しかし、それにしても……ザードはどうしていきなりコボルトのような姿へと変わったのだろうか。
元々は狼……シルヴァンス・ウルフの姿だったのにどうして――
「ボクもよくわからないんだ。
でも、時々夜になると二本足で立って歩けるようになるんだ……」
そうなのか、夜になると……って、まさに狼男そのものじゃんか、
カイルはそう言った、まさか今日は満月じゃないよな?
ってか、寝る前は曇ってて月が見えなかった気がするけど、
さっき外に出た時は確かに明るかったような――そう思いつつ窓から外を見てみると、
「えっ、今日は満月じゃねーか!?」
まさかの満月だった。
「月には特別な力が宿るといわれているが、
中でも満月の時は特に不思議なことが起こるとされているようだ。
だが、それが何故なのかは全くわかっていないらしい。
ただ――コボルトに言及するとしたら、そうであるがゆえに満月の時に何かしらの行動を起こす……
ということらしいな」
フレアはそう説明した、そうなのか。
つまり、ザードがこのような姿になるのもそのうちのひとつ?
「てことは……元に戻っちまうのか?」
カイルはそう言うとザードは頷いた。
「ボク……お姉ちゃんとお話ができてうれしかった、
またお話しようね――」
えっ、それって――
「元の姿に戻るとしゃべられなくなっちゃうんだ――」
そうか、狼だもんな――カイルはそう言うと、フレアは――
「本来は霊獣だから人語を解し、話すこともできるのがシルヴァンス・ウルフだ。
だが――ザードはまだ幼いからまだそこまでできるほど発達していないのだろう。
ただ――私の知る方法ではいつでも姿を変えるすべがあるのだが――」
なんと! そんな方法があるというのか!? やっぱり精霊様ってすごいな!
カイルは感心していた、ただ――
「……その代わりだが、とてつもない痛みを伴うぞ――」
そんなこと! ザードはむしろお姉ちゃんといつでもお話ができるのであればと願ってもない話だったらしく、
妙に食いついていた。
「がっ、我慢する……どのぐらい痛いの?」
「私は味わったことないが……耳が千切れるほど痛いことだけは確かだな」
その夜、ザードの泣き叫ぶ声がこだました――
ザードは家の流しで耳を冷やしていた。
ザードの耳は、まるで焼き印でも押されたかのような妙な痕が刻み込まれていた、
どうやら呪いの一種のようで、ザードの姿を今の姿にとどめる効果があるらしい。
それと同時に以前の狼の姿にも変えられるのだそうだ。
「ひぃぃ……気持ちいい……」
ザードはあまりの気持ちよさに目がとろんとしていた。
「水道が出るのはどうしてだ?」
カイルはソファでダレたまま訊くと、
フレアはザードの背中を優しくさすりながら答えた。
「シルグランディアの設計だからだ、それ以上は私にもよくわからんが、
とりあえず水のエーテルでも吸い上げているんじゃないか?」
「まだズキズキするよ……」
ザードは濡れた頭を拭いてもらってはいるが、目に涙を浮かべていた。
「しばらくは痛みが残るが……数日も経てばそれもなくなるだろう」
フレアは優しく答えた。
言ってしまえば火傷……カイルは考えた。
自分も昔に酷い火傷をしたことがあるが、しばらくすると痛みは消えた。
だが、此度のザードのは……これは痕が残るだろうな、
ちょっとした入れ墨的なものと言われたらオシャレな造形に見えなくもないが。
その日、ザードは狼の姿でお姉ちゃんに抱かれて眠りについた。
耳は氷水を当てて冷やした状態で眠っていた、フレアがしっかりと耳に当てていたのである。
そして翌朝……
「あっ! おはよう! カイル!」
ザードは元気よくあいさつを……いきなり呼び捨てとはずいぶんだな……カイルは悩んでいた。
「カイルも食いしん坊なんだよね! お姉ちゃんの料理っておいしいもんね!」
……本当に覚えているじゃねーか――カイルはさらに悩んでいた。