ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第30節 太陽の祭壇

 町の中央には”サンレイク”と呼ばれる湖があり、そのほとりに”太陽の祭壇”があった。 祭壇の近くには太陽の祭壇管理局があり、そこはヴァナスティアの管理下にある事務所である。
 そこの人に話をしてビンの中に入っている聖火を渡そうとしたところ、
「これこれ待ちなさい、仕事はそれだけでは終わりではありませんよ」
 あ、そういえば……カイルは思い出した。
「以前の炎は既に消えております。 さあ、新たなる聖なる炎を灯してくださいね」
 そう、この仕事は点火を見届けるまでがゴールなのである。なんとも光栄なことで。

 本来なら消火から点火までに際しての特別な儀式があるはずなのだが、 ハンターズ・ギルドとしてはそこまで面倒を見切れないということで断っている。 そのためか、現状では火を点けて終わりという状態に持ち込めるところまで折り合いがついているらしく、 今回もまた祭壇にある大きな燭台に火を灯すことで終わりを迎えることとなった。 そもそもドミナントの太陽の祭壇に祈りを捧げて旅の祈願をする行為自体が忘れ去られている現状、 それゆえに本来なら旅人の間で無償でやっていたはずの聖火リレーも結局業者がボランティア同然ではあるが有償で請け負っている状況、 ヴァナスティアとしてはハンターズ・ギルドの要求を呑まざるを得ないのである。
 とはいえ、ヴァナスティアとしてはやってもらえるだけありがたいという考え方なので、 ギルドとしても曲がりなりにも慈善事業として対外的にアピールできるという側面もあることから、 双方ともにウィンウィンの形で落ち着いているらしいのだが。

 カイルたちは聖なる炎をしばらく眺めていた。 カイルとフレアはただじっと炎を眺めており、 オルダナーリアは炎に対して真剣に祈りを捧げていた。 そしてバルファースはどこかに行ってしまっている、酒を飲んでくると言っていたので多分酒場だろう。 残りの2人、名をクライツという人間族の”じいや”は船の番をしており、 ザードは船酔いが酷く、船室でずっと項垂れている。
「フレアは祈らないのか?」
 カイルは彼女にそう訊いた。
「そういえば祈ったことはないな。 この際だからそうさせてもらうとするか」
「そうなのか? どうしてだ? 大昔からの風習なんだろ?」
「エターニスの者にとっては不要な風習だからだ、エターニスにはエターニスのやり方がある、だからやったことがない――」
 確かに、ところ変わればということか。 でも、聞くところによると、かつてはこの世界の者であれば誰でも太陽の祭壇で祈願をするものだったらしい、 それでもエターニスでは話が別……そういうことなのか。
 しかし、それとは打って変わってオルダナーリアは必至に祈っている……このギャップはなんなんだろうか。 それを後で聞いたところ、彼女はこう答えていた。
「私は古い精霊です、当時は今よりも信仰は盛んでしたからね。 だからその流れにのっとってこうして祈りを捧げているにすぎません」
 まさにこっちの世界で生きている者の時代の流れということである。

 カイルも軽めに祈りを捧げた。 そしてその後はオルダナーリアと別れ、彼女は船のほうへと戻って行った。
 残された2人はそのままドミナントのハンターズ・ギルドへと向かった。
「遥々シュリウスからお疲れさん。太陽の祭壇の火を灯しに来たんだってな」
 ……ドミナントのギルドはなんて素晴らしいところなんだろうか、カイルは感動していた。 その理由は簡単で、
「お疲れさん……ここはいいところだな。 シュリウスはどの受付も第一声は必ず”何の用だ”から始まるからな」
 と、フレアは愚痴をこぼしていた、そう、まさにそれである、カイルとしてもそれは同感だった。 無論、それは外部の者に対する挨拶(?)になるわけだが、 シュリウス・ギルドに所属していても挨拶(?)は”何をするんだ”である。 仕事しに決まってんだろ……そう言いたくもなるもんだ。
「シュリウスはねぇ……あいつらお高く留まっているからなぁ……」
 受付は話を聞いて悩んでいた。
「んなこと言っててもしょうがねえ、うちはうちのやり方でやらせてもらっているからな――」
 受付は態度を改めた。