そうこうしているうちにお昼になっていた。
カイルとフレアは1階のオープンカフェで昼御飯を食べることにした。
「どうもこんにちは!」
そこへ小柄な女がやってきた。誰だろう、フレアは訊ねた。
「うちのウラカタさん、事務の娘だよ。パティ、なんかあったのか?」
カイルはそう言うとパティは答えた。
「いえ、アルタリアから女ハンターが来たって話を聞いたんで探していたんですよ」
「それは……私のことか?」
どうやらフレア自身をご指名だったようだ。
「はい! はじめまして! えっと、フレアさん……ですよね?
私、パトリシア=レイナンドって言います! パティって呼んでください!」
カイルはそれを見ながら言った。
「人気者はつらいですねぇ~」
無視。それよりも、この私に何の用だろうか、フレアはそう思いつつ訊くがパティは興奮していた。
「女性でハンターやっているなんて言うから会いたかったんです!」
実際、フレアの地元ではごく普通なのだが、それでもシュリウスでは珍しいようだ。
「サインなら書かないぞ」
「あ、いえ……でも、差し支えなければお昼をご一緒させていただいてよろしいでしょうか!?」
フレアはにっこりとした面持ちで答えるとパティは昼食を買いにカウンターのほうへ歩いて行った。
「人気者はつらいですねぇ~」
カイルは再びそう言うと、フレアは深くため息をついた。
「次は殴るか、もしくは先日よりももっと強い魔法弾をお見舞いしてやってもいいんだぞ」
「ややや! 冗談冗談!」
カイルは悪びれた態度で全力で首を振っていた。
ただ、それにしてもハンターになるなんて――カイルはそう言って話を続けた。
それを言ったらそもそもカイルのほうこそ何故ハンターになったのだろうか?
フレアがハンターをやっているのは何も特別なことではない、理由は多くのハンターとそう変わらないハズである。
フレアは女だが、それ以外は特にカイルとは変わらないハズである。
「……それもそうだよな、男だからとか女だからとか、シュリウスにはそういう固定観念があるのがいけないのかなあ――」
カイルは悩んでいた、確かにそうらしい。
一方でアルタリアでフレアのようなものは”普通”である。実力があれば上に立てる、ただそれだけである。
しかし、それでも男女の違いというのは割と大きいところがあり、
それはむしろ男性のほうが力があるからいい……ということよりも、
女性の依頼者の立場にしてみれば女性のほうがいいということも多く、
男性のほうが圧倒的に優位というわけではなく女性ハンターの需要もかなり多いのだそうだ。
しかし、シュリウスではハンターと言えば男という固定観念だけが根強く残っているのが実情で、
無条件でハンターと言えば男と考えられているのだそうだ。
パティが戻ってきても、そのような話をずっとしていた。
「実は私もハンターになりたかったんですけど、採用されたのが事務でして……」
カイルはため息をついていた。
「シュリウスじゃそうなるか……。
この辺じゃ仕方ないけど、アルタリアぐらいだときちんと採用してくれたのかもな」
しかしパティは――
「いえ! 多分私の実力が至らなかったんです! だって、みなさん……カイルさんも全然違いますもん!
多分、フレアさんも相当の実力の持ち主なんだと思います! だから私もみなさんに負けないようにがんばります!」
なんとも前向きだった。
「すみません! そろそろ時間なので失礼します!」
パティは話も昼食も終えた後、早々に仕事に戻って行った。
「ああいう人、どう思う?」
カイルはフレアに訊ねた。
「私は好きだな」
ですよね。憎むべき点が一切見当たらない。
2人はギルドの事務所に戻るとローナスが待ち構えていた。
「おおう、戻ったな!」
「今度は何だ?」
フレアは呆れ気味に言った、何か言いたそうだ。
「”ヴァンパイア”の犯行タイミングだよ」
ローナスは嬉しそうに話した。
どうやら犯行は1日に1人を襲撃し、そしてその2日後に犯行を行うということを突き止めたらしい。
「でも、もしそうだとしたら……」
そう、次の犯行は今夜ということになる。しかし、それでは矛盾が生じることにフレアが気がついた。
「だとしたら、被害者の数が足らないような気がするが?」
ローナスは得意げに答えた。
「ノンノンノン、お嬢さん、まだ死体が発見されていないってことも考えられるぞ。
それだったらまだ説明がつくんじゃないのかい?」
カイルが気がついた。
「ん、言われてみれば確かに、これまで見つかった遺体の死亡推定時刻はいずれも確実に2日おき、
または4日おきの夜になっているな……4日ってことはその中間の発見されていない遺体があるってことか?」
「そう考えれば説明がつくことにならんかな?」
ローナスはそう言った。なるほど、それならわかりやすい。
「それで、それを私らに聞かせたかった理由でも聞こうか」
ローナスの話はここからが本題だった。