オルダこと、オルダナーリア。
彼女はフレア同様に精霊族だが、そこいらにいるような第5級精霊とは少々異なる存在らしい。
しかし、その身なりは少々歳をとったような印象で、
どこぞのいい家の身なりのバルファースと一緒にいると、所謂”ばあや”という感じにしか見えない。
「私のお母様は第4級精霊です。
エターニスよりこの地に遣わされ、1,000年ほど前に私を生みました」
せっ、千年前だって!? カイルの頭は吹き飛んだ。
「第4級で1,000年……長命種――まさか、”観測者”か!?」
フレアは考えながら言うとオルダナーリアは頷いた。
「当時の精霊界で要とした存在です。
当時は人間たちによる激しい”アーティファクト”による戦争があり、
精霊界でもその動向を危惧していたと言われています。
もちろん、精霊界ゆえに人の手で作られた”アーティファクト”に手を出すことは原則禁じられていますが、
それでも、当時の精霊界の情勢としても人間界のその状態を蔑ろにするわけにもいかなかったようです。
そこで精霊界よりしばらく世界に目を向けよとお達しがあり、
そのプロジェクトの遂行者として私の母をはじめとする”観測者”たちに白羽の矢が立ったのです」
それに対してバルファースが頭を抱えていた。
「そんな話、一度も聞いたことねえぞ。
それに……1,000年も生きてんのか?」
オルダナーリアはにっこりとしながら答えた。
「正確には1,327年になります。
1,000年前の話も、正確には当時から”アルガノルドの戦い”と呼ばれているその戦いが始まった年……
つまり、1,127年前の話というのが正式でしょう、ちょうど私が200の時の出来事でしたので間違いございません。
いずれにせよ、この世界に住んでいる方々には一切関係のない話ですからお伝えしていないだけです。
私は第5級精霊として生まれた身ゆえに”観測者”ではありませんが、
母の血を引いていますからそれだけ寿命が長いことは確実ですね」
フレアはにっこりとした彼女の顔を見ながらカイルに言った。
「……世界の管理者に近しい精霊にあのような笑顔をすることができるものはいないが――
だが、1,000年……いや、1,127年前に起きた出来事を知っているのは間違いなさそうだな」
えっ、そうなのか……カイルは悩んでいた、どういう存在だよって。
バルファースは話をした。
「要は、俺がこんなことしているのも道楽の一つってわけだ。
昔からオルダの話は聞かされているんでな、
”アーティファクト”に狙いをつけてんのもそう言った理由だ。
それがまさか、1,000年前の話につながることだとは思ってもみなかったがな――」
そう、オルダとしては1,000年前の魔導士たちの話のような悲劇を二度と起こすまいとし、
バルファースの行動を利用して”アーティファクト”を回収しようと考えたのだった。
もっとも、バルファースとしても”アーティファクト”というからには少なくとも1,000年前の魔導士たちの話には何かしらが関わる可能性があってもおかしくはないと考えていたが、
まさかこれほど直に関わることになろうとは流石に予定外であった。
「それにしても道楽で”アーティファクト”を狙うやつというのも珍しいもんだな。
それにこの船……余程のお宝を狙うでもなければ手に入らんだろうな」
それに対してバルファースは「らしいな」と軽めに言った。
「お宝でねえ……」
だが、カイルは呆れたような様子でそう言った、何か特殊な事情がありそうだ。
いろいろと話をしているうちにドミナントの港が近づいていた。
船はそのままドッグへと吸い込まれるように入港、カイルたちはドミナントに降り立った。
ドミナントはなんとも解放的な街並みであり、
外の人を受け入れるかのような全体的に明るめの色合いの素敵な街並みだった。
「すべてが始まる地、ドミナントか……」
フレアはそう言うとカイルが確認するかのように訊いた。
「ドミナントって”セント・ローア”の刻で成り立っていったんだよな?」
そうそう、ローアの刻と言ったがまさにこの世界の起源となる刻ということで聖なるローアの刻、
つまり”セント・ローア”と称されることもある。
「そこはヴァナスティアの教えの通りだ、間違いないだろう」
そういえばかの教えの内容って割と史実に近いんだっけ、フレアの弁によれば。
「えーっと、ヴァナスティアの教えだと……」
カイルがうんうん唸っているとバルファースが言った。
「ヴァナスティアの教え第1章第1節”すべてのはじまりし地のはじまりの教え”。
世界に等しく生を成す者はすべて等しくあれ……そいつに全部書いてある、
ローダの由来から”邪悪なる者”ってやつを倒すまでの当時の英雄譚がな」
それを聞いてフレアが感心していた。
「海賊のクセに経典の内容を知っているとは感心するな」
バルファースは頭を掻いていた、オルダナーリアが答えた。
「昔から私がお教え聞かせていた内容です。
今でも覚えていらっしゃるとは確かに感心することでございますね」
バルファースは頭を抱えていた。
「覚えないと飯抜きだろ――」
なんともスパルタな精霊様だな。
いやいやいや、そもそもあんたらどんな間柄だよ。