フレアが訊いた”アーティファクト”の話、あくまで噂話でしかないのだが、
「コボルト共がそれらしいものを持っているらしい、真偽のほどは定かではないが――」
またなんで? あんな話をしていたのにずいぶんとまた踏み込んだ話だな――カイルはそう思った。
「噂話だからな、いろいろと出てくるもんだ。
だが、いくつか話を訊いた中では往々にしてこの2つの話が有力視されているとみて間違いなさそうだ」
あの3人の男たち以外にも、結構何人かに聞いたんだそうだ。
で、2つの話って、もう一つは?
「私らの他にも”アーティファクト”について探りを入れているやつらがいるらしい。
噂によると、そいつは海賊だそうだ」
海賊だって!? でも、そんなのを狙っている海賊というのも物好きなやつだな。
いや、でも――お宝目当てで頂きに参上するなどと考えれば合点がいくか。
「海賊か――うーん……」
カイルは悩んでいた。
「なんだ? どうした?」
フレアは訊くとカイルは照れた様子で答えた。
「いやあ、その……ハンターとしてはちょっと恥ずかしい話なんだが、
昔、海賊にしてやられたことがあってな――」
相手は海賊ゆえにハンターとしては狩りの対象という場合もある。
そいつは海賊を名乗りこそするものの、あまり悪い噂を耳にするほどでもなく、
ハンターズ・ギルドとしても指名手配にまで至るようなやつでもなかった。
しかし、それでも海賊は海賊、海賊を名乗るからにはろくなことをするやつではないのは目に見えている――
そんなある日のこと、カイルはその海賊と出くわすこととなったのだそうだ。
ところが――
「ざまあないな」
と、話をするとフレアにそう言われた、カイルはその海賊に負けたのだった。
負けたどころか御覧の通り、勝負を挑んだにもかかわらず彼は生きて返されたのだった。
「ああ。でも――やつは命まで盗るような趣味はないって言うもんだからな、
海賊を名乗りこそするが、あいつは悪いやつではなさそうだ――
そして、なんだかんだで仲良くなっちまってな――気が付いたら酒場で一緒に酒を飲んでたよ、
それからもたまに会うと酒を飲んでばかりだ、海賊って言う割にはなんとも憎めないやつだったな」
海賊と一口に言ってもいろんなやつがいる。
ハンターズ・ギルドに指名手配されるもので言えば略奪を好む者や命まで盗るようなやつである。
だが、カイルが出会った海賊は、どうやら”ロマン”を愛する者のようである。
”ロマン”とくればまさに”アーティファクト”――どうやらそんな相手が今回カイルとフレアにとっては障害になりそうな相手なのかもしれない。
家に戻ってきたカイルとフレア、フレアはお湯を沸かしていた。
「まだ飲むのか?」
「ベッドに入る前までにはアルコールの匂いを消しておきたいからな。
さてと、シャワーでも浴びてくるか――」
そして綺麗好きだな――と思ったその時、フレアがリビングに戻ってきた。
「見ろ、この毛――」
毛がどうしたって? カイルは訊いた。
「狼の毛? ザードのじゃないのか?」
フレアは頷いた。
「風呂場で見つけたのだ。
もともと風呂に入る習慣がなかったハズなのになんとも学習能力が高いと思ってな――」
た……確かに――いや、待てよ!?
「え……もしかして、一人で入ったってのか!?」
「シルヴァンス・ウルフは綺麗好きだからな。
だからザディンも、お風呂の時は私にきちんと身体を洗えといつもいつも身体の毛を私にこすりつけてきた。
わかってると言っているのに早くしろと言わんばかりに寄ってくるのだ。
なんだか懐かしいな――」
と、2人は2階の寝室のベッドで眠っているザードを眺めていた。
「俺、ガキの時はお風呂嫌がってたクチなんだよな――」
カイルは何故か反省していた。