最初にハンターギルドに入ってきた時のイメージは見た目通りのいい感じの美女で世間知らずなお嬢様、
それから彼女が発言した後から今回の決闘に至るまでの間に抱いたイメージが男勝りの堅物女だったが、
カイルが負けた後の発言から以後は、見た目通りの優しさのあるいい感じの女性であった。
そのエピソードはこうだ、彼女はあくまで”ドラゴン・スレイヤー”がほしいのである。
そして決闘により、彼女はそれを手に入れた。
しかし、そうは言ってもその剣はカイルの父の形見の品……
彼女はそれを汲んでくれたのか、しばらくは彼がその剣と別れるまで時間をくれたのだった。
しばらくというのは――彼女はこの辺りにあるはずの”アーティファクト”の情報を得るため、
しばらくはシュリウスに留まることにしており、そしてここを立ち去る間までだそうだ。
しかし、彼女の優しさはそれだけに留まらなかった。
その日、カイルはそのまま剣を持って帰り、いろいろと考えたことがあった。
そしてその翌日、彼は彼女を呼び出し、昨日と同じ場所でその考えを彼女にぶつけたのだ。
「ダメか?」
その考えというのは――
「まさか、そう来るとは思わなかったな――。しかし、その様子ではダメと言ってもついてきそうだな」
そう、この女の旅について行ってもいいかという話である。
彼女は各地の”アーティファクト”というのを探している、カイルは別に信じてはいない――いや、信じていなかったというのが正しいか。
しかし、カイルとしては信じるとか信じないとか、そんなことはどうでもよくなってきていた。
いや、むしろこれからこの女が立ち向かおうとしている邪竜の存在、いわゆる”凶獣”と呼ばれる存在を考えると、むしろ信じたかったのである。
具体的な話をしたかったので、カイルは彼女を自分の家に呼んだ。家に着くまでの間、お互いのことを改めて話すことにした。
「そういえば、まだ名前を知らなかったかな。俺はカイル、カイル=ティンバルだ」
「私はフレア、フレア=フローナルだ。アルタリアのハンターだが出身はラムルという田舎だ」
ラムル……確かに田舎ということは容易に想像できた、そんなところ聞いたことがないからである。
しかし、それでも遥か遠い北東の雪国のどこかにあることだけは間違いないらしい。
そしてカイルは玄関を開けると、レディ・ファースト……彼女を先に家に入れてあげた。
それにしても、彼女はこの家の作りを何故かよく知っているようだ。
「なるほど、これがシュリウス建築様式十二式というものか、未だに存在していたとは」
そう、カイルの家は伝統的に有名な作りの家なのだ。だが、少し違った。
「でも、うちは本当は十三式なんだそうだ」
すると、フレアはなんだか感心している様子だった。
これは過去のシュリウスの政府から十三式とお墨付きを受けているため間違いない。
仕様書にも当時の政府が押した公認印もあるから疑う余地はないのだが、
普通に住む分には十二式と十三式の区別はつかないので彼女の話を聞くまでは、正直どっちでもよかったカイルだった。
「シュリウス建築様式十三式はその昔、非常に重宝されていた。
しかし時代の波と共に次第に姿を消していった、簡易式のテントが発達していったからだな――」
簡易式のテント? なんでテントの話? その理由について、カイルはとても驚かされることになった。
「十三式に住んでいるくせに知らないのか?
十三式は十二式の内装を踏襲しているのに加え、特殊機能として家自身に圧縮・展開機能と外部からの保護機能、
さらには内部の空間を保つための安定化機能が魔法によって備えつけられているのだ」
ちょっ、ちょっと待て! カイルは焦っていた、なんでそんな機能が必要なんだ!?
圧縮・展開機能って……コンパクトなサイズになったり大きくなったりするってことか!?
それじゃあまるで家を手軽に持ち運ぶことができると言っているみたいじゃないか、
それこそ簡易式のテントに――って、まさか!
「察しがいいな、その通りだ。
やはり十三式に住んでいるだけのことはある」
ま、マジかよ……。しかし、この家でそんなことはしたことがないような気がするが?
「ああ、だろうな、どうやらその機能がオープンになっていないらしい。
特殊機能を使いたいのなら、まずはその機能を使用できる状態にしなければいけない」
どうやって?
やり方は仕様書にある”あるページ”をどこかに重ねるだけだそうだ。
しかし、その”あるページ”と、重ねる場所がわからなかった。
それはお手上げだな……いや、待てよ? そういえば――
「ガキんちょの頃にその仕様書でイタズラしていたことがあったな。
なんていうか、ちょうど真ん中ぐらいが袋とじになっていたような気がして子供心に気になっていたことがあったんだ。
それを見つけて両親を驚かせたことがあったっけ」
仕様書は全部で88ページで、44ページと45ページの間にあった。
その間のページには様々な文様があるが、フレアが注目したのは真ん中に大きく描かれている方陣だった。
「これは……六芒星だな、つまり、この家のどこかにある六芒星のものに重ねればいいということか」
しかし、いろいろと探したがそれでも重ねる場所まではわからなかった。