ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第14節 旅立ちの兆し

 カイルは仕様書の新たなページをいろいろと眺めながら夕飯を待っていた。 方陣には大きな赤いバツが重なっており、 さらにその上に”使用済み!”と書かれていた。 しかも、仕様書のページ自体が10ページ追加されていた、袋とじと合わせてちょうど100ページ…… これもこだわりなのだろうか。 そこへフレアが来ると、カイルは話をした。
「持ち主の微弱な魔力だけで家が展開されるのか、 どの生物にも魔力が込められているとはいうけど、だからこその仕組みってわけなんだな。 それに持ち主っていうか居住者というか、 それを判定する仕組みとかもひっくるめて全体的に魔法でいいように構成されているのか――」
 フレアは作った夕飯をテーブルに並べながら言った。
「所謂、ご都合主義ってやつだな。 それを満たすようにとシルグランディアが仕様として実装した結果の家というわけだ」
 すると、カイルは夕飯を見ながら楽しそうに言った。
「おぉ! こいつはうまそうだな! よし、俺も手伝うぞ!」
 カイルはそう言いながら仕様書を置くとキッチンに向かい、 食べ物を盛り付けた皿を持ってきては丁寧にテーブルに並べていた。

 夕飯はアリア肉のスープに鶏肉のから揚げだった。 アリアというのはまさに彼女の出身でもある北東の寒いところにいる生物であり、 そこでは野生もいれば、寒さに強い種類のため馬車馬の代わりに用いられたりすることも一般的であるが、 食用ということは基本的にはないらしい、一般的には。
「私の里のラムルではアリアも食用として重宝されているのだ」
 所謂ジビエ肉といったところか。
「この料理はなんだ? この料理もアリア肉なのか?」
 フレアは答えた。
「それは”肉じゃが”という料理らしい、シルグランディアに作り方を教わったのだ。 よくわからんが、シルグランディアはこの料理に強いこだわりがあるらしい」
 そうなのか? カイルは訊いた。
「天才はカレーと同じ材料でそれを作るらしいから作ってみたということだ。 ただ――本当に同じ材料で作れないじゃないかとか言ってとにかく試行錯誤でカレーと肉じゃがを同じ材料で作れるように挑戦しているらしい」
 それは……カイルの思い描いていた”こだわり”の内容とは別次元のものだったようだ、なんなんその人……
「変わってんな――」
「どうかな、エターニスの精霊なんて変わったやつばかりだ。 それに比べれば――彼女のほうがより現実的な性格をしているな。 ただ――変なところにこだわりがある点は拭えないな」
 エターニスか、噂には聞いていたが浮世離れしているような精霊がいる地だそうだ。 カイルの思い描くイメージで言えばまさにメルヘンチックなワンダーランドという感じである。 フレアによれば、そのイメージはあながち間違ってはいないらしいが、 シルグランディアはより現実的な方向を向いている人なので、フレアのイメージに近いらしい。
 いやいや、そもそも精霊という者自体がそろいもそろって頭お花畑ばかりだと思っていたカイル、 それについては深く反省していた。 だから、フレアを見てもすぐに精霊だというイメージには結びつかなかったのが実際のところである。 つまり、案外大して人間と変わらないのか、エターニスが特別頭お花畑なだけで。

 ということで、フレアは次の目的を示した。
「シュリウスではアーティファクト関連の話はあまり聞けそうにないな」
 それは無理もないか、シュリウスじゃあそもそも迷信でしかない話――
「まあいい、次は”ドミナント”に向かおうと思っている。 ドミナント付近に何かしらの反応があることはわかっている」
 カイルは頷いた。
「俺も迷信レベル程度でも一応聞いたことはあるぞ。 確か”ケルクス”って町の近くあたりに”グリフォン・ハンド”の伝説があるって話だったかな。 ドミナントに向かう途中ならちょうどいいんじゃないか?」
 グリフォン・ハンド……怪鳥”グリフォン”と呼ばれる魔物の爪を模したもの、フレアは考えていた。
「なるほど、私の探している可能性であるものが高そうだな」
 だがしかし、一つだけ問題があった、それは――
「でも、ケルクス付近を散策するんなら気を付けたほうがいいな」
 何故だ? フレアは訊くとカイルが答えた。
「ケルクスといえば狼亜人種”コボルト”が群がっているところだ。 ハンターズ・ギルドにもよく問い合わせが来るんだけどな、あれは埒が明かないぞ」
 魔物となると長居は禁物、探すだけ探したらさっさと退散したほうがよさそうだ。

 そんなこんなでもう2日間をシュリウスで適当に過ごすことにした2人、 次の日はハンターの仕事として運びの仕事を請け負うことにした、それはドミナントの太陽の祭壇がらみの話である。
 その詳細な話についてはまた次回にて。