ラスト・プレリュード ~運命の黄昏 忘れられし物語~

第2章 妖艶なヴィラネシア

第15節 甘い夢の誘惑

 ヴァナスティアのある島、フィルフォンド島。 トライトからはまず北のグリンブズを目指し、そこから船を乗り換えて大陸西側の”アルカティア”を目指す。 以前”ハーハラル”に赴いた時はグリンブズからそのまま北へと向かったが、今回は引き続き船旅である。
 そして、”アルカティア”からさらにフィルフォンド定期航路に乗り換えると、 北西の海を延々と航海し、フィルフォンド島へとようやくたどり着いた。 ここまでにかかる時間、ゆうに1か月はくだらない。
 ただ、ここからがまた問題で、フィルフォンドの町を過ごした後は、 非常に多い階段の数と、果てしなく長い道のりのヴァナスティア登山道が待っているのである。 確かにこれが修行と言われれば頷ける話だ。
 その前にまずはフィルフォンドでの宿泊となるが、 ここでもどういうわけか、ライズはフェリンと同じ部屋で泊まることになった。 というより、これまでの船旅もずっとフェリンと一緒の部屋で泊まっていた。
 特に、船の上での初日はこんな感じだった。
「ライズはドスケベだから私と一緒の部屋で寝るのがうれしいんだよね?」
「だから違うって!」
「違わないじゃん。 だって、ライズってば、だいたい私の胸をじっと見てんじゃん♪ だから、本当は触りたいんじゃないかな~♪」
 そんなことはない! ただ気になるだけ! ライズはそう言い張っていたのだが――
「そうだよ! 確かにその通りだよ! 俺は男! 当然だろ! あぁ~なんて素晴らしい眺めなんだァ♪」
 というようなドスケベ変態エロライズの心の声がなんとなく聞こえてくるような……
「頼むから、もうその話はよしてくれ――」
 と、なんとかしのごうとしていたライズ。 だが、フェリンはライズのことをすぐにからかってくる、とにかくいろいろと勘弁してほしかった。

 そしてとうとう、フィルフォンドの宿では彼女のワナにはまってしまった――
「うふふっ、じゃあ、先にシャワーを浴びてくるからね★  でも、いくら私の裸が見たいからって覗いたりしちゃダメよ♥」
 最初はそんな感じで、それからだいたい1時間弱、フェリンがお風呂から上がってきた。
「うふふっ、どう♪ 私って、すごくセクシーでしょ♪」
 フェリンはバスタオルだけを身にまとい、その上からローブ姿で、ライズを悩殺しにきた。
「いっ、いや、もう参った――」
 これにはライズも流石に参っていた。
「も、もう入ってきてもいいか?」
 ということで、次はライズがシャワーを浴びてきた。

 そしてシャワーから上がってきたライズ、彼女は何故かニコニコしながらこちらを見ていた。
「何だ?」
「うふふっ、別にー?」
 そんなセリフにライズは気になっていた、セリフだけでなく彼女のパジャマ姿も――襟元からこっそりはだけている姿も――
「よーし、じゃあ、もう寝ちゃおうか?」
「そうだな、明日の朝も早いしな」
 ということで、さっそく2人はそれぞれのベッドの中へと入っていった。 そして、ライズが異変に気が付いたのはそれからだいたい30秒後のことである。
「ん、なんだ――」
 なんていうか、とてもいい香りがライズの鼻の中を、 そして頭の中を――身体中を満たしていった――なんていうか、とってもいい香りだ――
「ねえ、どうかした?」
 彼女が話しかけてくる、だが、とてつもなくいい香り、とても甘くって、なんていうか…… 嗅いでいるだけでとても幸せな気分になれるいい香り――
「とっても嬉しそうね!」
 ああ、とってもうれしい――幸せな気分だ――ライズは無我夢中だった。
「幸せ?」
 ああ、世界一、幸せだと思っているぐらい幸せだよ―― というか、フェリンの声を聴いているだけでも幸せになってきた――
「ふふっ、でしょうね。だって、ライズが嗅いでいる香りはこの私の身体の香りだもんね♪」
 ……へっ? それってどういう――
「ライズの顔もとにあるそのタオル、さっきまで私が身にまとっていたバスタオルだからね!  すぐに乾かすの大変だったんだけど、乾かした甲斐があったね♪」
 ……やられた。しかし抗うことはできない、ライズはそのとてもつもなくいい香りに包まれていた――。
「ふふっ、これが魔女の悩殺術ってところね。 さぁ、このまま私の香りに包まれてゆっくりとお眠りなさいな♪」
 ふぁい! フェリン様ァ! ライズは、まさにフェリンの魅惑の抱擁の中へと完全に落ちていった――

 朝、あのヴィラネシアの一部を退けるほどの魔力を持つ彼女の誘惑にかかって寝ていたライズだったが、 起きたときは普通に理性を保っていた。
「あっ、おはようライズ! 夕べはよく眠れた?」
「ああ、夕べは楽しかっ……いや、よく眠れました、おかげさまで……って、完全に変態だな俺――」
 ライズは照れていた。
「ちょっとぐらい変態だっていいじゃん、男の子なんだしさ。 私、ライズが変態でも全然構わないよ。それでライズ、本当は私のこと触りたいんでしょ?」
 それは勘弁してくれ。それとこれとは流石に違う。 こんなんばっかりで、そのうち本当に彼女に取り返しのつかないことをしてしまいそうだ。 そんなことをしたら――いや、さすがにダメだろう……ライズは悩んでいた、まさに悩殺である。 しかし――まさか、本当にそれはそれでアリなんじゃないか!? だって、彼女だって俺に気があるし!?  大いに期待を寄せていたドスケベ変態エロライズだった。

 そして、フィルフォンドの宿を出た。 さて、これからヴァナスティア登山に向かうわけだけれども、何やら嫌な予感がしていた。
「なんだろう、とても静かだ――」
「うん、なんか変だね――」
 2人で周囲を見渡していた。そして――
「ねえ、あれ何かな?」
 それは眼下には広い海が広がっていて、その海の中に大きな黒い影があった。
「なんだあれは!? なにかいるのか!?」
「ん、ちょっと待てよ、あれは――」
 するとその時、なんとその黒い影から大きな魔物が!
「なっ、なんだこいつは!」
 その魔物の姿は、まるで巨大な海蛇のような姿をしていた。 蛇の頭部には、大きな羽根、全体的におどろおどろしい印象のフォルムだった。
「まっ、まさか――ウロボロス・ドライブ!? 何故、こいつがこんなところに!?」
 えっ? フェリン!? ウロボロス・ドライブって何だ!? ライズは焦っていた。
「えっ? あっ、ハーハラルでは知られている、すべてを破壊するという伝説の魔物なのよ!  あれが持っている力は一部の”七魔性聖”の比ではないって言われているの! あれがいるってことは、あれの狙いは――」
 狙い? 何やら嫌な予感がしてきた。
「ライズ! デュライアが危ない!」
 デュライア! そうか、あの魔物はフィルフォンドの聖獣デュライアを破壊する気なのか!