ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第3章 真に邪悪なる存在

第21節 いい女と男

 ライズは異変に気が付き、テントの外に出た。
「うーん、なんだろう、なんか妙な胸騒ぎが――」
 すると、そこには何者かの黒い影が!
「誰だ、お前!」
 そいつはまさかの”陽炎のクオラール”だ!  広く面が割れているわけではないが、そいつの風貌、 なんとなく古風な感じの野武士……背中には大きな刀を背負っている―― 間違いない、噂に聞いた”陽炎のクオラール”とはこいつのことだ!
「なんだキサマは? 俺はただここに用があっただけでお前には興味はない。おとなしく寝てろ」
 こいつ――だが、そういえば……ライズはもう一つの異変に気が付いた!
「ん? フェリンは? フェリンはどこに!?」
 彼女がどこにもいない! テントの中で寝ていたはずなのにどこへ!
「は? 知らねぇよ。その辺で遊んでるんじゃねぇのか?  それよりも俺は忙しいんだ、お前たちのかくれんぼに付き合っている暇なんてない――」
 ライズは傍らの剣を引こうとすると――
「おっと、そいつはやめたほうがいい。お前の身のためにもならないし、俺も今はそういう気分でないんでな。 フェリンってのはお前の女か? だったらこんなところで油売ってないで、さっさと探しに行ったらどうだ?」
 こいつ、このまま行かせてもいいものかどうか――いずれにせよ、勝ち目のある戦いとは思っていないライズ。 すると――ライズが思いもよらない反応をしたクオラール。
「だよなぁ! やっぱりいい女なんだよなぁ! 俺もわかるぜ! いい女のために動きたいっていうお前の気持ちがなぁ!  やっぱり、いい女のためだったらなんでもしてやるべきだよなぁ!  ってなことで、俺もいい女のためにやらないといけねぇことがあってとてつもなく忙しいんだよ!  だから悪りぃけど、そこを退いてくんねぇかぁ?」
 な、なんなんだこいつ……これまで出会った”七魔性聖”にしては何とも妙な奴だった。 言われてみればあのヴィラネシアもある意味似たような奴だった、 以前にも”七魔性聖”というやつにはいくらか対峙したことはあるが、最近出会う”七魔性聖”はとにかく変な奴が多い、 なんだか拍子抜けだなぁ……ライズは悩みつつ、クオラールに道を開けていた。
 とにかく、それならフェリンだ、彼女が心配だったライズは早速探すことにした。

 だが、そのフェリンはというと、見晴らしの良い丘の上に一人佇んでいた。
「フェリン――」
 ライズはフェリンのそばに寄った。
「あっ、ごめんね、心配かけちゃった?」
「いやいや、それより、大丈夫か?」
 ライズは先ほど”陽炎のクオラール”が現れ、事の一部始終を話した。
「そうだったんだ。でも、私はずっとここにいたけどクオラールは来ていないよ」
 そうか、ならばよかった、ライズは安心した。
「ねぇライズ、この先どうなると思う?」
 どうだろうか、それは誰にもわからない。
「不安か?」
「うん、いろいろとね――」
「だったらわざわざここまで来なくたってよかったのに」
「そうもいかないよ。それに、お城にいたら私、きっと大臣に――」
 それもそうか。
「その場合はやっぱり俺の出番ってわけだな」
「私のことを、守ってくれるのね」
 フェリンを守る、これまでそうしてきたのだからこの先もそうしていくべきだ! ライズはそう心に決めた。
「ねえライズ! ありがと★」
 フェリンは可愛いポーズでウインクしつつそう言った……滅茶苦茶テレる、 つーか普通に好きです、ライズはフェリンに落ちていった。

 次の日の朝、ライズは早々にテントをたたみ、レサレフト遺跡付近までやってきた。 そこには話に聞いていた通り、集落があった。
「もしかして、ここか?」
「みたいね。早いところワイアンド様を探さなきゃ」
 フェリンは早速ワイアンドの家を探しに行った。ライズもそれに続いた。

 特になにも特徴のないただの貧しそうな印象の集落、 この手の集落ならこの世界にはいくつかあるし、特別な見どころもない。 だから目新しいものや特にこれと言って取り上げて言うほどのものもないのだけれども、ここにはワイアンドがいる、 唯一、特別というのはそれぐらいだろうか。とにかく、そのワイアンドを探すためにあちこち探しまわっていた2人、すると――
「何ィ? ワイアンド様だァ? もちろん知ってるぜ、ここの賢者様のことだろ?」
 間違いなく、ここにいるという情報が得られたが、しかし――
「だが、今は外に出てていねぇのさ。 でもま、ちょっとしたらすぐに帰ってくるハズだから、少し待っていたらどうよ?  なんなら、俺たちが話を付けてきたっていいぜ?」
 なんとも親切な人だった。
「話ってどうつけるの?」
 フェリンは訊いた。
「どうっつってもだなぁ……俺ら、一応顔見知りからなぁ……そんぐらいのことでしかねえが――」
 なるほど、一応納得できなくもないか。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
 フェリンは嬉しそうに言うと男もまた得意げに答えた。
「もちろんだぜお嬢ちゃん!  村の西側のほうに岩場がある、10分経ったらそこに行ってくれ、ワイアンド様を呼んできてやるぜ!」

 2人は指定された場所に既にやってきていた。 岩場は狭いが座って時間をつぶすにはちょうどいい場所だった。
「ねえライズ、お願いがあるんだけどいいかな?」
「えっ、お願い? そろそろ10分経つぞ?」
「わかってる。でもその前にどうしてもお願いしたいことがあるんだけど――ダメ?」
「後でもいいだろ? 今じゃないとダメなのか?」
「うん、どうしても今じゃないとダメなの、ごめんなさい。 ワイアンド様は私が引き受けるからいいかな、ね? いいでしょ?」
 フェリンに対して折れたライズは彼女に言われるがままに岩場から早々に立ち去った。