ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第22節 夜の情報収集道中

 次の日の夕暮れ時、彼らはケルクスに到着した。
「これが人間の町かあ!」
 ザードはなんだか楽しそうだった。 そういえばザードは生まれて初めて人間の町に入ることになるのか。 この町はシュリウスと違ってかなり開けた町で、街道に沿って大きな通りがあるのが特徴。 古の時代では街道に沿って建物があるだけの町なので、町の基本形はその時から変わっていない。
 ただし、その建物は古の時代から大幅にグレードアップし、この時代ではスラムの商店街のような装いである。 ちょうどその様はシュリウスの下町に似ているのだが、そういえばシュリウスの住宅街はあまり見たことが無かったカイル。 そもそもカイルの自宅は町のはずれにあったため、仕事でもない限りはそっちへ行く用事が無いのだ。
「いい匂いがするね!」
 ザードの嗅覚がレストランの方を向いていた。
「今夜は外食にするか?」
「たまにはそれもいいな、そうしようか」
 そういえばザードの姿だが、街の中にコボルトが侵入したなんて話になったら面倒なので、 町の入り口でザードをしっかり人間化させてから入ったのだった。 多少はケモミミなどそれらしい特徴は僅かに残ってはいるが、言ってもその程度なのでそんなに問題にはならないだろう。
 しかし、それを言い換えるとコボルト側としても迂闊に人間の町に侵入したら危険だということである、 つまり、カイルたちにしてみれば町に入ればとりあえず安心ということで間違いないのだ。
 ところで……コボルトの問題はまだ終わっていないのだ、連中は一体何をたくらんでいるのだろうか。

 レストランでは3人とも満足して帰ってきた。 旅人のための中継地点として成り立っているこの町、 商店街では旅人相手に商売するのが主流、それは昔から変わっていない。 つまり、ケルクスの町は激戦区なのである。
 たくさん食べてお腹一杯になった3人は町のはずれまでやってくると、家を出した。 家に入ったカイルとザードはソファに倒れこんだ。
「ふうー、疲れたー!」
「ボクはやっぱ、お姉ちゃんの料理のほうが好きだなー!」
 ザードは人間があまり好きではないのだろうか。するとザードは――
「ボクはもう寝るね! お休み、カイル!」
 ああ、お休み……言われてカイルは異変に気が付いた。
「あれ!? フレアは!?」
 ザードは平然とした顔で答えた。
「お姉ちゃんなら家を出してすぐに町のほうに戻って行ったよね?」
 マジかよ! カイルは慌てて戻って行った。
「……第4級精霊の中でも特別ってか!?  よくはわからんが確かにその通りなんだろうな!」
 カイルは皮肉を言っていた。 家の外に出ても彼女の姿はなかったが、とりあえず町のほうへと戻って行った。

 フレアは歩きながら考えていた。
「さっきのレストラン……もう締まっているな。 だが、先ほどの風貌の連中はおそらく冒険者だろうか、 ”アーティファクト”の話をしていたように思うがカイルのような考え方が主流なこのご時世でなんとも妙な連中がいたもんだ――」
 どうやらレストランで周囲の話を聞いていたらしいフレア、 ”アーティファクト”の存在にあたりをつけていたようだ。
「ただ――この地方に”アーティファクト”があるというのは確実のようだな、 もう少し探りを入れてみるか……」
 すると――
「あれは酒場だな? 情報収集の基本か――」
 フレアはこじゃれたバーを見つけたので入店した、すると――
「ん……! あいつらはさっき”アーティファクト”の話をしていた連中じゃないか!」
 ということで、彼女はまさにアタリを引いたようだ、今のところは。 だが、真偽のほうは如何に!?
「お姐さん、何を飲むの?」
 と、フレアが入ってきたのを確認したマスターは彼女にそう訊いた、流石に飲まないわけにはいかないか……
「そうだな、ワインを頼む」
「へえ、やっぱ上品なものしか飲まないのかねえ」
 見た目相応……そう思われるのが気に入らなかったフレアは――
「……やっぱりビールにしてくれ」
 ため息をつきつつそう言った。
「あっそう……、ビールね――」
 マスターは悪いこと言ったかなと思いつつ、慌ててビールを用意していた。

 それから1時間弱が過ぎ――
「ん……? なっ!? まさか酒場いるとは……!」
 カイルはフレアをようやく発見した。だが、その場は――
「なっ……なんか、すごいことになってないか……!?」
 なんと、フレアは3人の男に囲まれていた……。
「あん? なんだこいつ? 姐さんの知り合い?」
「一応な」
 普通に馴染んでいる……カイルは理解に困っていた。
「お客さんもビールかい?」
 マスターはカイルに促した。