ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第2章 名もなき旅の序章

第15節 ヴァナスティアの教え

 カイルとフレアはシュリウスを発った。 ドミナントは西のほう、つまりカイルの家方面である、今やすでに持ち運ぶことができるようになっているのだが。
 そして、ドミナントはこのドミナント大陸の遥か西の方角に位置している。

 仕様書のシルグランディアの記載にもあった通りだが、 この世界は”ローア”の刻を基点にして創造された世界ということらしい。 それについてはシュリウスよりも遥か北の海の中にある”ヴァナスティア”と呼ばれる聖地の宗教、 ”ヴァナスティア神教”でも語られていることである。 いや、精霊族でも宗教に熱心なのか――カイルはそう訊くとフレアは答えた。
「それは知らん。 ただ、シルグランディアは私と同じく、創世ローアに存在していた者の記憶をわずかに引き継いでいる精霊だからな、 所謂精霊としての力の継承というもので、それで記憶もある程度は継承されていくというわけだ」
 そんなことがあるのか、カイルは考えた。
「精霊族って特別なんだな」
 フレアは首を振った。
「エターニスの精霊族だけの能力だ、世界創世からしばらく世界の様子を見るべくして脈々と受け継がれていること。 しかしそれももう限界とされている、ローアの刻から20億年も経っていればいずれはその能力も退化していくこととなろう、 流石に世界ができてから20億年も経っているからな」
 その感覚はよくわからないが、少なくともいい加減にそろそろいいだろうということは分かった。 でも、世界の様子を見るということならそのぐらいの年月はじっと見ていないとダメってことか。
 と、そういえばここまでエターニスの精霊についていろいろと話を聞いてきたが、カイルは薄々感じていた。
「エターニスの精霊ってのは世界の管理者とかそういうものなんだろ?」
 フレアは頷いた。
「お前の感覚ではそもそも精霊というのがそう言うのだという様子だったが」
 カイルは照れていた、図星である。フレアは続けた。
「要はそう言うことだ。 もっと言うと、エターニスの奥には精霊界なるものがあり、世界を管理する精霊はそこにいる。 この世界を精神世界から見守っている役目を担っているということだな」
 じゃあフレアも? カイルは訊くとフレアは首を振った。
「私は違う、エターニスの精霊だ。 あくまでこっち側のエターニスという都にいる精霊なのだ。 だが、私は少々特殊でな、出生自体はラムルという里なのだが精霊界の啓示を受けて”第4級精霊”として活動をしている」
 精霊には等級があり、第1級から第7級までいるらしい。 カイルの思い描いているような精霊は第1級から第3級精霊までの事らしい。 これらが世界の管理者サイドの存在であり、精霊界にいるのだそうだ。 そして、第4級精霊はエターニスに住んでいる精霊であり、このグローナシアと精霊界との懸け橋となる存在なのだそうだ。
「悪く言えば精霊界共の連中の”お遣い”役が私らの役目だな」
 ならばお使い役としてここまで来ているのかというと、厳密に言えばそうではないらしい。
「邪竜を斃す術を得るために私の独断で動いているのだ。 そもそも私は連中から行動を縛られないから、こうしてやってきているのだ。 そうでなければここにはいないハズだ」
 なんだかよくわからないけどフレアは特殊な人らしい。
 そして第5級精霊というのが所謂そこら辺によくいるような一般人な精霊なんだそうだ、そうだったのか。
「あとは第6級第7級精霊だが、まあ――世界を構成する要素とでも言えばいいだろうか」
 カイルは考えた。
「そういや思ったんだけど、たまに見かける変な魔法の塊みたいな魔物がいるけど、あれも精霊?」
 フレアは頷いた。
「言ってしまえばそうなる。 厳密に言うと、あれは今言った世界を構成する要素……つまり、第6級第7級精霊の集合体というものだ。 それがなにかしらの不具合によってあのように魔物となって襲うようになったのだ」
 なるほど、カイルは納得した。

 横やりを入れてしまったが、話は”ヴァナスティアの神教”のところに戻る。 その教えの中では冒険者とドミナントの話があった、そう――シルグランディアも語っている通り、 この世界は冒険者という存在によって成立しているのである。 この世界の共通貨幣単位”ローダ”は”道を行く者”の意、つまりは冒険者のことを示している。 それだけに冒険者たちの存在は非常に重要なものである。
 そして、その冒険者たちが集まった町が通称”旅立ちの町”とも称されるドミナントの町であり、 その町の中心にある”サンレイク”という湖のほとりにある”太陽の祭壇”で旅の無事を祈るのがこの世界での習わしであるとされている。 ただ――多様なこの世の中ではその考え方も廃れてきているのが実際のところである。 シルグランディアが行ってこいと言っているのはまさに創世のローアの刻の記憶があるからゆえの事なのだろう。

 そして、この度受けた仕事というのは太陽の祭壇への”聖火”の移送である。 本来なら冒険者や巡礼者の手によってヴァナスティアの地からリレー方式で行われるのが習わしだったのだが、 このような多様な世の中ではそれも危うい。
 そのため、この話に関して名乗りを上げたのがハンターズ・ギルドだった。 種別としては運びの仕事になるわけだが慈善事業の一環であるために料金も特別安く、いろいろと割に合わない仕事内容だ。 無論、ハンターズ・ギルド本部としてもその内容で認可しているので割に合わなくてもやるしかないのだが、 例えば今回のカイルとフレアのように、ドミナント方面に用事があるような人にとってはまさにうってつけの仕事である。 そもそも運びの仕事は移動が発生するということから遠くに出て魔物討伐もこなしていく掛け持ち型の業務として重宝されることが多い。
 無論、そういう需要がない場合は手つかずのまま残ることも多く、いつかの運びを専門としている先輩ハンターのような者が最後にかっさらっていくのが通例である。 ちなみに今回についてはその先輩ハンターがドミナントとは反対方面の町からシュリウスに運んできていた、 ギルドとしては”聖火”の運び自体もギルドからギルドへとリレー方式で行うようにと周知しているため、 最初はヴァナスティアから、そして同じ島の港町まで運び、この間は船旅になるのだが、 先にまずは東の大陸を一通り回り終えると今度はドミナント大陸へと上陸、 港からシュリウスへと運ばれると、最後はドミナントに一直線というわけである。
 そして今回、そのアンカーとして2人が名乗り出たのである。