ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第12節 精霊族の女の腕前

 翌朝――いや、流石に夜勤だったのでカイルは起きると12時を回っていた。 だが、なんだろうか、部屋の外から物音がするようだ。 カイルは部屋の外へと出ると、そこにはフレアがキッチンで昼食を作ってテーブルの上に並べていた。
「なんだ、もう起きていたのか、早いな――」
 フレアは答えた。
「いや、私はそもそも一睡もしていない、眠れなかったのだ」
 えっ、どうしてだ――そう訊こうと思ったカイルだったが、原因はすぐに分かったので訊くのを辞めた。 どうしてって? そりゃあ、昨夜の変態ヴァンパイアのせいだろ――昨夜の彼女はあのままずっとイライラしていた。 今は機嫌がよさそうだからこのまま触れずにいたほうがよさそうだな、カイルはそう判断した。
「そ、そうか、無理すんなよな。 それと、一連の殺人事件のことだけど昨夜のうちに話をしといたからな――」
 フレアの知らない間に事件は完了していた、 当然、フレアとしても二度とあいつの件については関わり合いになりたくないだろう――むしろ好都合であった。
「そうか、それならいい」
 なんとも機嫌がよさそうだ――カイルは冷や冷やしていた。
「それよりも――勝手に材料を使っておいてなんだが、食うか?」
 フレアはそう促すとカイルはすぐに飛びついた、 彼女の手料理――女の人が振舞うご飯なんてカイルとしては初めてのことでワクワクしていた。

 カイルは嬉々として喜んでおり、しっかりと味わっていた。
「そんなにうまいか?」
「うまい! うまいよこれ! フレア、最高だよ!」
 それは良かった――フレアは安心していた。 合挽肉のハンバーグにコンソメのスープ、 主食の炊いたお米はアルタリアの文化では一般的なものだがシュリウスでは珍しいものだった、こちらではパン食が主流だからである。 ゆえに箸を使う習慣もないのだが多様化が進んでいるこのご時世、カイルもようやく最近になって箸の使い方を覚えたばかりだった、ちょうどよかったようだ。
「こうやって米だけで食うのは始めてだけどすごいうまいな!」
「この辺の米じゃないからな、アルタリアからわざわざ持参してきた品種だ。 この辺の米じゃあこの香りは出せない」
 そうなのか? カイルはどんどん彼女に話を聞いていた。 なるほど――これは昨夜の件も忘れられるわけか。

 だが、話を聞いていくうちに違和感を覚えたカイル。 食べ終えた後に改めて訊くことにした。
「でもさ、なんかおかしくないか?  それだけの食料を持ち歩くには荷物が多すぎる気がするんだが――」
 フレアは頷いた。
「私が持ち歩いているカバンは”魔法のカバン”だからだな、 まさにシュリウス十三式と同じ技術が使われている代物なのだ」
 なるほど、そういう仕組みならいくらでも持ち歩けるわけか――カイルは考えた。
「家と同じ……結局、家の謎はわからなかったな……」
 そう言われてみれば。 そういえば家の謎と言えば――フレアは訊いた、一睡もしていない間に気が付いたことだった。
「あそこにある柱時計だが――光るのか?」
 そこにはまさしく大きなのっぽの古時計が置いてあった、かなり年季が入っているが、 フレアが気が付いたときには妙に時計全体が発光しており、その光景はとても鬱陶しかったようだ。
「えっ? ああ、あの時計な、そうなんだよ。 よくわからないけど家が出来たときから置いてあったらしいんだ―― 多分据え付けなんだろうけど必ず朝晩の6時きっかしになると光りだすんだ、 それから1分でも経つと収まるんだけど。ただ、時間はいつも正確だし狂ったこともないんだ。 それこそ、昔イタズラをして光らせてやろうと時計の針を弄ろうとしたこともあったけど、全然――」
 フレアは気が付いた、時計を改めて見ると2時と4時、そして8時と10時の文字盤には宝石のようなものがはめ込まれていた。 さらには時計の長針と短針の先にもうっすらと宝石のようなものがコーティング……
「カイル、例の仕様書を貸してみろ――」
 えっ――カイルは慌てて仕様書を取り出すとフレアに渡した。 するとフレアは例のページを広げ、その時計の文字盤に――
「時計のほうにちょうど仕様書を引っ掛けて置けるような突起があったようだ、 まさしくこれに重ねろってわけだ」
 そして文字盤にはめ込まれた宝石と、6時きっかしになったときの長針と短針の位置――
「仕様書のそのページと同じ六芒星ができる時間ってわけか!」
 カイルもいよいよ気が付いた。
「針を弄ることができないのならこのまま6時間待つしかないようだな」
 ということは――これから仕事に行っても6時前までには戻ってきてどうなるか確認しないとダメってことになりそうか、 どうなるかは流石にどうしても見てみたい。