ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第13節 厄介者の残した技術

 そして、仕事を早々に終えて引き揚げてきた2人は方陣を重ねた状態で時を待っていた。
「どうなるんだろうな! ちょっと楽しみだな!」
 カイルはワクワクしていた、日常から離れた非日常――。
 そして時間はいよいよ1分前! 秒針がもう1週し終わったとき、確実に何かが起こる! 果たして――
「いよいよか」
 フレアはキッチンで夕飯の仕込みを終えると時計の前にやってきた。
「本当に何が起こるんだろうな!」
 カイルはなおもワクワクしていた。 刻一刻と秒針が進み、残すところ30秒――
「家が潰れたらどうする?」
 フレアはそう訊いた、いや、潰れたら夕飯の仕込みは――
「潰れるのか!?」
 カイルは耳を疑っていた。
「今ならまだ間に合うぞ」
 そう言われると――残り10秒……どうする、どうするんだ俺……カイルは悩んでいた。 しかし無情にも時間を迎えてしまったのだった。
「……えっ!?」
 なんと、秒針は6時――否、18時を迎えた途端にピタリと止まってしまった!  そして、時計の針と文字盤にはめ込まれた宝石のようなものが怪しく光りだした――
「宝石というよりはなんらかの”エンチャント鉱石”だな」
 ”エンチャント鉱石”とは魔法の力を込められる、所謂パワーストーンのようなものである。 詳細は今は省くが、”エンチャント素材”とも呼ばれる。
 そして、その光からそれぞれ何らかの方陣が浮かび上がった、六芒星だ。 さらにその六芒星が消え去ると、今度は時計の文字盤が上からぱっくりと開かれ、 その中からまるで鳩時計の鳩のように何かの物体が出てきた、それは紛れもなく家のミニチュアのようなものだった。
「どっ、どうなってんだ!?」
 カイルはその様子に驚いていた。
「私のカバンとほぼ似たようなカラクリらしいな。 ただ、具体的なことは私もさっぱりわからないし、 このカバンについてのエピソードも作った精霊本人から聞いた程度でしかないからこれ以上は何とも言えないが、 少なくとも仕組みはだいたい同じらしい」
 ということは……この家は精霊が作った家だってことか!? カイルは驚いていた。
「とりあえず、時計の中にこの家の本体が閉ざされていたということだな。 このまま家を持ち去るもよし、見なかったことにするもよし――」
 この小さいのが家本体!? カイルは耳を疑っていた。
「真実を確かめる方法は一つだ」
 そう言われるとカイルは息を呑み、その家にそっと手を出した。 そして、その家をしっかりと手に取ると――
「なっ!? なんだ!?」
 なんと、家の内装が一気に崩れ去った!  自分が寝泊まりしていたはずの部屋が! その導線が!  リビングのテーブルも! くつろいでいたソファも!  そしてキッチンにあったハズの夕飯も! カイルはパニックになっていた――
「とにかく、ここを出よう――」

 フレアに促され、カイルは小さな家を大事に抱えながら家から出てきた。 だが、それと同時に――
「なっ!?」
 背後の家は一気に崩れ去り、その場は跡形もなく消え去った!  瓦礫一つ残っていない!
「ははは……俺の家が、なくなっちまったよ――」
 カイルは狼狽えていた。
「貸してみろ」
 フレアはそう言いつつ、カイルが持っていた家を手に取った。 そして――
「前にも言っただろう?  十三式は十二式の内装を踏襲しているのに加え、特殊機能として家自身に圧縮・展開機能と外部からの保護機能、 さらには内部の空間を保つための安定化機能が魔法によって備えつけられているのだ」
 つまり――
「そう、これが十三式の真の姿だ」
 フレアは家に魔法……なのかどうかはわからないが、 何かを込めるとそれはゆっくりと彼女の手から離れ、次第に少しずつ形が大きくなっていった。 そして、かつては自分の家があったハズの場所の上にそれが設置されると、 先ほど消えてなくなってしまったはずのカイルの家と同じ家が現れた!
「お、俺の家!」
 カイルは慌てて家の中へと入って行った。 フレアもそれに続いた。

 カイルは家の中をしっかりと見渡していた。 家の中はまごうことなき自分の家、崩れ去る前の自分の家そのものだった。
「カイル、仕様書だ」
 フレアはテーブルの上にあったそれを取り出すと、その中身を確認していた。 そして、そこには新しいページが。
「新しいページ!?」
 カイルはすぐさま食いついた。その最初のページには直筆でデカデカとこう書いてあった――
「おめでと。これでこの家は立派に十三式を名乗れるようになったぞ。 今までのはエセ十三式だったんだからそこんとこ忘れんなよ、まあどうでもいいけど。 さあ今度からはこの家を片手に好きなところに好きなだけ旅をして回りなさいな。 この世界は”ローア”の刻から冒険者ありきで成立しているんだかんね。 ちゃんと覚えときなさいよ? さあ、それがわかったらあんたも今日から冒険者!  この世界を均すために立ち上がりなさいな! そうと決まったらさっさと”ドミナント”に行く!  ”太陽の祭壇”で旅のお祈りでもして来い! いーい? わかった!? まあどうでもいいけど。 とりあえず以上! byこの家を作った厄介者」
 な、なんだ!? その内容にカイルは圧倒されていた。
「やはり”精霊シルグランディア”が作った家だったようだな。 この書き回しは間違いなく彼女のものだ。 字が綺麗とは評判だが、この書きっぷりもまさに当時のままということだな――」
 フレアはそう言いつつ、キッチンへと向かった。 そこも崩れ去る前の光景と同じ光景となっていて、仕込んでいたはずの夕飯もそのままだった、 彼女は夕飯の支度を続けていた。
 いや、それはいいんだけど、その”精霊シルグランディア”って人はなんとも奇抜な人だな―― カイルはそう思った、書いてある内容といい、十三式の機能をオープンする手順といい―― ”彼女”ってことはつまり女の人が作ったのか、確かに字はとても綺麗なんだが、 書いてある内容が全く伴っていない――