その夜のこと――
「くそっ、なんなんだよ――」
カイルは目が覚めた、何やら外が騒がしい――窓から外を見るが、
「暗くてよくわからないな」
よく見える場所へ行こうとベッドから立ち上がった。
カイルは部屋から出ると、二階の部屋の外にフレアが窓から外をじっと眺めていた。
「フレア?」
彼女は頷いた。
「気が付いたようだな」
「何がどうなっているんだ?」
カイルは彼女の隣へとやってきて窓を眺めた、そこには――
「なんだろう――」
やはり暗くてわからなかった。
「音を聞けばなんとなくわかるぞ」
音? そう訊いてカイルは耳を澄ますと――
「ん? 狼の遠吠え?」
フレアは息をついていた。
「ただ通り過ぎようとしているのであればいいがどんどんと近づいてきている、
明らかにこの家に向かってきている感じがするのだ……」
なんだって!?
「それは確かなのか?」
フレアは考えた。
「たまたまこの家の近くを目的にしているだけなのか、それともこの家そのものが目的かはわからん。
ただ――」
と、彼女は部屋の中に目をやると、そこには1匹の狼が震えながら布団の中にうずくまっている様子だった。
「まさか――狙いはザードだってのか!?」
カイルはそう訊くとフレアは再び考えた。
「その理由はよくわからんが……それなら話は早い、この手で残らず葬り去るだけだ」
まあ、そういうことなら異論はないな。
「外部からの保護機能の力が弱まっているんだよな……魔物に襲われたらひとたまりもねえな……」
カイルはそうこぼすがフレアは悩んでいた。
「一番弱っているのは半隠蔽機能……つまり結界を作り出す力だ。
耐衝撃性は保たれているが半隠蔽機能が弱っているせいで魔物に家の存在があっさりと気が付かれてしまうのだ。
つまり、例え強固な家だとしても袋叩きにあえば意味がないということだな」
それはますますヤバイじゃないか! 隠蔽機能大事!
「なあ! もうこの家展開して野宿するのやめようぜ!」
「それは私が最初に忠告したことだが――
できるだけ家を展開しないでおくのがいいとな、
その意図について察してくれたようで何よりだ」
カイルはそう言われて反省していた、ちょっと調子に乗りすぎたようだ。
「今後、どうしても展開しなければならないのであれば安全なところを勧める」
カイルはもはやその通りにするしかなかった。
とにかく、狼相手に打って出るしかなかった2人、表に出ると、
しばらくの後、5匹の狼男のような風貌の魔物が近寄ってきた。
「ちっ、寄りによってコボルトかよ……」
カイルは悩んでいた。
「フン! 人間風情ガ! サア、オマエタチガ匿ッテイルヤツヲ差シ出セ! ソシタラキサマラノ命ダケハ助ケテヤル!」
道具も使い会話も可能か。
それに、本当に目的はザードのようだ、フレアは前に出た。
「何の話かさっぱりだな。確かにそれっぽい狼を介抱したことは認めよう。
だが、あれは少し前の話で今はどこかで元気よくしていることだろう。
とはいえ、私もほぼ狼と一緒に過ごしたほどだからな、同じ匂いが染みついていれば勘違いするのも無理はないが――」
しかし、コボルトたちは――
「ソノ程度ノコトデワレワレヲ騙セルト思ッタカ!
ソノ中ニイルコトハワカッテイル! サア! 早クツレテ来イ!」
やっぱりダメか……狼というか犬というか、嗅覚が優れている種族ゆえにやっぱり誤魔化しは通じなさそうだ……フレアは悩んでいた。
「私としてはどうしても見捨てておくことはできないんだがな。
ならばこうしよう、お前たちの理由次第ではすんなりとあの子供を渡すことを約束しよう――」
なんだって!? カイルは耳を疑っていた。
「ザード……怯えていたじゃないか! 渡すのか!?」
「同じ狼種……彼らにしてみれば同じと言われるのは癪かもしれんが場合によってはそのほうがザードの幸せのためかもしれんぞ」
だが、それに対してコボルトが……
「バカガ! ソンナ取引ニ応ジルトデモオモッタカ! 浅ハカナニンゲンメ!」
しかし、その中で一体のコボルトが話し始めた。
「フン! ドウセ相手ハ2人!
ダガ、コッチノ女ハコノ辺デハ滅多ニ見カケナイ”古来種”ノヨウダ!
ナゼソンナノガココニイルノカワカランガ面白イカラ特別ニオシエテヤロウ!」
精霊族で古来種と言うとエターニスの精霊族のことを示す。
そいつがフレアのことに気が付いたこともあってか、
どうも彼らは彼女にも興味を示した様子である。