だ。 それに所詮は道楽の一環、自慢しているわけじゃあねえんだけどな」
 すると――
「それより、あっちの女の弓矢のほうが俺としては信じらんねえんだけどな。 そもそも人が弓矢を使うってのも久しぶりに見たな」
 と、バルファースはフレアを見ながら言った、彼女は弓矢で狙いを定めていた、だが――
「やはり距離が遠いな――」
「ご自慢の大魔法はどうした?」
 フレアが構えるのをやめながら言うとそう訊いたバルファース。
「あれは”サンダー・フール”だ、 魔法という手もなくはないが、確実に仕留められなければ報復として集中攻撃に遭うことだろう」
 そういえばそうだったな――バルファースはそう言った、 どうやら似たようなことに遭遇したことがあったらしい。
 それにしても”サンダー・フール”……いつぞやの魔鳥の上位種というところか。 名前の通り、稲妻の魔法を使って船舶などに深刻な影響を与えることがある鳥……厄介である。
 だが、その時――空を突き抜けるような銃声とともに”サンダー・フール”の1体がいきなり撃墜された!  なんだろうか、3人は慌てて銃声が聞こえた背後を振り返った。
「このっ!」
 パティだ! 彼女は家の2階から銃器を使い、”サンダー・フール”を1体、また1体と次々に撃ち落としていた!
「いっただっきまーす♪」
 もはや名うてのスナイパーのごとく正確に狙いを定めると最後の”サンダー・フール”すらも撃ち落としていた。 それには3人も唖然としていた。
「ふう、ほぼほぼ白兵戦だから狙撃なんて久しぶりだけど、鈍ってなくてよかったぁ♪」
 彼女はなんだか嬉しそうだ。それに対して3人――
「どうやらとんだスナイパーが乗船していたようだな」
「らしいな、なんとも心強い娘がついてきたもんだ」
「……いつも持ち歩いているあのハードケース、銃が入っていたのか、初めて見たな――」
 バルファース、フレア、カイルは以前として唖然としていた。 そう、彼女はまさかの銃器使いだった。
「バン★」
 そして彼女は最後にカモメらしき鳥めがけて指で銃の形を作ると、 得意げにそう言って撃ち込んでいた。
「おねーちゃんってすっごーい! あんなことができるんだぁ!」
 中からザードの声が……どうやら起きているようだ。
「あっ、ザード君! 大丈夫ー?」
「ウン! 今はヘーキだよ!」
 家の中ではなんだか楽しそうだ。
「これは確かに……滅多なことをしたらすかさずハンティングされるようだな」
 フレアはそう皮肉るとバルファースは呆れ気味に言った。
「ったく、誰があの娘に遊びじゃねえってほざいたんだ?」
 お前だろ。無論、冗談のつもりで言っていたのだが。