ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第4節 女ハンターの目的

 女ハンターの話は続いた。
「”ドラゴン・スレイヤー”と”パンドラ・ボックス”の所在だけはかなり明確な情報があったから来たのだ」
 ”パンドラ・ボックス”っていうのも”アーティファクト”らしいな。まさか、本当に”アーティファクト”のことを?
「だろうな、無理もない。だけど信じるかどうかはお前次第だ、別に強制はしない」
 それはいいんだけど、それよりどういうことなんだろうか、 ”アーティファクト”を探すのはいいんだけどその目的は? というか、探しているということはつまり――
「ああ、実はその――その剣を譲ってもらえないかと思ってな――」
 やっぱりか。 確かに”アーティファクト”で特別な代物ってことだったら譲るっていう選択肢もあった、信じるかどうかは別にしても。 あの黒い竜を斃してしまったほどの品、そしてそれによるハンターズ・ギルドでの出来事…… 面倒は避けたかった、だから面倒の元でもあるこれをこの女に持って行ってもらえればこんなに簡単なことはない。
 しかし、それでもカイルとしては譲れない理由があった、そう――あくまで父親の形見なのである。 だからそう簡単に渡すことはできなかった。
 そもそもさっきも言ったように、本当に”アーティファクト”の”ドラゴン・スレイヤー”なのか!?  それだけが払拭できていない。すると――
「間違いない、それは”アーティファクト”の”ドラゴン・スレイヤー”だ。 その剣から竜殺しの強力なオーラを感じる。 昨日、邪竜に対して効果を発揮したばかりだから、強い力を感じるのだ」
 だから、それがなんのこっちゃということなんだけど――しかしこの女、発言からしてもなんだか只者ではなさそうだ。

 女ハンターは懇願していた、どうしても譲ってもらえないだろうかと。 そもそもこれがほしい理由ってなんなのだろうか、カイルはその理由を訊いた。
「邪竜を斃すためだ。 普通の武器ではほとんど役に立たないらしい、だから”アーティファクト”の力を借りたいのだ。 もちろんそれだけの強敵、その武器が最後まで無事という保証はない―― それでもそいつが必要なのだ」
 なるほど”ドラゴン・スレイヤー”というだけに目的も竜退治――わかりやすい話だった。 ただ、使い終わった後でカイルの手元に戻ってくる可能性が低いため、 貸してほしいのではなく譲ってくれってことなのか。
 うーん、それは――なおさら渡したくない……

 女はなかなか諦めない。 とはいえ、カイルとしても昨日の邪竜なんかはまさにレアケース、 一生で最初で最後の竜殺しの力……今後はこの剣の能力を持て余す気がする…… それなら譲るという選択肢はまったくないわけでもない、形見でなければ。
 だから、どうしてもほしいというのなら一つだけ方法があった、それは――
「力づくで奪ってみるか?」
 カイルは提案した、信念をかけた正真正銘の真剣勝負――彼の形見に対する思いに打ち勝てるのかを提案した。 すると、意外なことに――
「望むところだ」
 乗ってくるとは思ってもみなかった、女ハンターだから諦めるかアプローチを変えてくるかすると思ったのだが。 カイルとしては力勝負ということで、むしろ好都合である、所詮は女……これですんなりと諦めてくれるだろう、そう思っていた。
 だがしかし、その考えは非常に甘いものだったとは――

 シュリウスのハンターもナメられたもんだ、シュリウスはハンター業界でもレベルは圧倒的に高いほうなのに。 カイルは完全に相手を見下していた。 それにカイルの持つ女ハンターのイメージの通り、 スピードを伴ったテクニックでの戦いで挑んでくることはだいたいわかっていた。
 しかし、パワーではどうか?  明らかに男であるカイルのほうが上であるのだが、 この女は意外なことに思った以上にパワーもあり、あんまり気を抜くと破られることは明白だった、 だからカイルとしてはマジメに相手をしないといけないことについては予定外だった、なんとも油断も隙もない相手である。
 とはいえ、あんまりいじめるとかわいそうなので、これ以上はいたずらに引き延ばしをしようとはせず、 ちょうどいいところで決着をつけようと考えていたカイル。 彼の大きな剣と彼女の細めの剣とが何度かぶつかり合い、その頃合いを計っていた。
 綺麗なお顔に傷をつけるのは流石に可哀想だが、 意外なほど強い相手の細腕なら遠慮なしに攻撃が仕掛けられるだけある意味楽と言えば楽と言えそうか。 よし、このまま女のガードを突き破って攻撃だ!
 しかし――女はその攻撃をいとも簡単にバック・ステップで反射的に交わした。 いや、それ自身はカイルも計算のうちである、 だからその隙を突いてこのまま攻撃を繰り出せば相手は強力なパワーにねじ伏せられ、成す術もないことは明白だ。 だが、それは女にとってカイルをハメるための罠だった。
「悪いな、このタイミングを待っていた<ライト・アロー……>」
 すると、女がかざした左の手から強烈な光の矢が放たれ、カイルの身体に刺さった!
「ぐはっ! なっ、なんだ、これはっ――」
 いや、訊かなくてもわかる……これは”魔法”だっ! しかもこの魔力――すごい力だ……

 魔法はこの世界でも使う人はまあまあいるっていう認識だが、 シュリウスのギルドのハンターで使い手はまずいない、ゼロではないが魔法の文化レベルが低いからだ。 その代わり力(腕力)がものをいう――そんな世界である。だから盲点だった、そうか、魔法という手があったな……
 しかし、こんな魔法に撃たれるのはマズイ、魔法に馴染みのない生活だから魔法に対する免疫も低い、 だからカイルは……このままだと――
 しかし、女は――
「<ライト・ヒール……>この程度の傷ならこれで治せるだろう。どうだ、動けるか?」
 動けるって? そんなはずが――というカイルの期待に反し、彼は動けた……これは一体!?
「やはり、お前の家系は”ドラゴン・スレイヤー”を代々守ってきた血筋のようだな」
 約1,000年前から”アーティファクト”を守ってきた魔導士の血筋、彼はその末裔だと言いたいのだろうか。 だから、その血を引き継いでいるのなら魔法に対して強い……そういう理解なのか、 あえて彼女が強めの魔法を使った理由はそういうことだそうだ。