ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第9節 凶兆

 夜の10時、22時に予定していた現場へとやってきた2人。 ギルド側のバックアップ体制は問題なく、固まっているわけにはいかないのであちこちに散在していることにはなるが、 それでも警戒しすぎると犯人が現れず、また別の被害者が現れる可能性もあり、 そのあたりは考えて行動している――要はフレアのみ警戒が薄い中での行動が強いられるということである。 とはいえ、そこは女性ハンターを起用しているほどなので、抜かりはない。
 そこは人の気のない場所であり、若い女性が出歩くには少々危険なほどに闇に包まれていた――女性でなくでも危ない気がするが。 そして、彼女を遠目から眺めているのはカイルただ一人である。
「こんなんで本当に来るのか?」
 30分ほど経って、フレアは目立たない場所でカイルのもとに行くと彼はそう訊いた。
「こんな夜中にいつまでも同じところをうろついているのも変だろう」
 言われてみればそうか、カイルは悩んでいた。
「とりあえず、場所を変えるぞ」
 フレアはそう言った。 そんな感じで他にも危なそうな場所を探し、捜査を開始した。 さらに辺りは刻一刻と深い闇に染まっていく――。

 そして時間はとうとう深夜の2時を回った。 2人はさらに警戒していた、警察からの情報によると、 被害者の多くはこのぐらいの時間あたりからやられているのだという――つまり、そろそろ犯行時刻ということである。
 そんな中、フレアは何者かの気配を感じた。 彼女は立ち止まり、後ろを振り向いた。
「えっ、何かいたってのか!? 何処だ!?」
 カイルはその”合図”を受け取るとそう思ったが、そいつの存在は確認できなかった。 何せ周りはまさに真っ暗闇、視認するほうが難しい状況である。 すると――あからさまに真っ黒なシルエットがフレアにそろっと近づいている様子だけはわかった、これは――
 だが、そいつは急に動きを止めるととっさに逃げていった。
「なっ!? 逃がすかっ!」
 カイルは慌ててそいつを追っていった。
「なるほど、そう来たか、いいだろう――」
 フレアも意味深なセリフを残しつつも追うことにした。

 2人は例の荷物の護送でも通った道までやってきたがそこからさらに道をそれ、 森林の中までやってきた、さっきの影はこの中に――
「あっ! あそこに!」
 カイルはそこにあった洞窟を指さしていた、さっきの影はその中に入って行ったのだ。
「このあたりは旧シュトローア王朝文明の遺跡群があって、この洞窟の中にもそのうちの一つがあるらしい。 ただ、このあたりの洞窟は他に抜け道がないハズだからヴァンパイアは袋のネズミだな」
 だが、フレアとしてはそれはどうでもよかった。 そもそもあの影の狙いはひとつ――フレアには心当たりがあった。 それに、今朝のそれと同じものを感じる――
「……腐臭がする、早々に決着をつけてやろう」
 ということで、中へ入ることにした2人だった。話はそれからである。

 フレアは魔法で発光体を出した。カイルはそれをまじまじと見つめていた――光度は調整されているようだ。
「便利なもんだな」
 岩肌に光が照らされると、そこはまぎれもなく洞窟の中だということがよくわかる。
 しかし、赤い大きなトカゲの魔物が2匹現れると、
「魔物まで片付けてくれるわけではない」
 という話になる。魔物についてはカイルが話した。
「こいつはこの地方独特の”シュリアン・リザード”だ」
 知能が高く、古代竜の末裔とも呼ばれているらしい――カイルは先ほど購入した新品の剣を抜いた。
「速攻で片付けないと面倒なことになるからな」
 2人で1匹ずつ手早くそいつを始末した。 ここはトカゲの巣だろうか、先に進めば進むほど数が多くなっていく。
 そうこうしているうちに次の魔物が。
「カイル、来るぞ!」
「あれは……”ソウル”だ!」
 実体をもたない魔物で、その正体は亡霊だとか。 暴走した力が行き場を失い、やがて意思が宿ったものだとか言われている。 現在のシュリウスではその存在が信じられていなかった魔物だが、 最近稀に出没するようになり、霊魂的なものの存在を信じるしかなくなったといった世界情勢であり、 それがこいつの存在によるものということである。
「あいつは時折見せる”コア”みたいなものが弱点なんだ! そこを突かなければ倒せない!」
 なるほど、カイルもすでに実戦済みか、頼もしい――フレアは上から目線的にそう皮肉っていた。 そう、カンのいい人ならすぐにわかると思うが、この手の魔物は――
「魔法なら直接コアをたたけるぞ<ブラスト>」
 そう――ということで、ソウルはあっさりと撃破された――。
「お、俺の研究の成果が……一瞬で……」
 しかし、あの魔物の状態はまだまだ初期段階の存在、これから先、どんな大物が相手になるのかはフレアでさえ見当つかない。 ゆえに、カイルのその”研究”という姿勢はむしろ正しいと言えるのである。 もちろんそのうえで、あとはいかにして”効率よく”片付けられるかが課題となるのだが。 言うまでもないが、ハンター以外の仕事とやっていることはさほど変わらないことである。
「上には上がいるってことだな、改めて心得ておくよ」
 カイルは肝に銘じておくことにした。 それにしても、このトカゲの巣窟といい”ソウル”の存在といい、まさに1,000年前の話を彷彿させるようだった。
 1,000年前も兆候として今回のような現象が発生したとされている。 そのことは少なくともシュリウスでも有名だった、シュリウスではあくまで架空の話としてだが。 しかしまさか今度も1,000年前の話と同じような危険が、 あのタティウスが対峙した凶獣”ウロボロス”のような存在が登場することとなるのだろうか。