彼らは一族の裏切り者を探しているのだという。
それはもちろん彼らと同じコボルト族、彼らが言う”過ち”を犯したために、
その裏切り者は彼らによって既に始末されたのだそうだ。
では、その裏切り者が何をしたのかというと……
「何を言っている? いいことではないか、他種族を助けるというなんとも慈悲深い行為、尊敬に値するな」
ということである、とにかく自らの血統こそが至上というのが彼らの習わしなのだろうか、
他所の種族……ましてや狼などという存在は彼らにとっても家畜や奴隷も同然という考え方らしく、
慈悲を与えるなどとは言語道断なのだそうだ。
「ククッ! 流石ハ”古来種”!
コノ世界ヲ管理シ多クノ種族ニ等シク慈悲ヲ与エ賜ウ者ノ血族ラシキ考エ方ヨ!
キサマラノヨウナ浅ハカデ愚カシイ存在ハモハヤ傑作ニ値スルナ!」
コボルトの1人がそう言うと、ほかのコボルトたちはバカにしたようにゲラゲラと笑っていた。
「ふん、お前らにはわかるまいな」
フレアは呆れていた。
そして、その慈悲深い行為を行ったコボルトだが、
そいつはヘル・ハウンドのガルトゥースと、なんと、かの霊獣シルヴァンス・ウルフまでをも助けたのだという。
「そいつらも殺したのか?」
「当然ダ! 逃ゲ出シタ奴隷モ家畜モ殺処分ダ!
ダガ、銀狼ハ殺シタ後ニガキヲ身ゴモッテイタコトガワカッタ!
裏切リ者ト銀狼トノ混血児ガ生マレテシマッタノダ!
タカダカ銀ノ毛並ミヲモツダケノ狼風情トワレラ至高ノ血トガ混ザリアウ!
ソノヨウナ屈辱! 断ジテ許スマジ!」
一体のコボルトがそう言うと、別のコボルトがさらに言った。
「……相容レナキハワレラノチカラデ屈服サセルマデ!
ワレラハ至高ナル血族、ソコイラノニンゲン共ヤセイレイ共ナドトハ言語道断!
ダガ、オマエハ一応”古来種”! ”古来種”トアラバ話ハ別ダ!
ソウトモ! ワレラ至高ナル血トオマエノ血ガヒトツニナル時!
ワレラハサラニ高イ次元ノ存在トナルコトガデキルノダ!
サア来イ! 女! オマエハワレラ繁栄ノタメノ礎トナルタメワレラノ妃トシテ向カイイレヨウ!」
するとフレアはそいつの首をいきなり剣で一刺しした――
「フレア!?」
いきなりのことでカイルも驚いた。
「ナ!? コノ女! マズハ躾が必要ダ! ソウイウコトナラマズハ奴隷ニシテヤル……」
と、そう言ったコボルトまでをも一突きに……
「黙れ! 黙らんか!」
え――
「私は貴様らなんぞとは交わらん!
貴様らのような汚らわしいどこぞの馬の骨の下の下の下がこの私に指一本触れることは許さぬ!」
……ブチ切れてる、怖い――。
例の変態ヴァンパイアに続き、今度は変態コボルトの発言にとてつもなく腹を立て、地獄絵図を展開していたフレアだった……。
「おっ、俺知らねぇ――」
カイルはあからさまに引いていた。すると――
「ん? なんだありゃ!?」
カイルは家のほうを振り向くと、そこには驚きの光景が――
「えっ……えぇーっ!?」
話を聞いたフレアは我に返ると家の2階へと急いで行った、直前の彼女の行動を考えるとヤバイ光景のような気がしなくもないが――
「ま、まさか……」
フレアはその光景をみて唖然としていた、
そこには銀の毛並みが美しい狼男といった感じの装いの子供がベッドの上に鎮座していた、
先ほどは2階の窓からこの子供が外を眺めている光景をカイルが目撃したのだった。
しかし、状況から考えて、その子供が何者なのか他に考えられなかった。
「ザ……ザードなのか!?」
フレアはそう言うと――
「お姉ちゃん……あいつらのこと追い払ってくれてありがとう……」
と、何とも可愛らしい声で答えた、見た目のイメージには大体あっている。
だが、コボルトを追い払ったというのは……
何処からどう考えても塵ひとつ残らず浄化完了してしまっているんだが。
「安心しなさい、ザードのことはこの私が守る……」
だよな、ザードを引き渡すなんて言うのはザードを狙う理由を聞き出すための口実だもんな、そらそうだ。
カイルはフレアがザードを抱きかかえている光景を見ながら安心していた。
しかし……まさかシルヴァンス・ウルフとコボルトが混じってこのような子供ができるとは……
コボルトがシルヴァンス・ウルフを下に見ているというのも皮肉な結果という感じである。
個人的にはどう考えてもシルヴァンス・ウルフのほうが気高く素晴らしい至高の生物って感じだと思うのだが、
霊獣だし……カイルは考えていた。