ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第3章 真に邪悪なる存在

第19節 エンジニアたちの憂鬱

 とある場所にて――そこはまた別の場所で起こっている出来事である。
「うーん……なんだよ、眠いんだよ―― ようやく眠りについたってのになんで電話なんか寄こすんだよ――」
 電話ってことは……それなりに文明の発達した場所であるとも言えるわけだ。 しかし、その男はベッドの布団の中に潜り込み、そのままうずくまりながら寝ていたのだった。
「いや、言いたいことはわかるんだけど――でも、流石に元担当じゃないとどうにもならなくってな」
「だからってなんで俺なんだよ、他の誰かにでもいいだろー?」
 男はブツブツ言いながらそのまま眠ろうとした、しかし、次の相手の一言で、すぐに気が変わったようだ。
「悠城じゃないとダメなんだよ、そもそもトラップの送信元がアルファ・サーバだから!」
 アルファ……悠城と呼ばれた男は落胆していた。

 悠城と呼ばれた男――佐藤悠城は慌てて上着を着ると、どこかに出かけ、呼ばれた場所までやってきた。
 悠城の右手にはスーパーのレジ袋らしきものと、左手には飲み物を飲むコップがあった。
「家って近くじゃなかったっけ? どこ行ってたの?」
「見りゃわかるだろ、コンビニだよ。メシも食ってないんだから別にいいだろ」
 聞いた男は納得していた。
「徹夜作業明けだったのに叩き起こして本当に申し訳ない――」
「まったくだよ、とんだブラック企業だな――」
「いや、本当にごめんってば、 お偉いさんたちがどうしてもっていうから――一応見るだけ見てもらいたくて呼んだんだよ、 何かわかったらすぐに帰っていいから! シフトはまた調整するように伝えておくしさ!」

 話は改まった。
「んで……アルファからトラップ?」
「そうそう。でもさ、これを見る限りだと先日もアラートが出ているように見えるんだけど?」
「そうだよ、別に珍しくもなんともない――ここ最近どころか半月も前からたびたび出てるぞ、スクロールしてみろよ」
 そう言われて端末を確認すると――
「ちょっとちょっと! ずっと警告が出ているじゃん!」
 しかし――悠城は冷静だった。
「そうだ、黄色も赤もずーっと出てるんだぞ。 一応、その都度パッチ当てたりなんかしたりとやってるんだが、 それでステータスクリーンになったかと思えば、すぐさま黄色の警告が出るし、 そもそもパッチ当てるときだって何度かエラーが出たりと、苦労してんだからな」
「そうなのか……って、それって報告しているの!?」
「当たり前だろ。 けど、お偉いさんは”アルファロア・ファンタジアなら仕方がない”という理由で放置しているって聞いた。 だから何をいまさら目くじら立ててんだって俺は思うけどな」
 相手の男もまた悩んでいた。
「ますますブラック企業かよ、泣く子と上司には勝てないって、マジかよ……」
 悠城は続けた。
「つってもなあ、確かにアルファロア・ファンタジアはサービス開していないから、結局そういう決断になるんだろ。 某C国や某A国の投資家さえも見向きもしなかったシステムだからなぁ――」
 相手の男も考えた。
「大昔のシステム、金にもなんなければただひたすらメンテだけが大変、 となればそんなオチになるのは必然ってことか――」
 悠城は頷いた。
「ま、当時の話だけどな。その後の行方は隼人も知ってるだろ?」
 隼人……七海隼人は頷いた。
「もちろん。そもそもアルファが作られたのはPC-98とか88とかそんな時代だったんだよね?  といってもそんな時代知らないけど」
「俺も知らないよ。でも、アルファが完成したのは2000年? そのぐらいだったっけな?」
「そう言ってたかな、でも――その時代からこれがあるんだよね、 誰しもが見向きもしなかったこのアルファの中に――」
「そう、アルファは時代を先取りしていたんだ、クラウドの仕組みはもちろんだが、 AIの仕組みまでもが既にこいつの中に完成された形で――」
 それは時代先取りしすぎだな。 しかし、案外そういう隠れたコンピュータの中にそのような仕組みがあるとは、 もしかしたらこういうのは氷山の一角だったりするのかもしれない、つまりそれだけ数多の天才たちがいたことになりそうだが――
「案外そう言うことなんじゃないの?  お偉いさんが目くじら立ててんのも、これの中には実は現在にも通づるようなテクノロジーがあったから注視せよって――」
 隼人は言うと悠城は納得した。
「どう言い換えても結局お偉いさんの気まぐれでしかねえじゃねえか」
 それはそうなんだけど――隼人は冷や汗をかいていた。 だがしかし、なんとも進んだ時代の文明での話、一体ここはなんなんだ?

 2人は話を続けていた。
「とりあえず、アルファはうちの国の神様から譲り受けた最高傑作、 こいつのおかげで、そのノウハウを他の現役で稼働しているサービスに転用しているわけだ、 まさに国宝クラスの代物なんだから大事にしないといけないらしい」
 悠城は皮肉っていた。
「そういえばその神様、当時はただの自称エンジニアだったらしいが今はどうしているんだ?」
「アルファをうちに売却した後、その金で結構手広くやっているって聞いたぞ」
「なるほど、結局は世の中金なんだよな――」
 皮肉がすぎる……。
「擁護すると、”当時”は一応”自称エンジニア”だったんだからな、そりゃあいいものができれば金にしたくなるだろうさ」
 確かに。
「ところで、アラートはどうするんだ? このままでいいのか?」
 隼人は訊くと悠城は答えた。
「そうだな、せっかくお偉いさんが後ろ盾になっているんだからこの際もうちょっと調べてみるか」
 後ろ盾?
「そもそも半ば放置されているようなシステムだからな、つまりはこいつを見ている奴は誰もいないんだろ?  だったら久しぶりにこいつにかじりついていてもいいよなってこと」
 隼人は頷いた。
「確かに業務で弄られることはないな。 なら、俺も興味があったことだし、ちょっと見てみるか――」