フレアはまさかの精霊族だった。
言われてみれば確かに、この世界には精霊族がいるので目の前にいたってそんなに珍しいことではない。
だが、フレアが訊いた通り、シュリウスにはそもそも精霊族がほとんどおらず、ほぼ人間族で構成されている……人間族以外がいるという話さえも聞いたことがない。
そういうこともあってか、カイルはまさに今生まれて初めて精霊族を見て驚いたのだった。
「おやおやおや、これはまさか、精霊族を見たのは初めてでしたか!
でしたらこの私が精霊族というものをお教えいたしましょう!
精霊族というのはですねえ――」
ヴァンパイアは何気に興奮気味だった。
そもそもこの世界では人間族と精霊族、そして魔族が共存しているのである。
このヴァンパイアについては闇の眷属の一部……また違う存在なので割愛しよう。
さらにはそれらとは別に魔物なども存在している。
だが、それら三種族が共存しているとはいえ、種族の分布については圧倒的に人間族が大多数を占めており、残りが精霊族と魔族という感じである。
ゆえにシュリウスのように人間族だけの都というのが多く、精霊族も魔族も皆無な都というのはさほど珍しくないのだ。
そして、フレアやこのヴァンパイアのような一部の者の間では、
精霊族と言えば世界の管理者たる存在側の種族であるということも知られている。
それこそ自然を操り、それを自らの能力として行使する……まさに魔法というのは精霊族の専売特許みたいなところもある。
「そうです! 世界を管理する側が持つ極上の血!
しかもなんと、世界を管理する側により近しい”エターニス”の血を持っているというではありませんか!
そのようなまさに創造主に近しい存在の血ほど美味の極み! しかもそれが、このような麗しい女性に流れている!
そう……まさにこの女性は至高にして究極の存在! 私もこれほどの胸の高鳴りを感じたことはありません!
今宵はまさに宴の刻! あなたの身体で! この枯れた喉を潤しましょう! そしてあなたと私はひとつになるのだ!」
こいつ……カイルは改めて剣を構えた。
「ふざけた野郎だ! こいつ――」
しかし、フレアは頭を抱えていた、どうしたんだ? カイルは訊いた。
「……いや、その……生理的に無理だ――」
た、確かに……。
憤慨していたハズのカイルだったが、
ヴァンパイアに対するフレアのリアクションがあまりにも意外過ぎて憤慨していたことを一時忘れてしまった。
それで拍子抜けしてしまったカイルはギルドとしても確認しておいたほうがいいかなと思ったことをヴァンパイアに訊いた。
「あんまり魔物同然みたいなやつ相手に話をするのも癪なんだが――訊いていいか?
今まで何人殺し……いや、血をいただいたんだ? その中に人間族以外は含まれているのか?」
ヴァンパイアは驚くほど素直に答えた。
「ええ、それが残念なことに人間以外はおりませんでして――
人間すらいただけなかった場合は不覚にも魔物の血を味わうハメに何度なったことか……。
しかし、そうでなければ私は生きながらえることは叶いません――」
悪は悪なりに苦労しているようだ、なんて世の中だよ。
とにかく、こいつの言っていることが正しければ見つかった遺体の数はどうやら正しい数だということが判明した。
だったら話は簡単――
「なんだか無性に腹が立ってきたな、今すぐぶち殺してやるから覚悟しろ――」
と、いきなりフレアは殺意むき出しで構えていた。
「どっ、どうしたんだ!?」
カイルは焦っていた。
「この気持ち悪い変態野郎を今すぐぶち殺したい……」
そっ、そうか――それなら止める必要はないか、カイルは冷や汗をかいていた。
「ハァーッハッハッハッハッハッハ! そう来なくては!
ですが私はこれでも闇の眷属の中でも上位の存在! そう簡単に敗れはしませんがねえ!
さあどうしますか!? 剣ですかあ!? それとも魔法で――」
が、フレアはすぐさまそいつに接近するとそいつの身体を勢いよく掻っ捌いていた。
「もう喋るな、穢らわしい――」
ヴァンパイアを切り抜いたフレアの剣はまばゆい閃光を放っていた、つまり――
「なっ、なるほど……魔法剣――と、きましたか――」
ヴァンパイアはそう言い残し、そのまま灰となり、静かに消えていった。
「ったく――言わせておけば……帰るぞ! カイル!」
フレアはとてもイライラしていた、怖い……カイルは何も言い返さず、ただ彼女の後を追って来た道を戻っていた。