ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第3章 真に邪悪なる存在

第26節 ヴァルナジアと賢者

 この世界の空を脅かしているナムキアソ、 この世界の空を縦横無尽に駆け巡っている飛行物体―― かの者に触れた者はたちまち身を焦がしてしまう――そのような物体だった。 だが、そいつはフェリンによると、まさに意思無き物体―― 縦横無尽に飛び回るしか能のない物体なんだそうだ。
「ど、どうして母さんがあんなものを発動したんだ!?  そもそも、発動したのならなんとかならないものなのか!?」
 フェリンは首を振った。
「無理よ、あれは彼女の命と直結しているもの、だからあれが滅びれば彼女の命の灯も尽きることになる。 いえ、あいつを斃すことは容易ではない、だから――あれが滅ぶことを願うのなら――」
 そ、そんな! まさか――
「母さんの……命をってか!?」
 フェリンは何も答えようとしなかった、そうなのか――。
「それに、あんなものを発動することになったのはまさにジェラレンドのせい―― あいつが恐ろしいことを考えなければこんなことにはならなかった!」
 涙――そんな彼女の様子に流石にライズも何も言うことができなかった。

 その当時の話――
「ワイアンドに話がある、呼んではくれぬか?」
「はっ、直ちに!」
 ヴァルナジアのナジール王、当時の兵士長はワイアンドに王の部屋へ来るように伝えた。

「私をお呼びであると伺いましたが……」
「ああ、そうだ。扉を閉めてこっちに来るのだ」
 ワイアンドは言われるがままに閉め、王の近くの椅子に座った。
「どうかなさいましたか?」
「それが――テザンドがな、お前のことを王国転覆をはかっているものとして国外追放すべきと私に助言をしてきたのだ」
 するとワイアンドは何か考え込んでおり、王に言った。
「なるほど、おそらく例の件が原因でしょう、 相手によってはそう捉えられても仕方がないというような状況を作り上げましたゆえ、 テザンドはそれを好機ととらえ、私を追い出したいのでしょうな」
「しかし、あれはむしろ我が国を思っての行動! 私としては賞賛に値する行動と思うたのだが―― そうか、あやつには気に入らん行動だったということか。 いや、それならあやつを――」
 ワイアンドは首を振った。
「それはおやめになられたほうがよろしいかと存じます。 テザンドはこの国の他の重鎮たちには非常に顔が聞きますゆえ、 例え陛下がテザンドに何をしたとしてもやつにはいくらでもやりようがあるというもの―― 現に、テザンドは実際に商会から手を引いたばかり―― だというのに、それでもなおテザンドの影響力が残っているようです、なんとも恐ろしい――」
 そう言われて王は悩んでいた。
「確かに、やつには不思議なぐらい力があるようだ、不用意なことをするべきではないということか?  しかし――なるほど、裏には”七魔性聖”がついているかもしれぬということは、まさかその手の力を操る者が!?」
「それはわかりませぬが――しかし、闇が深いということで言えば間違いないでしょう――」
 闇が自分の国に迫っているのか……王は悩んでいた、いや、このままでは国だけでなく――
「ワイアンドよ、どうにかならぬものか?」
「陛下、残念ですが、私の力ではどうにも――」
「左様か、まあ――私としても何かを期待しての問いではないのだ、 近頃はこの国だけではなく、他の国にも不穏な動きが見えると聞く、氷山の一角に過ぎぬのかもしれんな――」
「陛下、希望はあります、この世界には”時の英雄”と呼ばれるものがおります、必ずや――」
「そうであったな、やはり、ワイアンドほどの賢者をこの国に招待できたことを誇りに思うぞ。 しかし、それなのにテザンドは、それを快く思っていない――」
「いえいえ、私なんぞ、ただの一介の賢者にすぎませぬ。 それを陛下ほどの方にお招きいただけることほど恐縮なことはございませぬ」

 すると、今度は王の部屋へとメレア姫が入ってきた。
「訊きましたよ、ワイアンド様! あのテザンドに何かを言われたのですって!?」
「おお、これは姫様。いえいえ、私は、別にテザンドから直接何を言われたわけではございません。 しかし――しばらくはこの国にいられなくなるかもしれませんな」
「そんな! 私、ワイアンド様のためなら何でも致しますので、何なりと!」
「姫様、それには及びません。むしろ、姫様にまで迷惑をかけるわけにも参りません」
 すると今度は、どこからともなくセクシーな女がその場に現れた。
「なんの相談をしているのか、この私にもお聞かせ願えるかしら?」
「なんだ!? 誰だキサマは!」
「誰って、だいたい見ればわかりそうな気がするけどね」
「まさか、お前はヴィラネシア!?」
 ワイアンドはすぐさま気が付いた。
「あの”七魔性聖”のヴィラネシアだというのか!? 何の用だ!?」
「何の用だなんて、つれないわね。だから言ってるじゃないのよ、 なんの相談をしているのか聞いてみたかっただけよ、ジェラレンドを追っているついでにね」
「ジェラレンド、だと!? やつと何か関係が!?」
「大アリよ、私というよりも、この国にいるテザンドってやつがね」
「テザンドがジェラレンドと関係がある!? まさか闇というのは――」
「そうよ、テザンドはジェラレンドの手下よ。 そしてテザンドはジェラレンドの意のままに事を運んでいるわ。 あんたたちが危惧している通り、この王国はおろか、世界ごと破壊するつもりなんでしょうけど、 肝心のジェラレンドの姿が見当たらなくってね、それであちこち探していたら、あなたたちに出くわしたってワケ」
「つまりお前は――ジェラレンドをどうする気だ!?」
「そうね、簡単に言えば私の目的はジェラレンドを倒すこと、ただそれだけよ。 当然、この王国がどうなろうと知ったこっちゃないけれども、 あいつの手下によってこの国がひどい目に合うのだけは許せないわね」
「つまり、ヴィラネシア様は、私たちに協力してくださる、ということですか?」
「やだ、そんな、お姫様とあろう方からヴィラネシア”様”だなんて……よしてちょうだいよ。 私はヴィラネシア、ヴィラネシアでいいわよ」
「ではヴィラネシアさん! 私たちに協力してください!」
「メレア、正気か!? この者はこれでも”七魔性聖”と言われる存在、この世界の脅威なる存在なのだぞ!」
「いいえお父様、私は、この方はそんな人ではないと思います! 一目でわかりました!  この方は悪い方ではない! だから私たちに協力してくださると!」
「ふふっ、それは流石に買いかぶり過ぎよ。 私は”七魔性聖”の一員、強力な力の持ち主、力を持ったものはそれを使わずにはいられない―― 私もそのうちの一人、だから――」
「だから――悪いことに使おうとは考えたりしないですよね?」
 メレア姫のその時の目の輝き、ヴィラネシアは忘れたことがないという。それに、何よりも――
「えっ、あなた――その顔、どうしたの!?」
 ヴィラネシアは姫のもとへ即座に駆け寄ってそう言った。
「えっ、私の顔がどうかしましたか?」
「こっ、これはなんと! どういうことか!?」
 王は非常に驚いた。
「なっ、これはまさか、奇跡!? いや、奇跡と言っていいのかはわからんが、いやはや――」
 そう、それほどまでに、2人の顔はそっくりだったということである。