ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第10節 元凶

 魔物をかわし、さらに奥へ進んでいくと周囲の装いがガラっと変わった。 その装いはまさしく古代王朝の石造りの建築物だった。
「これが旧シュトローア王朝文明の遺跡か」
 もちろんそれでも洞窟内なので辺りは暗い、魔法の光が無ければ視認さえ困難だろう。 だが、ここまでの洞窟に比べて天井が高くなっており、さらには奥行きもあるので魔法の光だけでは限界もあったが、 洞窟には何故か柱の随所随所に松明が灯されていたため、明かりには困らなかった。
 しかし、逆にその雰囲気が暗い印象だった。
「いかにも”出そう”な感じ、いやだな……」
「イヤなら帰ってもいいんだぞ」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
 カイルが言うことに対しておちょくるように返すフレアだが、 いきなり至近距離に不死生物が現れるというのはフレアとしても勘弁してほしいところだった。 精神衛生上、そういうのはあまり良くない。
 この世の中には”不死恐怖症”という精神上の病気が一部では認知されているが、たとえそういう疾患でなくてもイヤなものはイヤだ。 でも、この後、フレアはいきなり至近距離に出てこなくてよかったと胸をなでおろしていた――いや、やっている場合ではないのはわかるが。
「来たよ、ガイコツの番兵さんたちが……」
「まさに呪われた王宮だな」
 カイルがそいつらにビビッているとフレアは呆れ気味に答えた。 鎧をまとったガイコツの兵隊の骨がぶつかり合う独特の音を鳴らしつつ4体も現れる。 4体は多い……が、不死は基本的に群れて出現する傾向にあるため、 この数は不死にとっては比較的少ないほうである。
「つまり、あいつらは数なのか……」
 明らかに1体だけリーダー格の”スケルトン”がいる、さしづめ”スケルトン・リーダー”といったところか。 ほかのスケルトンに比べてひと回り大きく、着ている鎧も偉そうだった。 どうやら援軍を呼んでいるような感じでまさに物量で攻めてくる感じだ。
「かつては将軍かなにかだったんだろうか」
「ならばカイル、前は任せた」

 カイルはスケルトンとぶつかり合い、フレアは魔法を詠唱し始めた。
「不浄なる者への天の裁きを……<ホーリー・クロス>」
 カイルが戦っている後ろから聖なる十字が放たれ、複数の骨を聖なる光で焼き尽くす!
「よっしゃ、今のうち!」
 カイルはそのままリーダーに斬りかかった。 ところが、リーダーはその攻撃をたやすく受け止め、さらに援軍を呼び続けていた。
「強いな……流石はリーダーなだけある……」
 リーダー相手にカイルは苦戦していた。 ハンター9年よりも古の王国の守衛のほうが腕が上ということか。
「カイル、退け!」
 フレアがそう言うと、カイルがタイミングを計って退いた瞬間ホーリー・クロスがリーダーを直撃した!  その魔法を浴びてもがいているうちにカイルはリーダーを蹴り飛ばし、骨をバラバラに砕いていた。
 さらに残ったスケルトンも適当に粉砕し、敵はいなくなった。
「これで……本当に倒せたのか? 不死の魔物なんだろ?」
 カイルは疑問だった。
「”邪悪な魂”と、骨という”器”との”鎖”を断ち切ることができれば浄化は完了するのだ、つまり――」
 要は”器”をバラバラにするか、”邪悪な魂”を直接浄化するかで討伐が成立するということである。 ”器”だけがなくなった場合は”邪悪な魂”が残るが、新たな”器”と”鎖”を結ぶには時間がかかる。 つまり、
「1回2回ならなんとかいけそうだけど……」
「確かにこの数、長居は禁物だな、早く仕事を終わらせよう」
 という話でしかないのである。

 そして、おそらくこの洞窟の最深部らしき場所へたどり着いた。 かつては生贄の儀式が行われていたような場所らしく、恐怖をあおる場所だった。 だが、そこにあの黒い影の正体が待ち構えていた。
 そいつにはカイルはすぐに気がついた。
「まさか、本当にヴァンパイア!?」
 そいつの正体は”ヴァンパイアと呼ばれた存在”ではなく、まさかの正真正銘のヴァンパイアだった。  顔は色白で白髪は長く、黒いマントのような衣装をはおい、口を開くと牙が生えていた。 そいつが口をすすった手を見ると……血にまみれた長い爪が――。
「ようこそ我が王宮へ。あまりに時間がかかったもので来ないのかと心配していたところですよ」
 ヴァンパイアはそう言うとフレアは言い返した。
「ここまでして私の血がほしかったのか? それでスケルトンのお迎えとはなんとも悪趣味なものだな。 しかし、これのどこが王宮なんだ? そもそもお前の所有物ではなかろうに――それではただの盗人と大して変わりはしないな」
「ほう、言うに事欠いて盗人とは聞き捨てなりませんね。 それに歓迎がお気に召されなかったご様子、大変残念です――」
 そんな会話に対してカイルは困惑していた。
「お迎え? 歓迎!? まさか、これって罠か!? もしかして、俺たちはおびき出されたのか!?」
 フレアは何食わぬ顔で答えた。
「さあ、どうだろうな」
 えぇ……どうだろうなって――カイルはさらに困惑していた。 だが、それに対してヴァンパイアは――
「なあに、心配には及びません。 私がほしいのはこちらの女性の血だけですから。残りは貴方に差し上げましょう」
 と言った。それにはカイルも憤慨していた。
「ふざけるな! 血だけの理由で何人もの女性を殺してきたというのか!」
 ヴァンパイアは迷惑そうに言い返した。
「”殺した”とは失敬な! 生きた者の血こそが我々の糧! だから私はあくまで”血”をいただいただけです!  特に麗しき者に流れる麗しき血は極上の糧!  そして今宵……ついに現われたのです! 麗しき女性に流れる”精霊”の血がね!」
 やつの狙いはフレアの予想通りだった。すると、カイルはフレアに驚いた。
「精霊の血!? フレア、お前まさか……」
 フレアはため息をついた。
「なんだ今更……シュリウスには精霊族もいないのか?」