ドラゴン・スレイヤー ~グローナシアの物語~

第1章 シュリウスの都

第3節 竜殺しの力

 そして、カイルはそのまま家路を急ぐことにした。 せっかく時間通りに終わったのだし、それに最近は地味に多忙気味だ。 さらに昨日のドラゴンの一件もあるし――正直言うと、昨日のドラゴンの件が一番堪えている。 だから、さっさと帰ってゆっくりと休みたいところだ。
 しかしそうは問屋が卸さなかった、 カイルの願いもむなしく――背後から明らかに誰かが近づいてきている…… いや、誰かはわかっている、追ってきたのはあの女ハンターだ、一体どういうことだろうか。

「よう、どうした? 道に迷ったのか?」
 女に声をかけたのは町を出てからしばらくしてからのことだった。 それまでは帰る方向が同じなんだなと思っていて気にも留めなかったのだが、 流石に町の外まで出てくるとそういうわけでもなさそうなので、 カイルは後ろを振り向き、訊いてみることにしたのだ。
「道に迷ったわけではない、お前に用があるだけだ」
 意外といえば意外かもしれないけれども、ついてくるぐらいだからそんな気はしていた。 しかし、この俺に何の用だろうか、カイルはそう思った、心当たりはない。
 すると、女は彼が驚くことを言った。
「昨日、邪竜を斃したそうだな。お前ならやってやれるだろう」
 なんでだ!? なんでこの女は俺がドラゴンを斃したことを知っているのだろうか!?  カイルは動揺しているが、平静を装って答えた。
「俺が……ドラゴンを斃した? 何を言っているんだ?  確かに、どうしてドラゴンが斃されたんだろうな、 でも、面倒ごとが1つなくなって清々したもんだな……俺としてはそれぐらいのことでしかないけどな」
 だが、この女ときたら彼がドラゴンを斃したと思い込んでいるようで何を言ってもダメそうだ。 事実といえば事実だが、今日のハンターズ・ギルドでの出来事でもわかるように面倒に巻き込まることは確実、 それだけはなんとしても避けたいところだ。
「第一、なんで俺が斃したと思うんだ?」
 カイルは率直な意見を言った。 それこそ、あいつは伝説の邪竜と呼ばれる存在―― そんなやつが一介のハンターの手に負えるようなやつかといえば怪しいもんだ。
 ”伝説”と言うのはただの過去の栄光で、 その当時は一世を風靡したような存在かもしれないが今ではただの骨董品、あくまで過去の存在でしかない。 とはいえ、それでも当時から現在に至るまでに依然として影響力を持つものもあり、 今回のドラゴンについてはこれまでの被害状況や返り討ちにあったハンターの数から考えると、 明らかに後者の現在に至るまでに依然として影響力を持つタイプの”伝説”の存在、 だから普通に考えて斃したなんていうことは考えにくいのである。 もちろん、カイル自身が何故斃せたのかは今でもまるでわかっておらず、混乱している状況である。
 しかし、女の回答はそんな問題を払しょくできそうな内容だった。
「お前が携えているその剣の特殊効果のせいだと思っている。 私はその剣を探すためにこの地にやってきたのだ、 シュリウス地方に伝わっていると云われている”アーティファクト”、”ドラゴン・スレイヤー”をな」
 ”ドラゴン・スレイヤー”……それを言われるとカイルも辛いところがあった。 言われてみれば確かにそれなら筋が通る……”ドラゴン・スレイヤー”即ち”竜殺しの剣”。 竜族に対して無類の効果を発揮するとされている、 それこそまさに伝説の剣――確かに、だからあの邪竜さえも簡単に斃せたのかもしれない。
 いやいやいや、待て待て待て。 確かに理屈は通るけれども、そもそも”アーティファクト”!?  カイルは悩んでいた、どういうことだ!? ”アーティファクト”ってあの”アーティファクト”なのか!?
 実際、”ドラゴン・スレイヤー”の件についてはわかる、 カイルの携えているものは竜殺しの力をかつて持っていたとされるブツであることを。 ゆえに、あの時この剣を振るったのはまさに願掛けのつもりでやったこと―― だから、それに関しては心当たりはないこともない。
 だが――先ほども言った伝説の定義――こいつはあくまで前者のその当時は一世を風靡した”伝説”のただの骨董品。 カイル自身にとってその剣は父の形見でしかないのだが、 父は当時挑んだ竜に対してこの剣の竜殺しの力を発揮できずに破られている―― つまり、既に竜殺しの力は失われているという理解なのである。 そしてもはや過去の栄光を思わせるようなフォルムはしておらず、ただの錆びた剣でしかないのである。
 だが、それでいて、さらに”アーティファクト”っていうのがなおも納得のいかない要素だ。 ”アーティファクト”ってあのおとぎ話に登場する”アーティファクト”のこと? この女、あんな話を信じているのか?  それに、もしこれが”ドラゴン・スレイヤー”だったとして、 どうしてこれがその剣だと見抜けるのだろうか、謎はとにかく尽きない。
 とにかく、カイルにしてみれば冗談きつい話である。