あの後、ギルドから直接フレアに対して指名があった。それはローナスの話とも重なっていた。
「”ヴァンパイア”の犯人を捕まえる?」
パティが詳しい話をしてくれた。
「はい、どうやらその事件の話がうちに”降りてくる”ようなんです」
カイルは驚いた。
「とうとう決まったのか!?」
正式に決まったわけではないが確実にそうなりつつあるらしく、
警察組織としては事件の引き渡しのために準備をしているところなんだそうだ。
だが、ギルドとしては早期解決を求めてなるべく早くから行動に出て早めに解決をし、
世間にハンターズ・ギルドへの信頼を知ら締めさせる狙いがあるのだ。
そこでフレアに白羽の矢が当たったのだが、それは被害者の特徴によるもの……いずれも細身の女性という理由だった。
「なるほど、つまり私は犯人をおびき寄せるためのエサというわけだな」
「ゴメンナサイ、上の人たちが女ハンターがいるのならちょうどいいって……」
パティは申し訳なさそうにそう言ったがフレアは全く気にしておらず、パティをなだめていた。
「平気よ、気にしないで。とにかく、その件は私に任せて」
フレアは夜に備えることにした。
囮ということはバックにフォローする者がいることが前提――その役をカイルが担うことにした。
そのため、まずは2人は武器の店へと赴いていた。各々武器を眺めながら話を続けていた。
「何か、シュリウスに来た途端に厄介事に巻き込まれているな」
「確かにエサ役にされるのは初めてのことだ。だが、別に大したことだとは思っていない」
”アーティファクト”を探しているからには何かしらの厄介事には巻き込まれる――
彼女は旅立つ前から既にこれぐらいのことは覚悟していた。
ということは、アルタリアからここへ来るまでにもいろいろとあったのだろう、カイルは予感した。
「それはますます大変な旅になりそうだな」
「そうでもない。いろいろといっても悪いことばかりではないからな」
フレアはそう言うと、そう言えば、カイルの旅の目的について訊いた。
「そういえば、世界に何があったのか確かめたいとか言っていたな」
そう、カイルの動機はそういった話だった。
「ああ、突拍子もないことだったかも知れないが、実は個人的な理由があるんだ」
実は、カイルの父親は業界では比較的有名なハンターなんだそうだ。
父親の本名を聞いてもピンとこないが、通称”タティウス”と言われれば知っている、腕利きの魔物狩りである。
タティウスは多くの魔物、如何なる凶獣をもなぎ倒していった。
彼に斃せない魔物はいない、伝説の悪魔と呼ばれた邪竜”ウロボロス”の依頼が彼にきた理由だった。
もちろん一人で戦ったわけではないが、あの焼け野原に最後に残ったのは伝説の悪魔とタティウスだけ。
しかし、その時の光景をフレアはしっかりと覚えていた、その当時、彼女はエターニスにいたが、そこでの話だった。
確かに、彼はウロボロスを斃した。
最後のあの赤き破光<クリムゾン・パルス>の中に人が一人立ち向かっていったんだ。
あの後ウロボロスは崩れ、立ち向かった勇者はウロボロスを後にすると、彼もまた倒れてしまった。
カイルはその話を聞いていた。
「ありがとうな、親父の勇姿を見届けてくれて――」
話を切り替えた。
「実は、伝説の悪魔の存在もここじゃあ迷信でしかないんだ。
親父に来た依頼ってのはただの”凶獣退治”という名目だったらしい」
当時、タティウスが渡された資料の中身は”とりあえずウロボロスと呼ばれるもの”だったそうで、
現地に行って確かめるほかなかったようだ。
「それで――お前はウロボロスの存在を信じているわけか」
「俺は……むしろ信じたい、親父と違えたあいつの存在を信じたい――」
話を戻すと、そのウロボロスは実は例の魔導士と”アーティファクト”の1,000年前の話にも登場していた。
だから、もしかすると”アーティファクト”の話もありなんじゃないかとカイルは考えた。
それらを完全否定すると――だったら親父が相手にした魔物は何だったのか。
カイルが確かめたかったのは敵の存在なのだそうだ。
もちろん、”アーティファクト”や1,000年前に何があったのかも興味があることは言うまでもないが。