ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第32節 裏方娘の決断

 パティはあの話の真相を聞いていた。
「”アーティファクト”かあ! 確かに、それならカイルでも邪竜が斃せたっていいよね!」
 どういう意味だよ……カイルは悩んでいた。 これまでからもわかる通り、お調子者なカイルゆえにパティにはそこまで信用されていない。 最初はむしろ謙遜していたハズなのだが――
「ああ、私も釈然としなかったがな。 しかし、アーティファクト”が”斃ったというのなら……ま、あり得ないことではないな」
 無論、カイルのその性格はフレアももちろん把握しており、感想としてはパティと同意見である。
「おいおいおい! フレアまで! ひでぇな!  アーティファクト”が”ってなんだよ! アーティファクト”が”って!」
 自業自得というやつである。 ちなみに、シュリウスにいた間、カイルが知らない間にフレアとパティは何度か会っていていろんな話をしていた。 中でもフレアから発せられるお調子者カイルの話は当人にとっては致命的な内容であり、 フレアの話を聞くほどパティの中でカイルの評価は落ちていった。 もっとも、それぐらいなのでパティとしてもカイルの性質についてはうすうす勘付いていたのだが。
 なお、それは別にカイルに限った話ではない。 フレアに近づこうとする男共は軒並み調子のいいやつらが多いこともあり、 フレアとしてはむしろ愚痴をこぼすことになってしまい、パティには申し訳なく思っていた。 が、それは間違いで、実はパティ自身もフレアと同じような愚痴を吐き出すこととなり、 むしろ彼女のほうこそフレアに申し訳なく思っていたほどである。
「ん、よし、決めた! 私もついていく!」
 えっ、何をいきなり!?

 パティの決断は突拍子もない決断であるが、 そもそも彼女はシュリウスでの現状に満足していないため、そのような言動があるのも無理もない。 今回彼女は事務方であるにも関わらず、 ローナスと共にフレアたちの事件解決の裏取りのためにやってきたのはフレアの存在に触発されたのがきっかけと言ってもいいだろう。 無論、シュリウスでの話し合いで意気投合するほどだったこともあり、彼女と再会したいという想いもあったはずである。
 もちろん実際に裏取りをしたのはローナスだが、 流石に情報屋1人で魔物のはびこる街道をドミナントまで向かって突き進むのは大変である。 そこでローナスにパティが同道したのだが――
「そもそもハンターに志望しているぐらいだから当然のように腕には覚えはあるしな」
 フレアは嬉しそうにそう言うと、パティはにっこりしつつ答えた。
「はい! もちろんです!」
 いやいやいや、だからって……カイルはそう言おうとすると、フレアは若干呆れ気味に言った。
「いいんじゃないのか?  だいたいカイルも似たようなもの、カイルがついていくぐらいなら彼女が一緒に行ったっていいだろう?」
 そもそもフレア的にはむしろウェルカムである、 せっかく仲良くなった間柄、彼女の現状から考えるに、カイルもついてきているしザードも一緒にいる、 だったら彼女がいたって何らおかしいことではないのである。
 だが、カイルとしては……確かに言ってしまえばフレアの言う通りだが、 だからってこんな華奢な女性が――いや、それを言ったらフレアに怒られるか、 戦えるのなら華奢であろうと何だろうと関係ないし、 そもそも彼女がハンター志望ということはそれだけの能力は持ち合わせていることは間違いない。 ギルドに認めてもらえないのならこの旅に同道して実力をつけ、 そして認めさせられる実力をつければ――
「わ、わかったよ、どうしてもって言うのなら止めはしないよ……」
「別にカイルに許可は求めていないんだけどねー!」
 あ、そういえばそうだった……カイルは我に返った。 その様を見てフレアは呆れていた。

 そして、港につくと早速船に乗ることにした。
「なんか人数が増えてんな――」
 先に船に戻っていたバルファースは彼らを迎え入れると、パティは……
「あー! 本当に海賊だぁ! お世話になりまーす♪」
 と、可愛げに言い返した。
「……やれやれ、遊びに行くわけじゃねえんだからな」
 バルファースは呆れながら言うとパティは再び言い返した。
「わかってまーす♪ だからオイタをしたら捕まえますからねー♪」
 バルファースは肩をすくませながら答えた。
「おーおー、怖い怖い」
 とにかく、そんなこんなでパティも仲間に加わることとなる。 見た感じ、ボウタイブラウスにミニスカートで可愛く仕上げたファッションにエンジニアブーツを履いた普通にいそうな女子という印象だが、 彼女にはどのような力があるのだろうか。 一応、背中にはギターケースのようなハードケースを背負っているが、 ギターにしては少々大きいし形も直方体だし……

 だが、船に乗るうえで最大の問題があった、それは……
「なあ、大丈夫か……?」
 カイルは恐る恐るパティに訊くと、彼女は――
「だっ、大丈夫……多分……」
 彼女もまた船酔いしていた……。
「ったく、どいつもこいつも……」
 バルファースは舵を切りながら呆れていた。
「悪いな、バルファース――」
 カイルは申し訳なさそうに言うとバルファースは言った。
「船を汚さなければいいんだがな」
 確かに、所有者としてはそう願いたいものだが――
 すると、フレアは思いついた。
「そうだ、そういえばその手があったな……」
 なんだろう。

 何をしたのか、その様を見てバルファースは呆れていた。
「ま、船を汚されるよりはマシだな」
 それはまさかの十三式展開である、つまり、船の上でカイルの家を広げたのだ!
「本当に効果があるのか?」
 カイルが訊くとフレアは頷いた。
「言ったろう?  十三式には特殊機能として家自身に圧縮・展開機能と外部からの保護機能……」
 その話は聞いた、それで?
「最後まで聞け。 そして、今回の問題を解決することになりそうな機能として内部の空間を保つための安定化機能が備わっているのだ」
 安定化機能……! そういうことか!