シュリウスは割と浅めの盆地にあるのだが、そこを抜ける街道を突き進んでいると、魔物が現れた。
「あれはダイブ・イーグルという種類だな、この辺では割とメジャーだ」
カイルはそう言った、鳥の魔物の登場である。
体長は大きくてもせいぜい1メートルがいるかいないかで、平均は大体0.5メートル程度。
普通にいる分には害はないが、
集団で徒党を組んではいきなり急降下をしてきて旅人や荷馬車を襲うなどといったことがありうるので危険と言えば危険である。
襲われたら面倒なので早めに討伐しておこうと考えた。
「ダイブ・イーグルは生息範囲が広いからな、アルタリア地方でもよく見かける種類だ」
ということは言うことはないってことだな、カイルはそう思いつつ、ボウガンを取り出して応戦した。
「そんなものまで使えるんだな」
「ハンターだったら当たり前だろ?」
すると、フレアは弓矢を取り出した。
「えっ!? 手動!?」
「良かったな、精霊様のイメージ通りで」
そう言われてカイルは狼狽えていた、
だが、彼女のそれはどう考えてもむしろアマゾネスさながらのそれである。
しかし、それではどう考えても胸のバストサイズが少々邪魔になりそうな――
「何をしている? さっさと始末するぞ」
「え!? ああ、そうだな――」
カイルは狼狽えつつも戦いを始めていた。
平原の街道まで出てくると、また違った魔物と出くわすことがある。
とはいえ、この2人にとってはそこまで問題ではない。
どちらも戦闘慣れしているハンターであり、戦闘面では心配はないだろう。
だが、こいつの存在だけは違った、それは――
「ケルクス地方の森はこのあたりか?」
フレアはそう訊くとカイルは家を出しながら答えた。
「ああ、このあたりが入り口だ。
やつとやり合う前に、今日はここで一晩明かそうぜ」
やつというのは――そう、問題となるやつだった。
フレアは家の周りをあちこち調べていた。
カイルがどうしたのか訊くと彼女は答えた。
「どうもガタが来ているようだな、外部からの保護機能の力が弱まっているようだ。
十二式として使用していた時の老朽化が激しいのかもしれない」
えっ、それは――どうなるんだ? カイルは訊いた。
「持ち運びの時はしっかりと気を付けないといけないということか?」
フレアは首を振った。
「違う、魔物に勘付かれたら家ごと破壊されかねないということだ」
な、なんだって!? カイルは驚いていた。
「も、もう一度この家の特殊機能を――
圧縮・展開機能はわかったから、外部からの保護機能と安定化機能について教えてくれないか!?」
フレアはため息をついた。
「何を言っているんだ、全部仕様書に書いてあるだろう?
まあいい、この際だから説明しておくか――」
外部からの保護機能ということなので、外部からの衝撃に強いということである。
それはカイルが想像している通り持ち運んでいる間はもちろんだが、家を展開しているときにも適用されるのである。
つまり、家自体を何者かが狙っくることを想定し、そもそも気が付かれないという半隠蔽機能と、
直接衝撃を加えられても大丈夫なように耐衝撃性を備えた魔方陣が施されているというのである。
だが、フレアによると、その力は割と弱くなっているのだという、どこかで直さないことには。
「内部の空間を保つための安定化機能はその通り、家がどんなに傾いても常に内部は水平を保っている機構が付いているということだ。
複雑な地形の上はもちろんのこと、たとえ地震が起きても機能さえ無事なら内部は水平を保ったままということだ」
もはやある意味要塞のような家である、要塞以上か。
「直せるのか?」
「いや、私の手には負えないな。
応急処置程度なら何とかできるが、できるだけ家を展開しないでおくことしかできないな」
家を展開するだけパワーを使うから、それなら確かに、なるべく家を使わずに行くしかないということか。
そして、問題のやつについて、カイルは話をしていた。
「最近になってこのあたりを荒らしまわっているとされる”ヘル・ハウンド”っていう狼の一種で、”ガルトゥース”って通り名をつけられているんだ。
ただ、直接的な被害はなくてな、それでも何人かは命からがらそいつから逃げ延びているって話は聞くぞ」
ヘル・ハウンド、まさに地獄に住む犬……ガルトゥースは右目に傷を負っていることでも有名らしく、”隻眼のガルトゥース”という異名を持っているのだそうだ。
しかし、それだけではなかった。
「コボルト共と抗争をしてるということだが――」
そう、狼系亜人種のそいつらと対立しているらしい。
「縄張り争いならよそでしてくれるといいんだがな――」
つまり、そう言うことである。
だが、さらに問題はもう一つあった、それは――
「こっちの”シルヴァンス・ウルフ”の話は俺も初めて聞くな、前日に手配書にあがってきたばっかりのやつみたいだしな」
フレアは頷いた。
「”シルヴァンス・ウルフ”は伝説の狼だ。
その昔は精霊と共に魔を退けたという話も聞くぐらいだ。
それほどの者がコボルトやヘル・ハウンドと共に縄張り争いをしているとは考えにくいのだが――」
そうなのか? カイルは訊いた。
「”シルヴァンス・ウルフ”はむしろ”霊獣”の類、
知能レベルなどからすると、むしろお前たち人間や私のような精霊――いや、それらをも超える存在と言ってもいいかもしれないな」
そっ、そんなのがいるって言うのか!? むしろそっちの方に驚きを隠せないカイルだった。