翌日、朝食を済ませ、しばらくしてから問題の場所へとやってきた。
「大規模な魔物の軍団だな――」
ケルクスから北西800m程度離れた場所に、大勢のコボルト族が洞窟の前で何やら決起しているような様相だった。
3人はその様子を南側の崖から見下ろしていた。
「この場所はハンターズ・ギルドも既に把握しているんだ、
問題は数が多いからやりようがねえってことだな。
それに……報酬の都合でギルドも討伐には消極的ってところがな……」
カイルはそう説明した、大人の事情というやつである、飯の種にならなければやむ無しか――
言っても一応問題なっている件であることは確かなので成果があった分だけ少なからず報酬は出すという方針らしいが。
「そして小さな村を襲撃しては略奪を繰り返す……と、
昨夜の話とあわせると連中が戦利品として”アーティファクト”を握っていたとしてもおかしくはなさそうだな」
フレアはそう言うとカイルは首を傾げていた。
「でも、”アーティファクト”ってある意味力の塊みたいな代物だろう?
それこそ、”アーティファクト”1つ巡って争いも起こるぐらいの影響力があるはずだろう?
そんなのがそうあっさりパクられるものなんか?」
それにはザードからの鋭い指摘が。
「カイルの持ってるその剣見てもそんなに凄そうなものには見えないけどね!」
た、確かに……言われてみればその通りである、こんななまくら剣欲しがりそうなのは1人ぐらいしか知らない……。
「それに、”アーティファクト”を巡った争い自体がそもそも過去の話だ。
今では”アーティファクト”と言ったらおとぎ話程度のもの、パクられる側もそのぐらいにしか考えてないのだろう」
そういうことか。じゃあ、なんでコボルトはパクる必要があるのか……いや、それこそ単なる記念品程度のものかも知れない。
「だが、我々には必要だ、真価がわからんというのならいただくことにしよう、相手が力の民コボルトというのなら文字通り力づくでな」
まさに弱肉強食、力でものを言わせて奪い取るしかなさそうだ。
だが、ギルドでも手をこまねいている事情の一つに敵の数が多いことを忘れてはならない、つまり――
「よし、連中がどこかに行ったぞ! 今がチャンスだ!」
と、洞窟前にたむろしていたコボルトがいなくなると、3人はすぐさま洞窟の前に。
「うぅっ……まだたくさんいるよ……」
だが、ザードは洞窟の方に鼻を向けるとそう言って警戒していた。
「こいつらは夜行性と昼行性の2種類がいる。
こいつらはこのあたりの魔物カーストでは上の方にいるから、つまり天敵が少ないんだ。
天敵がいないんなら昼夜問わず我が物顔で活動し放題ってんで小さな村なんかは襲われ放題てなわけだ」
カイルはそう説明するとザードは感心していた。
「カイルもけっこう詳しいんだね! すごい!」
だったら呼び捨て辞めないか……カイルは悩んでいた。
「つまり、洞窟の中にいるのは夜行性の連中で、今はお休み中ってところだな」
フレアはそう言いつつ洞窟へと入っていった、2人もそれに続く。
ところで何故ザードが一緒にいるのかだが、それはもちろん1人だけ残していくと心配だからである。
彼はコボルトたちに命を狙われている、それなら1人孤独に置いていくぐらいなら一緒に行ったほうが安心できるというものである。
これからコボルトの巣穴に飛び込もうというわけだが、どのみち同じ危険を犯すのであれば一緒のほうがまだマシと考えてのことだった。
洞窟の中は例によって各所が松明に灯されていた、コボルトの生活の跡があるだけのことはあった。
そしてそのままずっと下り坂の一本道が続き、次第に大きな空間へ出た。
「居住の跡があるな」
するとその時、奥から3匹のコボルト現れた。
「なるほどな、文明社会を築き上げるほどだから寝坊だって平気でこなすってわけだな!」
カイルは得意げに剣を引き抜くとコボルトたちは反論した。
「我々ハ見張リダ!」
「侵入者メ! 今スグ排除スル!」
「血祭リニシテヤル!」
言うまでもないがやる気満々だな、やるしかないか。
「コボルトたちも、カイルにだけは言われたくないんじゃないかな?」
と、再びザードの鋭い指摘……このクソガキめ……。