狼の様子を見ながらも、2人はゆっくりと進み、その日は早めに休むことにした。
「その狼、妙にフレアに懐いているな」
カイルはそう言った、まさにそういう状態だった。
「昔、ザディンという名の狼を飼っていてな、私よりも年も上で私にしてみればある意味親戚のお爺ちゃんのような感じでもあった。
あの狼も霊獣に近い存在だったからまさにそういう間柄に近しいと言えることだろう、お爺ちゃんからいろいろと学んだものだ」
この人、本当に只者じゃないなとカイルは改めてフレアを眺めながらそう思った。
「そしたら今度は私がザードを見る番ということになりそうだな」
しかももう名前まで決まっているらしい、ザードか……カイルは悩んでいた。
そしてそれが示すがごとく、ザードは顔をフレアの身体に擦り付けていて、ほとんど完全に甘えていた。
「寂しいんだろうな、両親が早く亡くなって甘える相手がいないのは――」
フレアはザードの頭を優しくなでていた。
「霊獣だから人間同様に手厚く育てられるんだな、
そこいらの獣と違って寿命が長いが故ってことか。
でも、どうしてあんなところで震えていたんだろうか?」
フレアは考えた。
「シルヴァンス・ウルフが手配書に載っていたな、だがそれがザードというのはどうも納得がいかない」
それにはカイルも頷いた。
「どう見ても年端のいかない狼だから、例えそれが霊獣だったとて、
悪さをするっていうことなら手配書に載るよりも先に駆除されるだろうな。
で、それで?」
「つまり、手配書に載ったシルヴァンス・ウルフは別にいると考えるのが妥当だろう。
それは恐らく――」
ザードの両親……カイルはそう言った。
すると、フレアはザードの頭をなでつつ、頭の毛をそっとつかんで言った、その毛は――
「ところがザードは、どうやらただのシルヴァンス・ウルフではないらしい。
シルヴァンス・ウルフの毛は白銀の毛一色のはずだが、ザードはこの通り――」
カイルは気が付いた。
「ん? 金髪!? ここだけ金の毛皮だぞ!?」
フレアは再びザードの頭をなでながら言った。
「そう、恐らく褐色の毛が混じった結果だろう。
だからもしかしたらあのガルトゥースと何かしらの関係があるのかもしれん」
まさか……シルヴァンス・ウルフとヘル・ハウンドとの混血児!?
「だが、だとしたらもう少し毛色が濃くてもいいはずだが……
ヘル・ハウンドはもう少し血が滲んだようなようなほどの濃い色の毛だからな、
例えシルヴァンス・ウルフと混じった色にしてもこれは……」
そんなもんか、確かにあのガルトゥースは最初に森で見つけた時はもっと真っ黒だったような気がしないでもなかった。
「でも、ガルトゥースは恐らくコボルトにやられている……」
「ガルトゥースはその危機を感じてザードを隠した、そこへ都合よく私らが助けることになったと……そういうところだろうな」
なるほど、どうやら深い話がありそうだ――カイルは思った。
そしてその夜、ザードはやはりフレアに甘えて寝ることにしたようだ。
「完全に甘えているな」
「昔の私みたいだな、私もザディンにはべったりだった、
言ってしまえば私が狼みたいなものか、ニオイが身体に染みついているのかもしれんな」
只者じゃないというよりもほとんど野生の人なんじゃ?
だが、カイルの抱く精霊様のイメージ通りではあった、
自然を愛し、自然と共に生きる……いずれにせよ、野生の人だな……。